見習い騎士と治癒魔法使いと魔物
「……いないね」
わたしがそう呟くと、隣を歩いていたミアも困ったように辺りを見回した。
「うん。もう少しいると思ってたんだけど……」
わたしたちがフィールドワークを始めてから、しばらく経つ。
場所は王都から少し離れた山の麓。遠くには大きな山が見えていて、その手前には草原や林が広がっている。今日の課題は、魔物の発見・討伐共にポイントが貰える。
だから、わたしたちの班が立てた作戦は単純だった。危険な魔物とはなるべく戦わず、弱い魔物をたくさん探す!
……そのはずだったのだが。
「本当にいませんわね」
エレオノーラさんが腰に手を当てて、辺りを見回す。
「こんなことなら、最初から討伐点を狙った方がよかったんじゃないか?」
そう言ったのは、騎士科のレオンだ。赤茶色の短い髪をした、3人の中では一番背の高い男の子で、騎士科の3人をまとめているのも彼だった。
「でも、強い魔物と戦って怪我したら、それだけ時間も取られるだろ?」
隣を歩いていたフィンが答える。少し癖のある金色の髪が、歩くたびに揺れている。
「それに、まだ始まったばかりだしね」
最後にそう付け加えたのはノエル。灰銀色の髪を低い位置でひとつに結んだ、騎士科の女の子だ。さっきからわたしたちよりも地面や茂みの方をよく見ている。
聖女科のわたし、ミア、エレオノーラ。そして騎士科のレオン、フィン、ノエル。合わせて6人。騎士科の3人が前に立ち、聖女科のわたしたちが後ろから着いて歩く。
先生は「ここは低級の魔物が多く存在していて、毎年1年生はここに来るんですよ」と言っていたのだけれど……。
「……やっぱりいないよね?」
わたしがもう一度言うと、エレオノーラさんが小さくため息をついた。
「それは先ほども聞きましたわ」
「だって、本当にいないんだもん!」
魔物を探す授業なのに、魔物が見つからない。これは、わたしたちにとってかなり大きな問題だった。
「仕方ない。もう少し奥まで進んでみよう」
わたしたちはレオンの提案通り、さらに足を進めるのだった。
「あれ?ここ。川が少し濁ってない?」
「ほんとだ。最近は晴れ続きだったはずだけど……」
「上流の方で雨でも降ったんじゃないか?」
わたしたちは川のそばを探索する。
「いたよ! あそこの茂み!」
フィンが声を上げた。視線の先にいたのはドロドロとした粘液を纏った緑色の魔物だ。
「間違いない。あれはスライムだね」
ミアが教科書をめくって確認する。
「どうしますの? とりあえず発見したから1ポイントにはなりますけれど」
「危険性は少ない魔物だから倒した方がいいんじゃないかな?ここまで魔物に全然出会えなかったし」
わたしがそう言うと騎士科の3人は頷いた。ノエルが猫のようなしなやかな動きでそっとスライムの後ろに忍び寄る。
「おい! こっちを見ろ!」
フィンがスライムの正面に立った。驚いたスライムは粘液を撒き散らして逃げようとする。しかし……。
「やあっ!」
ノエルが真上から剣を突き刺す。しばらく悶え苦しむような様子を見せて、スライムは動かなくなった。
「うん。俺たちの動きも問題なさそうだ」
(すごい……! 魔物の気を引いている間に攻撃するなんて……!)
1年生とはいえ、彼らも騎士としての訓練を積んだ人間だ。だからこそここまで連携の取れた動きができるのだろう。
「それにしても、魔物がこんなに少ないなんて」
わたしはスライムの死体を木の枝でつつく。ミアは「触っちゃダメだよ」なんて言いながらも、「発見するだけだとあまりポイントは稼げそうにないね……」と気にしている。
「そうだね。ここからは数多く発見することよりも、討伐をメインで考えよう。」
「1位を取るならそれがベストだと思いますわ」
「それなら林の方はまだ探していないし、そっちに向かわないかい?」
「うん。私もまだ余裕がある。」
剣に付いたスライムの粘液を拭き取りながら、ノエルもそう答えたのだった。
「あそこ! なにかいない?」
周囲を注意深く観察していたノエルがいち早くそれに気付いた。わたしもそちらの方向を見ると白く、ふわふわとした毛玉が木の影にいる様子がわかった。
「あれは……うさぎ?」
「いやうさぎにしては大きい。魔物だ」
「すごい! 魔物にもこんなにかわいいのがいるなんて!」
「可愛らしいことには同意しますが、討伐しなければなりませんわね」
騎士科の3人は剣を抜いた。わたしたちはサポートするために杖を構える。
白い……うさぎ……? 魔物……。
わたしの中で何かがカチリと繋がっていく。何かに気付かなくっちゃ。でも何かって?
その答えにたどり着いた瞬間、わたしは大きな声で叫んでいた。
「伏せて!!」
一陣の風が目の前の空気を切り裂く。みんなの頭のあった高さの木には鋭利な傷が付いていた。
「あれは首狩りバニー! 脚の先にナイフみたいな爪が付いてるの! 低級の魔物なんかじゃない!」
首狩りバニーが宙高く飛び上がる。そして空中で大きく身体を捻った。
「ミア!」
あれの視線の先はミアだ。ミアは突然の出来事に固まっている。防御魔法を展開しようとするが間に合わない。
「はあああっ!」
……ガンッ!
レオンがミアの前に飛び出し、剣を振るった。首狩りバニーの爪とぶつかり、硬い金属同士がぶつかるような音を立てる。
「ミア! 大丈夫!?」
「私はなんとか……」
まずい。このままだと全滅するかもしれない。どうする。どうすればいい?
頭を悩ませていると、5人がわたしを見ていることに気付く。そうか!首狩りバニーについて知っているのはわたししかいないんだ!
「レオンさん! 首狩りバニーの正面に立って引き付けてください! フィンさん!ノエルさん! 左右に回り込んで! 絶対に後ろには立っちゃダメ!」
3人はわたしの指示を聞いて動き始める。うさぎの姿をした魔物はギリギリと歯を鳴らして威嚇した。今だ。やるしかない。
わたしは指を唇に押し当てた。
――ピィィィィィッ!
突然の指笛に反応した首狩りバニーは動きを止める。
「今です! 攻撃して!」
3人は剣を振り上げた――。
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