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聖女科と退学と方向転換

 新入生全員の適性検査が終わった後、わたしは先生に連れられて校舎の中を移動していた。

(どうしよう……)

 一歩一歩と進むたび、足が石になったみたいに重くなっていくのを感じる。


『今後の進退についてお話があります』

 さっき、先生に言われた言葉が頭の中をぐるぐる回っている。

(進退って……。やっぱり退学になっちゃうの⁉)

 ああ。ヴィオレッタ姉様はどんな顔をするだろう。あなたには失望しました、とか言われちゃうのかな?そもそも、無事に学園から出られるの?このまま魔族ってことがバレたりしたら……。


「さあ、着きましたよ。席にどうぞ」

 いつの間にか、小さな部屋にたどり着いていた。部屋の真ん中には小さな木製の机と向かい合うように置かれた椅子がある。

 先生に促され、わたしは大人しく椅子に座る。

「聖女科適性検査の件ですが――」

「は、はいっ!」

 握った拳が震えているのを感じる。怖い。どうしたらいいんだろう……。


 そう思っていると、先生が優しく声をかけてくれる。

「そう緊張なさらないでください。不安がらなくて大丈夫ですよ」

「え?」

「確かに、やり方は指示したものでありませんでした。ですが、治癒魔法については問題ありません」

 その言葉を聞いて全身の力が一気に抜けた。

(よかったぁ……。何かやらかしたわけじゃないんだ)


 メガネを掛けた穏やかそうな先生は、私の目を見て微笑んだ。

「むしろ逆です。あなたには聖女としての高い素質があると判断しました」

(……はい?)


「新入生で杖や詠唱もなしで傷を完全に癒してしまうなんて! 聖女科が開設されて以来、聞いたことがありません! 誰かに教えていただいたことがあるのですか⁉」

「い……。いえ! わたしは3年生の先輩がやったことを真似しただけで……」

「一度見ただけで治癒魔法を⁉ 素晴らしい!」

 饒舌になった先生の勢いは止まらない。


 先生はわたしの手を取る。

「あなたには聖女科への適性があります! リリンさん、聖女科への転科を推薦します!」

「……え?」

(ええーっ⁉⁉)

 思ってもみなかった言葉に頭が真っ白になった。

 聖女科⁉

 わたしが⁉

 サキュバスなのに⁉


「無理です‼」

 上手い言い訳を考えるよりも先に口が動いた。

「不安ですか?」

「そりゃそうに決まってるじゃないですか! わたし聖女になんかなれません!」

 サキュバスが聖女になるなんて聞いたことがない。落ちこぼれのわたしにだってわかることだ。


「あなたが聖女に選ばれたというわけではありませんよ。皆さん聖女候補というだけです。聖女科を卒業後、治療魔術師や聖騎士に就く者も少なくありません」

「そうなんですか?」

「ええ」

 先生は話を続ける。

「聖女科にはあなたと同じようにたくさんの同級生や先輩たちがいます。皆、一歩ずつ学んでいくのです。そう心配する必要はありませんよ」

「それは……、そうかもしれませんけど」


 たくさんの『同級生や先輩』……?

(待って。聖女科に入れば、一般科よりも任務に必要な情報を集めやすくなるんじゃない? 次期聖女になる人を見つけられるのでは?そうすればみんなに認めてもらえるかも……⁉)


「わたし、やります!」

 そうだ。やるしかない。きっとこれはチャンスだ。

「おお。素晴らしい! ではこちらで手続きを進めますね」

「はい!」

 そうと決まればがんばらなきゃ! でも……これで合ってる……よね?

 急に湧いてきた心の不安を見ないようにして、わたしは部屋から退出した。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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