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聖女と適性検査と治癒魔法

『今年度から新入生全員を対象に聖女の適性検査を実施します』

 代表の先生らしい人がそう言うと、中庭に集められた新入生たちがざわついた。


「お静かに。今回の検査は、聖女候補を早期に発見することを目的としたものです。検査の結果によっては、今後の進退について個別にお話しすることになります」

 先生はわたしたちを見渡し、話を続ける。


(進退……?)

 わたしの頭の中でその言葉はやけに嫌な響きがした。

 進むか退くか。それって……。冷たい汗が背中を伝っていくのを感じる。

 それって……。

 もし何の適性もなかったら――。

(退学させられちゃうってこと!?)

 せっかく3カ月も必死に勉強して入学したのに! それどころか、ここを追い出されたら任務だって大失敗だ。

(ど、どうしよう……! なんとかして聖女の適性検査ってやつを成功させなきゃ!)

 

 ああでもない、こうでもないといろいろ考える。そこへ、先生たちに連れられて学園の制服に身を包んだ一人の女子生徒が私たちの目の前に立った。

「彼女は聖女科3年生のセレスティアです。今から皆さんに治癒魔法の実演をしてもらいます。しっかりと見ておくように」

 セレスティアと呼ばれた人は、優しそうな雰囲気の綺麗な人だった。それに、なんだか光り輝いてみえるような……?

(見とれている場合じゃない! しっかり目に焼き付けなきゃ! 検査に落ちたら全部台無しなんだから!)

 わたしは軽く自分の頬を叩いてから、一番見やすい位置まで移動する。

「では始めます。」

 セレスティアさんはそう言うと、小さなテーブルに置かれたナイフを手に取った。

(何をするんだろう……)


 彼女は躊躇することなく、自分の白い指先をナイフで切りつけた。

「あっ! 血が……!」

 思わず声が出てしまう。わたしの言葉に反応して、セレスティアさんがこちらを見た。そして心配しないで、というように微笑む。それから――。

 ゆっくりと目を閉じた。すると、指先がキラキラとした光に包まれていく。

「傷が……!」

 誰かがそう叫ぶ。光が少しずつ弱くなるのとともに、傷は完全に塞がってしまった。この光景を見ていなければ、とてもさっきまで傷があったとは思えないくらいだ。


「これが治癒魔法です」

 セレスティアさんが小さくお辞儀をすると、あちこちから大きな拍手が起こった。

(すごい……! これが治癒魔法……! じゃなかった。わたしにはできないよ! そんなこと姉様は入学前に一言も言ってなかったのに!)

 などとあれこれ考えていると――。


「ありがとうございます。セレスティアさん。では、これより一人ずつ検査を行います。」

 先生たちが何かを運んできた。何本もの杖と、薄い本のようなものだ。

 

「皆さんにはこちらの初心者用の片手杖と、治癒魔法の詠唱文を――」

(治癒魔法……。傷を癒す方法……。何かないかな)


「――使用していただきます。もちろん、初めから完全に傷を治す必要はありません。わずかでも――」

(待って。だったらサキュバスの再生能力を使えば……?)


「――聖魔法魔力への適性が確認できますので――」


「では、前で熱心に見ていたあなたからにしましょう。お名前は?」

「え?あ! リリンです」

「はい。リリンさんですね」

 先生が急にわたしを指定したので、思わず声が裏返る。

(しまった! 一番前で見ていたからやる気があると勘違いされた!? どうしよう……!)

 

「さあ、こちらに。先ほど説明した方法で治癒魔法を試してみましょう」

(どうしようどうしよう……!)

 先生が何か言っている気がするが、耳に入ってこない。

 こうなったらやるしかない……! ナイフを手に取り、指先に刃を当てる。

(ちょっと怖いかも……!)

 手が震える。それでもおそるおそるナイフを握る手に力を入れると、小さな傷ができた。真っ赤な血が少しずつにじんでくる。


「えいっ!」

 指先に魔力を込めると、みるみるうちに傷が塞がっていく。よかった。再生能力はちゃんと成功したみたい。

 残念ながらキラキラした光は出なかったけれど、これなら及第点のはずだ。


「先生! どうですか?」

 わたしは先生の顔を見た。しかし……予想していたのとは異なる表情を浮かべている。

「あなた……杖や詠唱もなしにどうやってそれを?」

「杖?詠唱……?」

 何のことだろう。そういえばどうやって検査を乗り切るかに夢中すぎて、途中から先生の話を聞いていなかったような……?

「先ほど説明したでしょう? 皆さんには初心者用の杖と詠唱文の書いた紙を使っていただくと。それに、傷を完全に治してしまうなんて……」

 セレスティアさんも目を見開いて言う。

「すごい! 杖や詠唱もなしなんて……! 私でもできるようになったのは3年生になってからなのに!」


「リリンさん。検査がすべて終了した後、少し残っていただけますか?」

「え……?」

「今後の進退について、お話があります。」

「……っ!」

 (やっぱり退学だーっ⁉)


 どうやら――。

 わたしは何か大きな失敗をしてしまったようです。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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