サキュバスと任務と学園
わたしはレグナリア王立学園の巨大な正門をしばらく見上げていた。
この門をくぐれば、新しい生活が始まる。
そして何よりも――。
(絶対にサキュバスだってバレないようにしなきゃ……!)
「一般科入学予定のリリンさんですね。結界門をお通りください」
「は……はい!」
わたしはおそるおそる、一歩、二歩と足を踏み出す。この門には、魔族や魔物の侵入を防ぐための結界が張られている。強い魔力反応を感知する仕組みだ。
普通の魔族なら、通ることなんて絶対にできない。
そう、普通なら――。
(お願いお願いお願い……! どうか何も起こりませんように……!)
「……?」
門の中央辺りまで来たが何かが反応する様子はない。
「どうかされましたか? 後ろの方も待っていますので、早く中にどうぞ」
「え?あっ、はい!」
守衛さんに促されて、わたしは慌てて門をくぐり抜ける。
振り返ってみても、結界が反応したような様子はなかった。どうやら、無事に通ることができたようだ。
(よかったぁ……ヴィオレッタ姉様の言った通りだ……)
生まれて15年。
サキュバスなのにろくに魅了も使えず、羽や尻尾も生えていない。魔力だってほんのわずか。姉様たちみたいに変身魔法も使えない。ずっと役立たずの落ちこぼれだと思っていた。
まさか、そのおかげで人間の王立学園へ潜入することになるなんて……。少し前のわたしには想像もできなかった。
(結界は大丈夫。あとは……)
わたしはそっと頭に触れた。小さな2本の角は、高く結んだ髪の中にきちんと隠れている。
「うん。こっちも大丈夫そう」
魔王補佐官である、ヴィオレッタ姉様からわたしに使命が与えられたのは約3か月前。
「あなたには人間の学園に潜入してもらいます。」
人間と魔族の戦いは1000年以上繰り返されている。今の戦争だけでも始まってから100年以上。そんな中、半年前に人間の国でとある予言が広まった。
――『聖女出現の兆しあり』と。
それは人間の占星術師だけが見た未来じゃない。魔王領の占星術師たちもほぼ同じ時期に同じ星の兆しを観測していた。
「聖女が現れれば、魔王様は討たれる可能性があります。」
姉様はいつものように穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
「あなたには学園に潜入し、レグナリア王国よりも先に次期聖女となる人間を見つけてもらいます。」
そうして3カ月。
ヴィオレッタ姉様にこれでもかと勉強を叩き込まれ、どうにか入学試験を突破できたのだった。あとは予定通りに正体を隠し、一般科の生徒として目立たないよう次期聖女候補を探す。そのはずだったのだが――。
「今年度から新入生全員を対象に、聖女の適性検査を実施します。」
「……え?」
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