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手紙と告白と悩み

「これ、なんだろ?」

 わたしは机の引き出しの中に入った真っ白な封筒を取り出した。

「ミア。わかる?」

 隣の席のミアは首を横に振る。どうやらわたしのところにしか入っていないようだ。

「開けてみたらどうかな?」と言われ、封を切ることにした。

「何なに?『リリンさん。放課後、裏庭に来てください。伝えたいことがあります。騎士科1年生、ルークより』だって」

 差出人の名前に心当たりはない。伝えたいことってなんだろう。わたしは首を傾げる。

「どう思う?」

 隣を見ると、ミアはぶるぶると震えていた。

「ミア。どうしたの?」

「それって……」

「それって?」

「こ……告白だよ!!」

「告白!?」

 わたしは思わず椅子からひっくり返りそうになる。わたしに!? 告白だなんて……。

「何かの間違いだよ!」

「でも! リリン宛てって!放課後裏庭に来て欲しいって! こんなの告白だよ!」

 ミアは食い入るようにわたしの手元にある手紙を見ている。

「告白ってどうしたらいいの!? わたしされたことないからわかんないよ!」

「私も……。でもダメ!この人知らない人なんでしょ? こんな人信用できないよ!」

 ミアが手紙を破こうとするのを必死に止める。

「確かに知らない人だけどダメだよ! 本当に告白かもわからないし!」

「でも……」

「ミア。どうしたらいいのかわからないから助けてくれない?」

 そう言うと、ミアは渋々といった様子で頷いた。


「リリンはこの人のこと知らないんでしょ?」

 ミアの質問にわたしは首を縦に振る。休み時間、わたしとミアは机を合わせて作戦会議を行うことにした。真剣そうな顔で話し合うわたしたちをクラスメイトは不審なものを見る目で眺めている。

「リリンはこの人とどうしたいの?」

「どうしたいって言われても……」

 そんなことを言われてもわからない。まずどんな人なのかも知らないわけだし。

「どうしたいっていうのは、放課後一緒にお話したり、週末にデートしたいかってこと!それから……」

 ミアの顔がだんだん赤くなっていく。その後の言葉は小さくて聞き取れない。

「うーん……。知らない人とそういうことをするのは微妙かも。知ってる人ならいいかもだけど」

「じゃ……じゃあ!『お友達からお願いします!』なんて言われたらどうするの?」

 お友達かあ……。それなら別にいいかも。男の子のお友達はいないけど、仲良くなれたら色んなことを教えてもらえそうだし。そう考えているのが伝わったのか、ミアの顔は赤色から今度は真っ青に変わっていく。

「どうしたの? ミア。わたしとこの人がお友達になったら嫌?」

「だってぇ……」

「うん?」

「うわーん!」

 ミアは子供のように喚いて、机に突っ伏してしまう。

「リリンに新しい友達が出来たら、私と遊んでくれなくなっちゃう!」

「ええ!?」

「私、リリンがいなくなっちゃったら寂しいもの!」

「いなくならないよぉ……」

「だから断ってきて!お願い!」

「うーん……」

 そもそも告白かどうかもわからないよ? と言おうかと思ったが今のミアには届かないだろう。わたしは彼女に落ち着くようにとハンカチを渡して、一人で考えることにした。


 中庭には人がまばらにいて、ベンチもそこそこ空きがある。わたしはそのうちの一つに座ると、腕を組んだ。

(うーん……。告白かぁ)

 帰省中、姉様たちに『人を好きになること』について聞いて回ったのを思い出す。姉様のことは好き。ミアも友達として大好き。じゃあこの人はどうだろう。

「好きになることには理由はいらないと言われたけど……」

 今のわたしには誰かを恋愛感情として好きになることは理解ができない。

「よし、決めた!」

 わたしは勢いよく立ち上がると、ミアのいる教室へ戻ることにした。


 ――放課後。

「リリンさん! 僕と付き合ってください!」

 子リスのようなきゅるきゅるした瞳に赤みがかった茶髪の男の子。ミアが言った通りの展開になってわたしは「あー……」と思わず声を出す。

「気持ちは……とっても嬉しいの。こんなふうに誰かに好きになってもらったことがないし」

 そう言うと、男の子は期待した顔でわたしの目を見つめる。

「でも……、あなたのことよく知らないし、それにわたしにはまだやらなきゃいけないことがたくさんあるの。だから……ごめんなさい!」

 誰かの好きを否定することは心臓が潰れそうなくらいに苦しい。だけどわたしには大切な任務がある。それに、恋愛がわからない状態で告白を受け入れるのは相手にとってきっと酷いことだろう。

 胸が締め付けられるような思いで彼を見る。

「そっかぁ……。ごめんね!僕も急なことを言って困らせちゃったね!」

 少し傷付いたような顔をして笑う。「ちゃんと答えてくれてありがとう!」と手を振って彼は去ってしまった。

 これでよかったはずだ。たぶん。


「――リリン。聞いた? 騎士科のルークって人の話」

 あの日から2週間後、わたしとミア、そして何人かの同級生たちと共に教室で会話していた。

「ああ。あの人ね。何の話?」

「商業科の女の子と付き合い始めたらしいよ!」

 その一言に、わたしは再び椅子からひっくり返りそうになる。

「そんな……」

「……? リリン?」

「そんなぁ! わたしだって色々悩んだのにぃ!」

 わたしの悲痛な叫びが教室に響き渡った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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