火球と治癒魔法と実技試験
学園敷地の端にある、周囲を頑丈そうな石壁に囲まれた屋外練習場。わたしは安全区域と呼ばれる線で区切られた場所に座っていた。
中央に設置されたトーテム型の魔導具。鳥のような生き物を模した口から火球が発射される。現在、実技試験を行っている生徒は防御魔法を展開してそれを防いでいた。
「あっ!」
上手く結界が張れず、火球が生徒の右手に直撃する。先生たちは慌てることもなく、杖をかざした。
「失敗して怪我をしてもすぐに治療できますからね。安心してください」
周りの生徒が安堵する中、わたしは一人、冷や汗が流れていくのを感じながらぶるりと震える。
(失敗=死なんて……!絶対許されない……!)
「次! エレオノーラ・グランフェルトさん!」
いつものくるりと巻かれた金髪を、今日は1つに束ねた彼女。「はい!」と通る声で中央へと向かっていく。
「それでは、試験を開始します!」
先生の合図で魔導具が動き出した。火球がエレオノーラに向かって飛んでいく。
「はあっ!」
大きく展開された防御魔法が彼女を丸ごと覆った。次々放たれる火球は結界に当たっては消えていく。
「すごい! あんなに大きな防御魔法、維持するだけで大量の魔力が必要なのに!」
そのまま最後まで耐えきったエレオノーラは、先生の合格の声を聞くと笑顔を浮かべて戻ってくる。
「さすがエレオノーラ! わたしにはできないよ!」
「当然ですわ! 貴族ですもの。わたしに不可能はありませんの!」
いつも通り自信に溢れている彼女。
「貴族だからってあの態度はどうかと思うけどな……」
そんな様子を見ていたミアはボソリと言った。
「あんな様子って?」
「まるで平民にはできないって言ってるみたいじゃない?」
わたしはエレオノーラをチラリと見る。こちらの声は聞こえていないようだ。どうやらミアはエレオノーラのことがあまり好きではないみたい。
「次! ミアさん」
今度はミアの番だ。
「がんばってね!」
「うん。がんばる」
ミアが先生の元へと歩いていく。試験開始の合図と共に、火球が飛ばされた。
「えいっ!」
ミアは的確に小さな防御魔法を展開していく。エレオノーラよりも魔力の消費を抑えるスタイルだ。結界に衝突した火球はそのまま消えていく。
「やあっ!」
次々に結界を張っていくミア。しかし、体力をどんどん消耗しているようで、疲れが目立ってくる。そんな彼女に追い討ちをかけるように、2つの火球が放たれた。
「!」
ミアは必死に防御魔法を展開しようとする。しかし、防ぎ切ることはできず、左足に火球が直撃する。
「ミア!」
駆け寄ろうとしたわたしを治癒魔法のために待機していた先生が制する。治療されたミアはよろよろとした様子で戻ってきた。
「失敗しちゃった……」
「そんなことないよ。上手だったよ」
「でも……。私、あの子に平民でも上手くやれるって見せてやりたかったのに……」
膝を抱えて俯くミア。そうか、彼女はエレオノーラを見返してやりたかったんだ。
先生がわたしを呼ぶ声がする。わたしは立ち上がってミアに向かって宣言した。
「大丈夫!わたしが上手くやるから!」
「リリン……?」
「だから見ていて!」
緊張している場合じゃない。ミアを元気づけなきゃ。練習場の中央に建つ魔導具を睨みつけた。
「準備はよろしいですか?」
「はい、先生。これって当たらなければ問題ないんですよね?」
そう聞くと先生は不思議そうにこちらを見ながらも「ええ」と答えた。わたしは開始位置に立つ。
「それでは、試験を開始します」
魔導具の口元に魔力が集まり、火球が放たれた。
「右っ!」
わたしは脚に力を入れ、横に向かって飛ぶ。こちらに向かってくるはずだった火球は地面に当たって消えた。
「なるほど。そう来ましたか」
先生の呟く声が聞こえてくる。次の火球に対して防御魔法を構えた。斜めに展開された結界に当たって火球は弾かれる。
「はあっ!」
しゃがんで避けたところを狙ってきた火球を結界で跳ね飛ばす。火球は岩よりは小さいが速くはない。これなら最後まで避けられるだろう。
「では、これはどうですか?」
先生が杖を振る。すると魔導具から3つ連続で火球が飛び出してきた。
「っ!!」
2つまでは対応できたが、これは……。しかし、やるしかない。ミアにわたしのがんばってるところを見せてあげなくては。
防御魔法を展開し、1つの火球を跳ね返した勢いでもう1つにぶつける。ぶつかり合った火球はそのまま小さくなって消えた。あと1つは……!
「やあっ!」
わたしは大きく後ろに向かって飛ぶ。防御魔法と回避を同時にできたことはない。だけどやらなくてはならない。身体を捻って両足が宙に浮く。その瞬間、火球は頬を掠めて後方に向かって飛んで行った。
「素晴らしい! お見事です!」
先生は満面の笑みを浮かべてわたしに拍手をした。どうやら試験は上手くいったようだ。
「リリン!」
ミアが駆け寄ってくる。
「ミア!見た?わたし上手だったでしょ?」
「そうじゃなくて!血がっ……!」
「え?」
わたしは慌てて頬を拭う。手の甲には薄ら赤い液体が付着していた。
「治療しないと……!」
「だ……大丈夫! これくらい自分で治せるから!」
頬に手を当てて傷を再生させる。
「ほら! 治った!」
元通りになった身体を見せたが、ミアは今にも泣き出しそうな顔をしている。
「リリンさん。お見事でした。あの方法は自分で編み出したのですか?」
「えっと……。そうです。わたしは魔力が少ないので、できるだけ消費する魔力を少なくしようと思って」
そう答えると先生は満足そうに笑う。
「素晴らしい! 安定した魔力で耐え続けたエレオノーラさんも、最低限の防御魔法で凌いだリリンさんも2人とも優秀な結果を残しました!」
パチパチと響く拍手の音。そんな中、2つの目がこちらを睨んでいることにわたしはまだ気付かなかった。
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