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再会とミアと土産話

 学園の門をくぐる。ここを通るのは何度目だろう。反応しないことが当たり前になってしまった結界門の守衛さんは暇そうに欠伸をしていた。

「リリン!」

 久しぶりの学園の様子を眺めていると、急に誰かがわたしに向かって飛び込んできた。

「わっ! ミア!?」

「今日帰ってくるって手紙送ってくれたでしょ?」

「もしかして待っててくれたの?」

「うん!」

 休暇中、姉様たちに頼んでミアへ手紙を送っていた。もちろん魔王領からではない。孤児院を通してあるので、消印は国内のものになっていると聞いている。

「ミアが帰ってくるの明日って書いてあったのに」

「だって早くリリンに会いたかったの」

「嬉しい! わたしも!」

 想定外の再会にわたしたちは手を取り合って喜んだ。学生寮へ向かいながら他愛もない会話を楽しむ。

 

「休暇中は何してたの?」

 来た。予想していた質問だ。魔王領から帰る前、わたしは姉様たちからボロを出さないようにある程度質問への答えを用意していたのだ。なんとか変なことを言わないよう、言葉を紡ぐ。

「孤児院でシスターに会って、子供たちと一緒に遊んだりしたよ。それから……お姉ちゃんたちに会って可愛がってもらったかな」

「そういえば、お姉さんたちがたくさんいるって言ってたもんね。何人くらいいるの?」

 これも想定していた質問だ。わたしは「8人だよ」と答える。これは現在人間の国に潜入しているサキュバスの数なので全くの嘘というわけでもない。

 ミアは「いいなあ。わたしなんか一番上のお姉ちゃんだから……リリンが羨ましい」と目を輝かせてくれた。

「そういうミアは?休暇中何してたの?」

 今度はわたしから質問する。これも姉様たちから教わったテクニックだ。質問返しで相手の意識を逸らす。上手くできてるかな?

「私? 私はお母さんが仕事に行ってる間、弟たちの面倒を見てたよ。課題をやろうとしたら邪魔されちゃって大変なの!」

「わたしもだよ。集中してる時に限って『リリンちゃん何してるの?』『お菓子食べる?』『お姉ちゃんと一緒に遊ぼ』って邪魔してくるの」

「ふふっ。どこも一緒なんだね」

 ミアはおかしそうにクスクス笑う。よかった。怪しまれてないみたい。姉様のテクニック2。『嘘は真実を混ぜる』は成功したみたいだ。


「そういえば、お母さんが働いているパン屋さんにお土産をもらったの。リリンもどうぞ」

 ミアはポケットから焼き菓子の入った袋を取り出した。こんがりきつね色に焼けたそれは手のひらよりも小さなサイズで、上に木の実のような物が乗っている。

「いいの? ありがとう!」

 わたしは袋を開けて、1つ取り出した。そのまま口に放り込む。

「甘い! それに香ばしくて美味しい!」

「蜂蜜が混ぜてあるんだって。パン屋の奥さんが言ってたの」

「蜂蜜!」

 ヴィオレッタ姉様が入学前に見せてくれた人間の流通品リストの中にあったものだ。知識では知っていたけどこんなに甘いなんて!

「蜂蜜食べたことなかった?」

 ミアが首を傾げて聞いてくるのでわたしは答える。

「うん!地元には樹液蜜っていうのはあるんだけど、蜂蜜はなかったと思うよ」

「樹液蜜? 知らなかった。蜂蜜くらい甘いのかな?」

 興味津々に食いつくミア。わたしは一瞬凍りついた。

(あれ?樹液蜜って吸血鬼の農家さんたちが作ってるんだっけ……?人間は食べないのかな……?)

 吸血鬼は血液しか飲まないと思われがちだが、実際は血液以外の食事を娯楽として楽しむ文化がある。そのため甘い物も吸血鬼貴族を中心に人気があるのだ。

 後で樹液蜜が人間の国でも流通しているのか姉様に聞いておかないと……。


 そんな話をしているうちに、自室の前に辿り着く。わたしはカバンを床に置くと、靴を適当に脱ぎ、ベッドに飛び込んだ。

「ふう……。これこれ! 帰ってきたって感じ!」

「もうっ、リリンったら!」

 その様子をミアは笑いながら、わたしの靴を綺麗に並べる。

「カバンの中身も片付けようか?」

「うーん……。後で自分でやるよ」

 特に怪しい物を入れた記憶はないが、姉様の誰かが変なお土産を入れているかもしれない。サキュバスという種族は人間の文化が大好きで、実家にも人間の国で買ってきたという変な置物がたくさんある。誰が置いたか分からない荷物の処分に困って、わたしの荷物に紛れさせるなんてこともありえそうだ。

 ミアはその言葉を特に怪しむ様子はなく、カバンをそのままにしてくれた。

 

「――ところでリリン。防御魔法の練習はした?」

「うん。なんとかね」

 わたしは自信満々に答える。

「すごいね。どうやったの?」

 ゴーレムに岩を投げてもらって……と言おうとして、わたしは口を塞いだ。いけない。こんなことを言ったら怪しまれちゃう。

「えっと……。姉さ……お姉ちゃんたちに手伝ってもらったんだよね」

「優しいお姉さんたちだね。いいなあ。うちの弟たちもそれくらい優しかったらよかったのに」

 口を膨らませて拗ねたような表情を浮かべるミアにわたしは心の中でそっと胸を撫で下ろすのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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