学園への帰還とハーピーと空の旅
「課題はきちんと終わった?」
「うん!ヴィオレッタ姉様にも手伝ってもらったからバッチリ!」
「忘れ物はない?」
「ちゃんと確認したよ!」
「これ、おやつよ。日持ちするから向こうで食べてね」
「ありがとう!」
次から次へとやってくる姉様たちに返事をする。今日で魔王領から学園に戻る日だ。
「帰りはどうするの?ルルちゃん?」
「いえ。同じルートを短期間に何度もワイバーンが飛ぶのは警戒される恐れがあります。帰りは別の方法を使います」
ヴィオレッタ姉様はそう言うと、指笛を吹いた。
ピィィィ――――ッ!
高く澄んだ音が響き、空から黒い影が舞い降りてくる。
「わっ!」
そこにいたのは――。
「やあ!アンタが今回の荷物かい?」
わたしよりも背の高いハーピーの女性だった。筋肉質な人型の身体に、鳥の下半身が付いている。そして目を引くのは、腕の代わりに背中から伸びた大きな翼。ワイバーンとは違うふわふわとした羽毛に覆われた翼が、今は身体の後ろで小さく折り畳まれている。
「こちら魔王軍飛空隊、第2飛行中隊のアーラ伍長です」
「アーラでいいよ。よろしくね!」
アーラと呼ばれた女性は白い歯を見せてニカッと笑う。声が大きくて溌剌とした人のようだ。
「アーラ伍長。末の妹、リリンをよろしくお願いしますね」
「任せときな!アタシが迅速安全に届けてやるよ」
そう言うと大きな翼をバサリと広げた。わたしが手を限界まで広げた長さよりも3倍以上大きく見える。
「すごい!アーラさんが伍長ってことは偉い人なんですか?」
「全然。人をまとめるより空を飛ぶ方が得意でね」
そう言うとアーラさんは足元に置かれた箱からベルトのような物を、鋭い爪のある脚で器用に掴んでわたしに投げる。
「これは?」
「人を運ぶようの固定具さ!飛んでいる途中で落としちまわないようにね」
よく見るとベルトには何本もの革紐と金具が付いている。わたしはヴィオレッタ姉様とアーラさんに確認しながら固定具を身体に巻き付けた。
「ちゃんと付けないと落っこちるからね」
「……落ちるとどうなるんですか?」
「さあ?どうなると思う?」
その言葉に怯えているとアーラさんは朗らかに笑った。
「固定具を付けている限り、落としはしないよ。アタシはこう見えてもベテランだからね。必ず届けるさ」
わたしは指示された通りにアーラさんの背中のベルトと固定具を結ぶ。翼の真上ではなく、少し下の辺りにしがみつく形になるみたいだ。
彼女の脚のベルトにはわたしのカバンが固定されている。
「そろそろ飛ぶよ。準備はできてるかい?」
「はい!」
アーラさんが大きな翼を広げる。さっきまで畳まれていた両翼が左右へと一気に伸びていく。
「わあ……!」
近くで見ると本当に大きい。
翼を振り下ろすと、地面の草がばさばさと揺れた。
「さあ行くよ!」
脚が地面を蹴り上げる。その瞬間、ふわりと宙に浮き上がる感覚がした。みるみるうちに大地から離れていく。
「リリンちゃん!元気でね!」
「また会いに来て!」
「しっかりご飯食べるのよ!」
姉様たちが足元で手を振っている。わたしも大きく手を振りながら叫んだ。
「ありがとう!また姉様たちに会えるの楽しみにしてるから!」
こうして、わたしたちは魔王領から離れた。
「……すごい!空を飛んでいるのに寒くない!」
わたしはハーピーによる空の旅に感動していた。翼で視界はそう広くないが、羽毛の間に手を入れると温かい体温が伝わってくる。
「そりゃあよかった!風邪引かれちゃ困るからね!」
翼が風を切る。空で会話をすると聞き取りにくくなるため、わたしたちの声は自然と大きくなる。
「わたしを乗せて重くないですか?」
「アンタ1人くらい平気さ!オークどもなら厳しいかもしれないがね!」
アーラさんが翼を傾けるとゆっくりと旋回していく。
「あれ?国境ってあっちじゃ……?」
「そうだ!よく知ってるじゃないか!」
「じゃあどうしてこっちに?」
「人間の見張り台があるんだよ!」
わたしは目をこらすが、それらしきものは見えない。
「どこですか?」
「あの山の中腹さ!塔みたいなのが建ってる!」
しかし、どうやってもその見張り台は見えそうになかった。
「わかりませんでした!」
「それでいい!向こうからもこっちに気付いている可能性が低いってことさ!」
「なるほど!」
途中、アーラさんは何度もわたしのことを心配してくれた。
「空酔いはしてないかい?」
「大丈夫です!ワイバーンに乗ったことは何度もありますから!」
「そりゃあいい!それなら飯はどうだい?もう少し飛んだ先に木苺が生えている場所があるんだ!」
「行きたいです!」
「よし!最高速度でぶっ飛ばすよ!」
「はい!」
わたしはしっかりとアーラさんの腰にしがみつく。頬を撫でる風が冷たくて気持ちいい。空の旅ならワイバーンが最高だと思っていたけど、ハーピーもいい勝負だと思う。
「――思ったよりも早く着いたね。アタシはそろそろ行くよ。」
孤児院近くの森にわたしを降ろしてくれたアーラさんはそう言った。
「魔王領に戻るんですか?」
「いや、ちょっとこっちで仕事だ。内容は言えないが……それが終わればすぐに帰るよ。家族が待っているからね」
「ご家族がいるんですか?」
「ああ、旦那と子供たちが3人いるんだ。今は旦那が家で面倒見てくれてるよ」
ハーピーは基本的に女性の方が翼は大きく、長距離飛行に優れている。逆に男性の方は翼が小さい代わりに胴体が大きく、卵や子供たちを温めたり、家を守るのに優れているらしい。アーラさんはそう教えてくれた。
「ありがとうございました!お元気で!」
「じゃあね!今度はアタシの家へ遊びにおいでよ!」
アーラさんは翼を広げる。そして、地面を蹴ると一瞬で空に舞い上がって見えなくなってしまった。
「よし、わたしも任務がんばらなきゃ!」
姉様たちにしばらく会えないのは少し寂しいけれど、今度はミアに会える。ミアに会ったらどんなことを話そう。考えるだけでワクワクした気持ちが溢れるのだった。
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