リベンジとヴィオレッタとヘーゼル
『真正面から受け止めるのをやめてはどうですか?』
ゴーレムが飛ばす岩を避けながらわたしは考える。
(姉様は何が言いたいんだろう……?)
手に握られた岩が頭より高く持ち上げられたのを見て、わたしは防御魔法の準備をした。結界に当たった岩は大きな音を立てて砕け、砂埃が舞う。
正面から受け止められなければ、間違いなくわたしに当たっていただろう。次の岩を横に跳躍しながらも、思考が頭の中を埋めつくしている。
「……っ! しまった!」
気が付けば、岩はすぐ目の前に迫っていた。慌てて防御魔法を展開するも、焦って正確に張ることができない。
(小さすぎる上に、斜めになっちゃった!これじゃ避けられない……っ!)
わたしは衝撃に備えて目を固く閉じる。
ドンッ! カラカラカラ……。
しかし、わたしの身体には痛みはいつまで経ってもやって来なかった。
ゆっくりと目を開ければ、飛んできていたはずの岩は自分よりもかなり離れた位置に転がっている。
「これってどういうこと……?」
わからないならもう一度試すしかない。再度放たれた岩の弾丸に対し、わたしはもう一度小さく、そして斜めに防御魔法を展開した。
ドンッ!
凄まじい衝撃音。結界は砕け散る。しかし……。
「あっ!」
ぶつかった勢いで、岩はわたしの左斜め前へと飛んでいく。
「そっか!『真正面から受け止めるのをやめる』ってこういうことなんだ!」
この方法なら、さっきまでとは違って消費する魔力や展開するまでに必要な時間は遥かに少なくて済む。魔力の少ないわたしに最適な方法だろう。
「気付いたようですね! 次は複数の岩が飛んでいきますよ!」
ヴィオレッタ姉様が腕を上げて合図する。ゴーレムは両手に1つずつ岩を抱えた。
「これなら……‼」
ゴーレムの腕の動きに意識を集中させる。まっすぐにこちらに向かってくる2つの弾丸。わたしは防御魔法を構えた。複数展開することは出来ない。ならばやることは一つだけ。
ドンッ!
片方の岩が結界とぶつかり、その軌道を変える。そして……。
衝撃で起きた土煙に視界を覆われる。しかし、いつまで経っても体に衝撃が向かってくることはなかった。
「これは……?」
「よくやりましたね。リリン」
ヴィオレッタ姉様がこちらに駆け寄ってきて、わたしの頭を撫でる。
「なるほどぉ。防御魔法で軌道を変えた岩と岩同士をぶつけましたかぁ。なかなかやりますね! これはまだまだ改良の余地があります!」
えへへぇ……とニヤニヤ笑いながらノートに何かを必死に書いているヘーゼル主任。
「やった……! わたしできたよ! これで防御魔法は完璧だよね?」
「ええ。これなら実技試験も問題ないでしょう。よくがんばりました」
後から追いついてきた喜びと安堵を、姉様がさらに大きくしてくれる。よかった。これで地獄のような訓練から解放された……。
「ところでヴィオレッタ姉様。姉様は同じことされても対処できるの?」
訓練場の端にいつの間にか用意された椅子へわたしは腰掛けた。姉様たちも一緒だ。水筒に入った温かいお茶を飲みながら、質問をする。さっきまで飲まされていた苦いポーションと違ってすごく美味しい。あれだけはもう飲みたくないな……。
「ええ。可能だと思いますよ」
そう言うとヴィオレッタ姉様は立ち上がる。
「ヘーゼル主任。ゴーレムをお借りしても?」
「おお! ヴィオレッタ補佐官がテストしてくれるですって⁉ もちろんですよ! こちらもしっかりと記録せねば……!」
ヘーゼル姉様……じゃなかった主任はすごく嬉しそうだ。わたしは座ったまま、この戦いを見届けることにした。
ゴーレムにゆっくりと魔力が通っていく。赤く魔石を光らせたゴーレムは、最初から2つ同時に岩を持ち上げた。
「では、いきます」
ヴィオレッタ姉様はゆっくりと腕を上げ、人差し指をゴーレムに向ける。そして……。
ヴィオレッタ姉様の指先から眩い光が放たれる。凝縮された強力な魔力は一筋の線となり、そしてゴーレムの頭部を正確に貫いた――。
頭部を撃ち抜かれたゴーレムは岩を投げられずに膝を付き、前に向かって倒れる。
「すごい!ヴィオレッタ姉様!」
「岩を投げられる前に処理してしまえば楽なものですよ」
わたしはいつもよりも自慢げな表情を浮かべるヴィオレッタ姉様を褒め称える。本当にすごい。わたしもいつかあんな風になれたらな……。
「いやあああああ‼ ゴーレムちゃん7号 !しっかりして‼」
すぐさま駆け寄ってきたヘーゼル主任はゴーレムに抱きつく。しかし、ゴーレムは沈黙したままで、二度と動くことはなかった。
「魔力核を撃ち抜かれて即座に機能停止するとは……。外装の耐久性に問題があるようですね」
ヴィオレッタ姉様は涼しい顔で解説する。必死で岩を避けていたわたしと違って、すごく余裕そうだ。
「ヴィオレッタ! なぜこんな酷いことを……うわーん!」
「ゴーレムとの戦闘許可を出したのはヘーゼル姉様でしょう? 壊してはならないとは聞いていませんよ。この程度では残念ながら実用段階とは言えませんね」
「ううぅ……。魔力核を的確に撃ち抜ける人がこの世に何人いると思ってるのよぉ……」
「少なくともここに1人いますね」
すっかり仕事モードから姉妹モードに切り替わった姉様たちはとても楽しそうだ。
「次こそはリベンジしてやるんだからぁ!」とノートを持って走り去っていくヘーゼル姉様を目で追いながら、わたしとヴィオレッタ姉様は小さなお茶会を楽しむのだった。
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