杖と講評とライバル
「――できた!」
わたしは机の上に置いた杖を眺める。少し曲がっているような気もするけれど、一生懸命作ったものだ。芯材作りから明日で期限の1週間になる。
「何とか形にできてよかったぁ。間に合わないかと思っちゃった」
ここまで大事に作ってきたのだから、不格好でもかわいらしく見える。そろそろ明日の授業の準備をしなきゃだ。
翌朝。
「これ何で作ったの?」
「あなたの杖、見た目もかわいい!」
賑やかな工房室と生徒たち。あちこちの机に名前を書いた紙と杖が置かれている。
「ミアの杖、シンプルだけどまっすぐで綺麗!」
「使いやすさにこだわったからあまり装飾まで気が回らなかったの。でもありがとう」
ミアの杖は大きな特徴こそないがピカピカに磨き上げられている。
「わたしなんて不器用だからうまく作れなくて……」
「でも、丁寧に作ったんだなって伝わると思うよ?」
「そうかなぁ」
わたしとミアは他の机を見て回ることにした。
みんなの杖の中でひと際目立つのはエレオノーラのものだ。細かい彫刻まで入っている。
「すごい! まるでお店で売られている物みたい!」
感動しているとエレオノーラが自信満々に答える。
「当然ですわ! 1週間もあったのですから!」
「1週間でここまで作るなんてすごいよ! 手先が器用なんだね」
「ええ。このために彫刻に関する書物をたくさん取り寄せましたの」
(やっぱり、貴族ってすごいなぁ……)
そうしている間に先生がやってきたのでわたしたちは席に戻る。
「今日は皆さんが作った杖を評価します。見るのは主に4点です」
先生の手で黒板に文字が書かれていく。
「芯の品質、加工精度、魔力の安定性、そして伝導効率です。では、一人ずつ見ていきましょう」
こうして講評の時間が始まった。
「ミアさん。とても丁寧に作られていますね」
「ありがとうございます!」
「素材は一般的な物ですが、芯の偏りもほとんどありません。これは長く使えるいい杖ですよ」
そしてミアの杖に先生が魔力を通す。
「魔力の安定性、伝導効率も問題ありませんね」
ミアはほっとした様子で返却された杖を受け取った。
次に先生が手に取ったのはエレオノーラの杖だ。
「素晴らしい! 素材の選定、芯の成型、魔力の安定性。どれも1年生のものとは思えません!」
「当然ですわ。貴族ですもの。どれも自力で集めましたの」
「芯材に使ったのはバジリスクの体液でしたね? これもご自分で?」
「ええ。休日に父の護衛とともに討伐しましたの」
そう言うエレオノーラの白い指には何か所も包帯が巻かれている。貴族ってそこまでやるものなのかな?
最後に先生が手に取ったのはわたしの杖だ。
「リリンさんの杖は……」
「はいっ!」
「まず、少々削り方が甘いですね」
「うっ」
「芯が中心から少しズレているのも気になります」
「うう……」
「表面をもう少し磨いてもよいでしょうね」
「そんなに……」
「魔力を通すテストをしてみましょう」
先生はわたしの杖をじっと見つめる。そして杖に魔力を込めた。
「これは……」
そんなにダメダメだったのだろうか……。わたしの中ではがんばった方なのに。
「すみません。もう一度測定してみます」
再度、魔力が込められる。今度はさっきよりも長く時間がかかっているようだ。
「……やはり」
「どこがダメなんでしょうか……?」
「いえ、魔力の伝導効率がかなり良いように思います。今回提出された杖の中では最も優秀と言えるでしょう」
「本当ですか⁉」
「芯材とリリンさんの相性がよかったのでしょうね」
先生はわたしに杖を渡す。よかった。この杖にも褒めてもらえるところがあったみたい。
「今回、総合的にはエレオノーラさんの杖が最も優秀といえます。よくがんばりましたね。」
黒板の前に立ったエレオノーラが先生に褒められる。しかし、彼女はなぜか嬉しそうな顔をしていない。それどころか、なぜか悔しそうに見える気が……。
「リリンさん!」
授業が終わって、教室に戻ろうとしたところを、誰かに後ろから呼び止められた。
「あ、エレオノーラさん。やっぱりエレオノーラさんの杖が一番だったね。おめでとう!」
「…………」
わたしが拍手しながらエレオノーラを見つめるが、彼女は何も言わない。
「どうしたの?」
「……ませんわ」
「え?」
よく聞き取れなくて思わず聞き返してしまう。すると……。
「許せませんわ! 魔力の伝導効率であなたが1位なんて!」
「ええっ⁉ そんなこと言われても……。それ以外はダメダメなわけだし……」
「わたくし、全てにおいて1位になれないことが許せませんの!」
そしてビシッ、とわたしを指差してこう言った。
「あなたをライバルと認めます!」
「ええっ⁉」
「次こそは絶対に負けませんわ!」
そう言い残すと、彼女はぷい、と背を向けて去ってしまう。
「そんなぁ…… 何か怒らせるようなことしたかなぁ」
わたしは頭を悩ませるのだった。




