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お友達と王都とお買い物

「週末、王都へお買い物に行かない?」

 ミアがこんなことを言ってきたのは放課後のことだった。

「王都?」

「学園に来た時、馬車で通ってきたでしょ?」

 そういえばそうだったような……。あの時は証拠を残すためだといって孤児院から馬車を乗り継いできたんだけど、緊張しすぎて景色なんて全く覚えていない。

「それが……入学初日は緊張しすぎて外の景色を全く見てないんだよね」

「そうなの? じゃあ案内してあげるよ」

「本当⁉」

 お友達とお出かけなんて初めてだ。それに人間の街! どんなものがあるんだろう。学園に外出許可証を申請してわたしたちはその日を待ち続けた。


「ここが王都……!」

 見るもの全てがわたしにとって新鮮だ。たくさんの人や建物。行き交う馬車。色とりどりのお店。あっちから漂ってくる匂いはなんだろう?

「リリン、楽しそうだね」

「うん! あれもこれも見たことないものだらけ!」

「ふふっ。ゆっくり見て回ろっか」

 わたしたちははぐれないようにと手をつなぐ。

「それで、今日は何しに王都へ来たの?」

「来週、杖作りの授業があるでしょ?各自で素材を用意しろって言われてるからね」

「あ、そうだった!」

 すっかり忘れていた。杖作りの授業とは名前の通り、自分たちで杖を作るのだ。使用する木材や芯となる素材は各自好きなものを用意する。これは買ってもいいし、採取してもいいと言われている。

「どんなものを使えばいいのかわからないから、お店の人に相談しようと思っているの。学園で3年間使う杖だからちゃんとしたものにしたくて」

「目当てのお店は決まってるの?」

「うん。この通りを抜けて左に曲がってから……」

 わたしとミアは騒がしい街並みを進んだ。


「お嬢ちゃんたち! 掘り出し物があるんだ。見ていかないかい?」

 途中、屋台で衣類を売っているおじさんに話しかけられた。

「ごらん! これはアラクネの糸を使って作った外套さ。一点物だよ」

 アラクネというのは蜘蛛型の魔物だ。非常に獰猛で危険だが、アラクネの巣から取れる糸は頑丈で、魔力の伝導性にも優れているらしい。冒険者はアラクネを倒したり、留守中に忍び込んだりしてこの貴重な糸を手に入れる。これは魔物学の授業で習ったばかりだ。

「すごいよ! リリン! アラクネの糸だって!」

「そうだね……」

 わたしには少し気になることがあった――。


「見てみて! これ、アラクネの糸で作った髪飾りよ!」

 姉様がわたしにリボンを見せる。

「アラクネの糸?」

「そうよ! すっごく高かったんだから」

 アラクネの糸で作られたという髪飾りは、艶があって細やかに編み上げられている。

「偽物もあるけど、本物は手触りが全然違うのよ! どう? この布の柔らかさったら……」


「――リリン? どうしたの?」

(いけない! 昔のことを思い出しちゃった)

 わたしは改めて外套を見る。その布地はあまり艶がなく、かなり分厚いように見える。

「どうだい? 今だけ金貨1枚にまけとくよ」

「素敵だけど……高くて今の私たちじゃとても買えそうにないね」

「う……うん。そうだね」

「そりゃ残念!また来ておくれよ!」

 わたしたちは屋台を後にした。


「ここがそのお店らしいんだけど……」

 たどり着いた場所は店構えからしてかなり年季が入っているように見える。本当にここなんだろうか?

「失礼しまーす……」

 ミアがゆっくりと扉を開ける。わたしも後に続いた。

 店の中は案外整理されていて、所狭しとよくわからない植物や何かの石などが並べられている。

「おや、いらっしゃい。学園の子たちかい?」

 店の奥にいたおばあちゃんがこちらを振り返った。

「私たち、杖の素材を見に来たんです」

「そうかい。もうそんな季節なんだねぇ。それならこっちの棚だよ」

 今までに何人もの1年生を相手してきたのだろう。慣れた様子で指し示す。

「初心者が扱うならこの木材なんかがいいだろうね。芯材は何か決まっているのかい?」

「いえ、それも相談しようと思っていて……」

(そっか、素材同士で相性も考えないといけないのか……)

 適当でいいかな? なんて考えていたわたしと違って、ミアは真面目に予習してきたのだろう。

「この木材なら小型竜種の牙なんてオススメだよ。魔力が安定しやすいからね」

「なるほど……こっちはどうですか?」

 ミアと店主のおばあさんが話している間、わたしはぼんやりと窓の外を眺めることにした。


 日が傾いて、街並みがオレンジ色に染まっている。母親と手をつないで歩く子供、忙しそうに走り回る商人、ベンチに座って何かを食べている恋人たち。魔王領でも見かけるそれらも、人間の国では何もかもが違って見える。まるで戦争なんてどこか遠い国のおとぎ話みたいに平和だ。

(もし戦争がなかったらこの人たちはどんな風に生きるんだろう)

「……リリン? 聞こえてる? リリン!」

「えっ、あっ! ごめん! 聞いてなかったかも」

「私は買い物終わったけど、リリンはどうする?」

「待って! わたしも買ってくる!」

 

 お会計を済ませ、店の外に出る。ミアは嬉しそうに両手で紙袋を抱えていた。

「今日は楽しかったね!」

「うん。あのさ……またわたしとお出かけしてくれる?」

「もちろん! 他にもリリンと行きたいところがたくさんあるの! そういえば、芯材は買わなかったみたいだけどいいの?」

「うん。ちょうど部屋に余った素材があってね……」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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