姉様とバイコーンと約束
「すみません、リリン。あなたを助けてやりたい気持ちは山々なのですが……今は仕事が立て込んでいる状況でして。魔王補佐官である私が長時間、魔王領を離れるわけにはいかないのです」
「そんな……」
『精霊探し』の授業の日の夜、わたしは通信鏡でヴィオレッタ姉様に連絡した。バイコーンとの約束を守るためだ。ヴィオレッタ姉様ならきっと何とかしてくれる。そう思ったのだが……。
「あら? ヴィオレッタちゃん。何してるの?」
「通信鏡……もしかしてリリン?」
「リリンちゃんがいるの~? 私にも見せて!」
ヴィオレッタ姉様の向こうから、複数の女性の声がした。
「その声は……ルビー姉様、サファイア姉様、エメラルド姉様⁉」
鏡に3人のサキュバスが映る。彼女たちは3人とも同じ時期に生まれたサキュバスで、昔からいつも一緒にいるくらい仲良しだ。わたしは姉様たちに事情を説明する。
「リリンちゃんの頼みなら任せて!」と、明るくしっかり者なルビー姉様。
「バイコーン……興味ある。私も行きたい」と、冷静で研究者気質のサファイア姉様。
「ルビーとサファイアも行くの~? リリンちゃんに会いたいから私も!」と、おっとりしていて自由人なエメラルド姉様。
「姉様たちが行ってくださるのでしたら問題はありませんね」
ヴィオレッタ姉様は地図など、書類を確認しているようだ。ちなみに彼女たちはヴィオレッタ姉様よりも年上の『姉』にあたる。
「場所は……王立学園西の森、立ち入り禁止区画ですか。確かにそこなら人間に目撃される可能性も低いでしょう。ですが、油断はなさらないでくださいね」
「「「はーい!」」」
元気に声を揃える3人。本当に任せて大丈夫だろうか……?なんだかちょっと不安になってきた。
この後、作戦はスムーズに決まっていき、わたしは実行の日を待つだけとなった。
「――本当だろうなァ? 姉ちゃんとやらが来るのは」
「うん。間違いなくこの辺りだとは思うんだけど……」
「お前は信用ならねえからな」
わたしとバイコーンは再び森の奥深くに来ていた。姉さんたちの話によれば、ここに来ているはずなんだけど……。
「あ! リリンちゃんだ! おーい!」
向こうの木の下にいるのは……ルビー姉様だ!
「来てくれたんだ! よかった!」
また迷子になったらどうしようかと思ったが、杞憂だったようだ。
「私もいるわよ~」
「これがバイコーン……? 初めて見た」
3人ともサキュバスの特徴といえる角や羽、尻尾が見えない。きっとサキュバスの変身能力で隠しているんだろう。わたしも使えるようになりたいな。そうすれば普段から角が髪の間から出ていないか気にしなくて済むのに。
「…………」
バイコーンは固まって動かない。
「どうしたの?」
姉様たちも心配そうに見ている。何か気に入らないことがあったのかな……。
「お前……3人って……聞いてねえぞ……」
「ご、ごめん!そういえば言ってなかったね。1人連れてくるって話だったけど、3人とも来てくれるって言うから……」
「……最高じゃねえか‼」
「え?」
バイコーンは突然、私の横から消え、姉様たちのもとへと走り出す。
「綺麗な姉ちゃんたち!俺と遊んでかない?」
そして、地面にごろん、と四肢を投げ出した。
「かわいい! 人懐っこいのね」
「本当に角が1本……痛くなかった?」
「まあ!綺麗って言ってくれるの? いい子ね~」
なんだろう……この差は。わたしと会った時とは大違いだ。わたしだってサキュバスなのに……。
「お前……いい奴だったんだなァ。見直したぜ」
「わたしは見損なったよ……」
姉様たちの前で尻尾を高く上げ、口元をデレデレと緩ませる精霊を見てわたしは肩を落とした。これが高位の精霊なんて誰が言ったんだろう。ただのスケベ馬なのに。
バイコーンと戯れながらも、3人は時折周囲を見渡して確認するような素振りを見せる。急に人間が来ても対処できるようにするためだ。わたしよりはるかに年上なサキュバスなだけあって、このあたりはさすがだと思う。
「人間の服って、背中やお尻が窮屈なのよね~。……ちょっと脱いじゃダメ?」
「ダメ。エメラルド。だれか見ているかも」
「そうよ! 角と羽と尻尾を隠しただけなんだから。気をつけなきゃ!」
「しょうがないわね~」
いつも通りの仲良し3人組を見てわたしは嬉しくなる。実家にいた頃から変わってなくて懐かしいなぁ。
「ちょっとぐらい脱いでくれてもいいじゃんかよォ!」と、地面をじたばたと転がる生物は見ないことにした。
あっという間に時間は過ぎ、そろそろ寮に戻らなくてはいけない時間になった。
「リリン。次に会えるのはいつ?」
ルビー姉様がわたしに質問する。
「えーっと……学園の長期休みの時かな。他の姉様たちの顔も見たいから、魔王領に一度帰ろうと思ってるの」
「嬉しい! 楽しみにしてるね!」
「リリン。ちゃんとご飯は食べている? いじめられたりはしてない?」
今度はサファイア姉様だ。
「うん! 大丈夫だよ。学園では毎日焼き立てのパンが出るし、素敵なお友達もいるの!」
「無理はしないようにね~? 私たちはずっとあなたのこと心配してるんだから」
最後はエメラルド姉様だ。
「ありがとう! 姉様たちも元気でね!」
わたしはバイコーンの尻尾を引っ張りながらお別れを告げた。
「行かないでくれよォ……もう1本角あげちゃうからさァ……」とうるさかったがなんとか諦めてくれた。
(わたしの時は、角を渡すの嫌がってたくせに! それに、角が2本ともなかったらただの馬になっちゃう!)
賑やかな1日だったけど、とっても楽しかったな。よーし、これからも任務がんばるぞ!
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