84.加護する神
枢機卿は教団員だが、もともと神殿では暮らしていなかったらしい。もとからハーグリーヴ枢機卿がハーグレイヴズ神だったのだとしたら、確かに神殿では暮らしようがなかっただろうな。
マーヤが枢機卿を客室に案内しに行くのを見送ると、俺はひとつ息をついた。
「これで、王宮も教団に下手に手出しができなくなりましたね」
「そのようですね」
クリスが硬い表情で言うと、ダンも重々しく頷いた。
「枢機卿がいれば」セオドアが言う。「教団も王宮に匹敵するってわけか」
「そこまでは言いませんが……枢機卿は多くの民から信仰を集めています。枢機卿を敵に回すのは、王宮にとって大きな損失となるでしょう」
教団で高い地位を持つ枢機卿が戻って来たことで教団員たちは緊張しているが、枢機卿を出迎える前に聞いた話では、枢機卿は教団員たちからも厚い支持を集めている。この教団において、司祭長であるフランより崇拝されているのが枢機卿だ。
「それはつまり」と、クリス。「司祭長殿がキリオと契約しても問題なくなったということですか」
「そういうことになります。が、私は誰とも契約しません。枢機卿がお戻りになられたとしても、それは変わりません」
王宮に匹敵するとは言え、この教団は国立ではない。王宮とはまったく関係ない私設の教団だ。俺が誰かと契約して王宮と対立することにでもなれば、この教団を危険に晒すことにも繋がるかもしれない。
しかし、ややこしいことになったな。王国もまさか枢機卿が国を加護する神だとは思うまい。精霊よりはるかに格上である神も自由な存在らしい。静養に行く前のハーグリーヴ枢機卿もハーグレイヴズ神が人間に扮した姿であったなら、俺のそばにいるためだけの理由で人間界に来たわけではなかったのだろう。
そういえば、と俺は攻略対象たちを振り向いた。
「キリオとリーヴはいないのですか?」
「枢機卿は怖い人だと言って」と、ダン。「部屋にこもってしまったようです」
怖い人? そうか、俺がハーグリーヴ枢機卿がハーグレイヴズ神だとすぐ気付いたように、キリオも何かしらを感じ取っているのかもしれない。それがキリオにとって怖く感じたのだろう。リーヴはそれに付き添っているということだ。
ハーグリーヴ枢機卿はこの国を加護するハーグレイヴズ神だから、特に脅威となる存在ではないのだが、キリオはそれを知らない。説明してやることができないのは、なんとももどかしいものだ。
「確かに、枢機卿は何か威圧感があるな」
セオドアがつくづくと言う。ハーグリーヴ枢機卿は神であるからして、その雰囲気も神々しい。ハーグリーヴ枢機卿の正体を知らない人間からすると、それが威圧感に感じるのだろう。
枢機卿はもともと原作に登場しない。ハーグレイヴズ神だと見抜けなければ、確かに不気味な存在だったかもしれない。実際、原作に登場しない、ナビも情報を持ち合わせていない、という点で警戒していた。ハーグレイヴズ神だと見抜けなかった場合、警戒を解くことはなかっただろうな。
「キリオは枢機卿を誤解しているようです。心配しないようにあとで伝えなければなりませんね」
さすがにハーグレイヴズ神だと打ち明けることはできないが、枢機卿は俺たちの敵ではない。敵になりようがない。ハーグレイヴズ神は、この国を加護し、俺たちを守護する神なのだから。




