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記憶を失くした悪役神官は総溺愛に気付かない  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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67.団長の言い訳

 庭で眠るのと、現実で目を覚ますのはほとんど同時だ。だから庭に招かれた日は寝た気がしない。それでも体は軽いので睡眠はしっかり取れているらしい。ベッドの上に起き上がると、魔力回路の修復が終わっているのは感覚でなんとなくわかった。ナビが俺にわかりやすいようにしてくれたのかもしれない。

 控えめなノックが聞こえる。そっとドアを開いたのはマーヤだった。俺が起きていることに気付いたマーヤは、パッと表情を明るくする。

「フラン様! おはようございます。お目覚めになってなによりです」

「おはよう、マーヤ。魔力回路はしっかり修復できているみたいだね」

「はい。今回ばかりは寿命が縮むかと思いました……」

 マーヤはきっと、俺の身に何が降りかかったか聞いているだろう。マーヤのことだから、きっと寝ながらも心配していたはずだ。

「私はどれくらい眠っていた?」

「ひと晩です。団長とキリオさんが魔力回路を修復してくださったおかげで短く済みましたね」

「南門はどうなってる?」

「いまは平穏を取り戻していますよ」

「そう。よかった」

 俺としては、自分の魔力回路より民の平穏のほうが大事だ。俺は三日三晩、眠り続ければどうにでもなる。ナビと世界王がどうにかしてくれるはずだ。だが、民のもとにはその恩恵が与えられない。それは俺の役目になるからだ。だから、俺のことは二の次でいいんだ。

「昨日、フラン様の魔力回路を封じる魔法をかけたのは『街角の女王』と呼ばれる魔物です」

「街角の女王……」

 あの瞬間のことを思い返す。腕を失った少女に扮していた“何か”。それが名のある魔物だったということだ。傷付いた少女に姿を変え、俺を狙い撃ちした。

「魔物とは呼ばれていますが、かつてはただの精霊でした。呪いを集め、魔物と化したんです」

 精霊が魔物になってしまう。それはあまりに悲惨なことのように思える。聖霊は俺たち、人間を守る存在だ。街角の女王もそういった精霊だったはず。それが、どんなことが起きれば魔物化するって言うんだ?

「街角の女王は世界王を愛しているとされています。ですから、世界王の寵児という存在が気に食わないのではないでしょうか」

「なるほど……それで私を狙ったのか。私は民の救護に回る分、キリオより引っ掛かりやすい」

「仰る通りかと」

 世界王は、この世界にひずみが生じていると言っていた。街角の女王がその歪みなのだろうか。精霊が魔物と化してしまった。それはこの世界にとって大きな打撃となることなのではないだろうか。この衝撃が、この世界に歪みを生じさせたのだろうか。

 とんとんとん、と落ち着いたノックの音がした。どうぞ、と応えると顔を覗かせたのはダン団長だった。何やら神妙な面持ちをしている。入れ替わるように、マーヤが辞儀をして出て行く。ダンは俺に話があるようだ。

 話が切り出されるのを待っていると、ダンは突然、俺の足元――(もとい)、ベッドのそばに膝を折った。

「申し訳ありませんでした。緊急時とは言え、あのような力業で……」

 その途端、昨夜のことが衝撃的に脳内に蘇った。街角の女王に魔力封じをかけられた俺を救護したのがダンだった。確かに、力業であった。

「……魔力供給は、いつもああなのですか?」

 思い返すと顔が熱くなる。まさか、強制休息で寝ているあいだも、俺はあんなことに……?

 戦々恐々とする俺に、いえ、とダンは硬い口調で言う。

「普段であれば、ただの口付けで済むのです。あれは魔力回路をこじ開けるために……いえ、言い訳はしません。私は司祭長様に無体を働いたのです」

 なるほどな。BLゲームの世界だし、あり得る……のか? 確かにそういった要素があったとしてもおかしくない……か? いや、原作者は俺なんだよな。俺がそういう場面を入れていたということか? あんなか弱い少年に……。まあ、そもそも物語の世界だし、あり得る……と思ってもいいのだろうか……。

 それにしても……と考えると、思わず、ふふ、と笑い声が漏れた。ダンは恐る恐る顔を上げ、俺を見つめた。

「神殿騎士団団長ともあろうお方が、私に叱られると思っているのですか?」

 いまのダンは、まるで飼い主に見下ろされる子犬のようだ。こんなガタイの良い男をそう表現していいのかはわからないが。

「叱責を受けるのは当然のことです。司祭長様に無礼を働いてしまったのですから」

「そんなに思い詰めないでください。実際、私はあれで助かったのです。自分でもどうしようもない状態でしたから」

 魔力を封じられたとき、ナビは正常に機能しなかった。せめてナビが機能していれば、強制休息に入って自力で回復することもできただろう。だが、それすらできない状態だったのだ。

「もし団長がキリオを探しに私から離れていれば、私はどうなっていたかわかりません。だから私は感謝しているのです。これからも頼りにしていますよ、神殿騎士団団長殿」

「は、これからも忠誠を尽くします」

 ダンは敬礼をして出て行った。なんて生真面目な男だろう。悪役神官に忠誠だなんて。まあ、無下にするのも申し訳ないしな。これは受け取っておこう。

 しかし……。

「ナビ、ダンが言っていたことは本当なのか? 魔力回路をこじ開けるために、あんな……」

【緊急時の対応としては適切です。魔力回路を封じられては、私も対応できません】

「まさかこの先、またあんなことが起きたら……」

 考えるだけでも恐ろしい。俺ならまだいいが、あのか弱いキリオがあんな目に……あんな目と言うのもなんだが……。

【世界王の寵児は街角の女王に発見されました。警戒が必要です】

「街角の女王、ね。面倒なものに目を付けられたもんだ」

 しかし、そんな設定があっただろうか? また記憶がない弊害が出てきたな。存在を認識したことでこの先の対処はできるはずだ。街角の女王の狙いが「世界王の寵児」なら、キリオが危険に晒されることもあるかもしれない。最大限の警戒が必要だな。

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