63.侵入者
裏門の前には、すでに神殿騎士団が集合していた。まだ深くないとはいえ、一日の余暇を楽しむための時間に招集されても、文句ひとつ言うことなく、一糸乱れぬ姿で整列している。それが神殿騎士団の役目なのだが。
「侵入者は南門です」俺はダンに言った。「まだ人家には届いていませんが、時間の問題です」
「各門の騎士隊に報せを出しました」と、ダン。「すでに住民の避難は始まっています」
人家に届いていないのか、人家を無視して街の中を突き進んでいるのかはわからないが、もし世界王の寵児が神殿にいると感知しているなら、真っ直ぐ神殿に向かって来ているだろう。そうだとしても、民の避難は必要だ。
今回も俺は馬車に促されて拒否した。王都に侵入したのだ。馬車では間に合うはずがない。俺はリュクスのとき同様、ダンの馬に乗せてもらうことになった。他の司祭たちは馬車で向かう。いずれ俺も含め、司祭たちも乗馬訓練をしなければならなくなるかもしれない。
しかし、どうなっているんだ。俺に危険があることも含め、ハーグレイヴズ神はなぜ俺でなくキリオに神託を降ろしたのか。それに、危険なのがキリオではなく俺なのはどういうことだ。
【警告。狙いは世界王の寵児です】
(それをキリオだと判断した俺が間違っていたということか)
どちらにせよ、俺は行かなければならない。争いが起きるということは、必ず負傷者が出る。もし重傷の者がいれば、俺の治癒魔法が必要になる。例え誰になんと言われようと、世界王がどう考えていようとも、俺は自分の力を誰かの役に立てるべきなのだ。
「魔物の気配がします」ダンが冷静に言う。「侵入者は魔物なのですか?」
「残念ながら、今回はこの国を侵害するものということしか検知できていません」
リュクスとブロークは明確に人間同士の争いであることがわかった。だが、今回は俺が映像を見る前にナビの警報が入った。俺はまだ、争いの場面を見ていないのだ。
「ですが、魔物だろうが人間だろうが変わりません。魔物のほうが倒せる分、楽かもしれません」
「貴方様らしい考え方です。確かに魔物なら遠慮は要らなくなります」
もし侵入者が人間であった場合、生きて捕らえる必要がある。もし魔物であれば、目的を訊いたところで話にならない。討伐して済む分、魔物のほうが楽なのだ。
「ですが、おかしいですね。厳重な結界が張られているはずの国境を、こんなに容易く魔物が越えるなんて」
王都を守るのは国境警備隊だけではない。王都は宮廷魔法使いに加え、教団の司祭たちよって強力な結界に囲まれている。それが王都への進行を防ぐ盾となるはず。そう簡単に越えられる壁ではないのだ。
「あの結界を越えられる魔物がいるはずがありません。考えられるとすれば……」
「誰かが魔物を手引きした……ということですね」
僅かな怒りを湛えたダンの声に、俺は静かに頷いた。魔物があの結界を越えられるはずがない以上、意図的に結界に穴を開けた者がいたとしか考えられない。信じたくないことだが、王都を脅かす者がいるということだ。
「そう考えざるを得ません。王宮でも教団でもない、悪意のある人間がどこかにいるのです」
悪意のある人間はどこにだって存在する。いちいち炙り出していてはキリがないだろう。だが、今回、その悪意のある者を取り逃がせば、王都は再び危機に晒されることになるかもしれない。それはなんとしても避けなければならないだろう。
「この件が終わったら、私とキリオが協力してより厳重な結界を張る必要があるでしょう」
「ふたりの世界王の寵児がいらっしゃれば、この国の平和は保証されたようなものですね」
「そうとも言えません。世界王の寵児だとしても、神ではないのです」
そう、俺は原作者だが、神ではない。この国の永久の平和を望めば、それも叶うのだろうか。
【警告。魔力値を超えた望みを叶えるには寿命の消費が必要となります】
(なんでも都合良くとはいかないか)
原作者だからと言って、世界を歪ませるほどの力はない。例えその力があったとしても、俺は世界を歪めるつもりはない。この世界は自分の意思を持った人間しか存在しない。世界を歪ませるのは許されないことなのだ。




