62.お告げ
さて、今日は平和な夜を過ごせるといいんだがな。
そんなフラグのようなことを考えながら布団を被ったとき、頭の中でけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
【警報、警戒。王都に侵入者あり】
「王都だって?」
【神殿騎士団の招集を推奨】
俺は布団を蹴り飛ばし、部屋を飛び出す。すでに侵入者が王都に到達しているなら、争いが起きるまで間もないはず。いままで以上に速やかな出撃が必要だ。
寝室の外には、いつも通りにダンがいた。俺が飛び出して来た時点で、俺が何かを察知したことはわかったようだった。
「団長、神殿騎士団を招集してください」
ダンは即座に頷く。俺の争いを察知する能力はダンも信用しているはずだ。
「王都に侵入者がいます。狙いはキリオです。キリオのところに護衛を送ってください」
「承知いたしました」
ダンは二羽の報せ鳥を出したあと、騎士団を招集します、と離れて行った。俺も支度をしなければ。
なんでこうも、平和に過ごせないもんかね。
キリオが狙いであることは、ほとんど俺の勘のようなものだ。侵入者が何者かはわからないが、守りの硬い王都まで侵攻して来た。王都で争いを起こすにはかなりの危険がある。神殿騎士団はもちろん、宮廷騎士団もいるのだ。よほど高い能力を持った侵入者らしい。
身支度を済ませて部屋を出ると、マーヤとクリス、セオドアが集まって来るところだった。みな、戦いに出る準備はすでにできているらしい。
「またアウグステン帝国か」セオドアが顔をしかめる。「フィルハーベットは何をしている」
アウグステン帝国との国境にある関門のフィルハーベットには心強い見張りがいる。もし侵入者がアウグステン帝国の兵士だとしたら、関門を簡単に越えられたことになる。
「今回はおそらく違います」俺は言った。「狙いはキリオです」
キリオは第二の世界王の寵児として狙われる。例え能力の一部が消滅していたとしても、キリオの聖君としての価値は変わらない。キリオはどこから狙われたとしてもおかしくないのだ。
「司祭長様!」
緊張した声が俺を呼ぶ。キリオとリーヴが俺たちのもとへ駆け寄って来ていた。ふたりとも外に出る準備ができているようだった。しかし、護衛の姿がない。護衛がキリオのもとへ行く前に部屋を出て来たらしい。
「キリオ、きみは神殿騎士団の護衛と一緒にいてください。外に出てはなりません」
「王都に侵入者がいるんですよね。僕も連れて行ってください」
キリオは真剣な表情で言う。俺が暗に危険だと言ったのがわからなかったのだろうか。
「ハーグレイヴズ神のお声が聞こえました。僕の魔法が必要になります。連れて行ってください」
キリオの瞳は強い意志を湛えている。戦いを恐れない、強い意志。
ああ、これは“イベント”だ。キリオが誰かの好感度を上げるための、最初のイベントなんだ。だが、それを阻止するより以前に、キリオを危険に晒すわけにはいかない。
「駄目です。まだ聖君として能力を確立させていないきみには危険すぎます」
「危険なのは司祭長様です! ハーグレイヴズ神は司祭長様をお守りするよう仰っています」
俺を守るって? ハーグレイヴズ神が? どういうことだ……ハーグレイヴズ神、俺には何も……。
「実地訓練だ」
セオドアが俺の肩に腕を回すので、俺はハッとした。
「魔法の使い方を学べばいい。何も前線に立たせるわけじゃない」
キリオは力強く頷く。ここで引き下がらせることはできないようだ。
「できるだけ騎士の後ろにいてください。前に出れば、私はきみを許しません」
「はい、お約束します」
キリオは真剣な瞳で俺を見つめる。約束を違えることはないと確信させる意志を湛えて。
ハーグレイヴズ神のお告げは気になるが、とにかく争いを止めなければならない。俺の何が危険なのかはわからない。それでも、この街を守らなければならないのだ。




