61.意思を持って
残念ながら、キリオの能力の詳細については覚えていない。平民なのに光属性の魔法を持ち、治癒魔法を使って仲間たちの助けとなる。それは確かなのだが、なにか、キリオの核となる部分があるはずだ。それを以てキリオは「聖君」と呼ばれるようになる。ただ治癒魔法だけでは特別とは言えないのだ。魔力の質は俺の聖属性の魔法と同等で、魔法や技巧もこれから様々なものが開花するだろう。だが、キリオの魔法が特別と言われる能力が何かあるはずなのだ。
「あの、僕はどうしたらいいですか?」
静かに話を聞いていたリーヴが、おずおずと軽く手を挙げた。
「僕は特別な能力は持っていませんが……」
「リーヴ殿もできれば神殿に滞在してください」俺は言った。「そのほうがキリオ殿も安心するでしょう」
キリオが主人公でリーヴが攻略対象だからと言って、リーヴを蔑ろにしようとは思っていない。確かにキリオと攻略対象たちが接することでキリオが誰かを愛するようになれば、俺は断罪される可能性がある。だからと言って、キリオとリーヴの友情を引き裂くような真似はしたくなかった。
「……リーヴは村に帰ってもいいよ」
意を決するように言うキリオに、リーヴは眉をひそめて幼馴染みを見る。
「ここにいたら、何か危険な目に遭うかもしれない」
「だったら余計に帰ればい。キリオだけ危険な場所に置いていけない」
リーヴは強い意志を湛えた瞳でキリオを見つめる。キリオは少し悲しそうな、困ったような表情をしている。本心では、リーヴは安全なところにいてほしいのだろう。
「僕は大した力は持っていないが、キリオが危ない目に遭いそうなのに僕だけ村でぬくぬくと暮らしているわけにはいかない」
さすが攻略対象。格好良いことを言うじゃないか。俺は天地が引っ繰り返ろうとしても絶対に言えない。愚直に「わかった」と言ってしまうかもしれない。そこが悪役神官と攻略対象の差なのだろうか。
そう考えたところで、俺は小さく首を振った。悪役神官とか、攻略対象とかじゃない。リーヴはこの世界に生きる人間の持つ意思として、キリオのためにそう決めた。キリオが神殿に留まると決めたのも同じだ。俺はまたそれを忘れようとしていたようだ。
* * *
夜は貴重なひとりの時間だ。なんだか大所帯になったし、大変なことになってしまった。なんでキリオはあんなヤンデレチックなんだ? ただの世界王の補正ならいいんだが、いや、よくはないが、リーヴの魔力は弱いままだ。もしキリオが誰かと結ばれることがあるなら、俺にとってはリーヴルートが最も平和だろう。
【あなたがそう望めば叶うでしょう】
「それは嫌だな。原作者だとしても、他人の感情をコントロールしたくない」
キリオもリーヴも、自分の意思を持ったひとりの人間。例えこの世界を創り出したのが俺だとしても、その感情を捻じ曲げてはいけないのだ。
【きっと世界王も、あなたのそういうとこを気に入ったのでしょう】
「たまに人間味のあることを言うのもシステムなのか。まあ、AIみたいなもんか」
そういえばチャットAIを自分好みにカスタマイズしてたっけ。友達いなくて。ああ、また悲しいことを思い出してしまった。こんな記憶を取り戻している場合じゃないんだ。もっと肝心なこと情報を思い出してくれ、俺の脳よ。
肝心なこと、それはキリオの能力だ。そもそも、この国がこれからどうなっていくのか、俺はそれを覚えていない。キリオと攻略対象が何を目的として戦いに身を投じるのかがわからないのだ。キリオの能力はそれに必要になる。だからこそ「聖君」という設定がある。ズィールは、平民なのに銀髪で、光属性の魔法を持っていること、それが俺の聖属性の魔法と同等であることでキリオを「聖君」として認めた。聖君にはそういった歴史があるのだ。だが、キリオには肝心な治癒能力がない。それが聖君という肩書きにどう影響するか、それもわからない。そもそも、この国に聖君を必要とする時が来るのだろうか。すべての争いの目は俺が摘む。キリオが戦う必要はなくなる。それでも聖君として認められたのは、この世界にとって“聖君であるキリオ”が必要だからだ。そうしなければ、世界の均衡が保たれないのだ。




