60.永久に平和であるべき世界
俺とキリオ、リーヴが聖堂を出ると、他の四人は扉の前で待っていた。キリオの能力値がどれくらいのものか、みんな、気になっているのだろう。
「キリオの能力値はどうでしたか?」
最初に口を開いたのはクリスだった。俺はステータスボードを持って来ていない。キリオの能力値に関して、彼らに詳細を話す必要はないと思ったからだ。
「キリオ殿は特別な魔力を持っています」俺は言った。「この国において『聖君』と呼ばれるようになるでしょう」
キリオの持つ光属性の魔法は、ただそれだけでは特別とは言えない。光属性の魔法はこの世界に当然に存在する。取り立てるべきは魔力の質だ。キリオの魔力は治癒魔法こそ消されていたもの、俺の聖属性の魔法と同等の質を持っているのだ。
「では」と、クリス。「この国が争いに巻き込まれる可能性があるのですか?」
「それはあり得ません」
「やけに自信があるな」
セオドアが感心したように言う。物語通りの筋書きであれば、この国は確かに争いに巻き込まれる。そのためにキリオと攻略対象たちが立ち上がる。この国は、永世中立国ではいられなくなる。だが、それはあり得ないことだ。
「この国に降りかかるすべての争いは、私が阻止します」
エターナリア王国は永久に平和であるべきだ。それが、この世界の創造主である俺の望み。この世界は、世界王が俺の望みを叶えるために創ったもの。俺が望めば争いが起きる。つまり、俺が望まなければ争いは起きないのだ。
「さすが世界王の寵児」セオドアが悪戯っぽく言う。「だが、あんたならできそうな気がするな」
「あ、あの……」
キリオが俺の顔色を窺うようにしながら口を開いた。また不安そうな顔をしている。
「僕が第二の世界王の寵児として天啓を受けたことで争いが起きるのですか?」
「そういうことではありませんよ」
キリオを安心させてやろうと、俺は微笑みながら優しく言う。キリオはまだ第二の世界王の寵児として天啓を受けただけで、すべての能力が開花しているわけではない。いまのキリオでは、この国を守ることはできない。
「すでにこの世界に争いの種が撒かれているのです。第二の世界王の寵児の誕生はその予告のようなもの。だから防ぐことができるのです」
「そうなんですか……」
「何より、この国を争いから守るために世界王の寵児が存在しているのですよ」
キリオは自信のない表情で頷く。この世界が物語通りに動けば、エターナリア王国は争いに巻き込まれることから逃れることはできない。ゲームでは、キリオと攻略対象がエターナリア王国に攻め込む暴徒と戦闘をすることになる。もちろん殺すわけではない。防衛戦のようなもので、戦闘に勝利すると暴徒を追い出すことができるのだ。
「キリオ殿はこの国を守る大切な人です。その力をこの国に役立ててください」
世界王が俺を争いに巻き込むとは思わないが、キリオの出現という予定調和は崩せなかった、と言うより、キリオが登場しなければこの世界の均衡は保たれないのだろう。俺たちと出会わなければ、キリオがこの世界に存在するだけでは意味がないのだ。
「はい! 司祭長様のお役に立てるよう頑張ります!」
キリオは輝く瞳で俺を見つめる。キリオの頭の中は俺が占拠しているらしい。
「司祭長のことしか頭にないのか?」
呆れて言うセオドアに、キリオは拳を握り締める。
「当然です! 僕は司祭長様に会うためにリュクスを出て来たんですから!」
第二王子に対して臆することなくこんなことが言えるのは、キリオが主人公だからだろう。本来のキリオは内向的で恥ずかしがり屋という設定で、セオドアに対しては、最初のうちは遠慮がちに接する。物語を進めていくうちに馴染んでいくのだ。最初からこんなに堂々としているのは、世界王の調整が入っているのだろう。
「司祭長は人を魅了して止まないようだな」
楽しむような表情で言ったセオドアが、俺の肩に腕を回す。その行動に、キリオの眉がぴくりと震えた。
「司祭長様に軽々しく触れられるのはやめていただけませんか」
キリオの顔に影が落ちる。若干、ヤンデレが入っているような気がするのは俺だけだろうか。俺だけだろうな。
「えーと……仲良くしてくださいね」
「はいっ! 司祭長様!」
キリオは手を組んで俺を見つめる。なぜその輝く瞳を俺に向けるんだ。俺は攻略対象ではないのに。俺はあくまで、悪役神官なのだ。




