↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を失くした悪役神官は総溺愛に気付かない  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/73

56.役割を捨て

 セオドアは意地の悪い笑みを浮かべ、この状況を楽しんでいる。早くこの手をどうにかしなければまずい。いろんな意味で!

「嫌ならいつものように技巧(スキル)で逃げればいい」

 きっと「威圧」のことを言っているのだろう。確かに威圧なら、セオドアを退けることができる。だが……。

「こんな狭い部屋で使えるわけがないじゃないですか。窓が吹き飛んでしまいます」

 俺はなんとか力で解決できないかと抵抗を試みるが、さすが剣の鍛錬を積んで来ただけあって、セオドアの肩を押してもびくともしない。セオドアは相変わらずニヤニヤと笑っている。

「それなら大声を出せば団長が気付くだろ」

 それは確かにそうだ。部屋の外にはダンがいて、部屋の中が異常事態であると気付けばすぐに駆け込んで来るはずだ。だが、こんなところを見られては、ダンがどう出るかわからない。セオドアはこの神殿に居辛くなるかもしれないが、俺との契りがあって許可なく神殿を出られない。

 いやいや、人の心配をしている場合ではない。いまこの状態をどうにかしなければ。

「な、何が目的なのですか。また契約しようとしているのですか?」

「契約に必要なのは、首の裏に口付けをすることだ。目的なんてわからないわけがないだろ?」

 そうなのか。首の裏に口付け……。だから俺の制服は肩が出る代わりに襟でしっかりと首を隠しているのか。

 そんなことを考えている場合じゃない。セオドアを傷付けずに退けるにはどうしたらいい……。

「お、お戯れがすぎますよ」

「いままでこうして何人もたぶらかして来たんだろ?」

「そんなわけないですよ。たぶらかすなら自分から行くはずではないですか」

 どうでもいいことばかり口から出て来る。本来のフランなら、きっとこんな状況になっても上手く躱したんだろうな。本来のフランであれば、セオドアもこんなことはしなかったかもしれないが。

 セオドアは小さく笑うと、両手を軽く挙げながら俺から離れた。

「悪い、冗談だ」

 俺は大きく息を吐いた。正直、心臓は飛び出しそうなほど乱れているし、魔法で傷付けて自分で治癒するという暴挙も頭を過ぎっていた。だが、それは自ら悪役神官になる第一歩を踏み出そうとしているようなもの。どうしたってセオドアを傷付けるわけにはいかないのだ。

「冗談にしては悪趣味ですよ」

 睨み付ける俺に、セオドアは飄々と肩をすくめる。もし俺がそういう面で経験豊富なら、このまま……なんてこともあり得たんだろうか。そうだとしたら恐ろしいとしか言いようがない。

「お前があまりに明後日なことを言うもんだからな」

「明後日?」

「キリオについてどう思うか、だ」

 セオドアは笑みを浮かべているが、先ほどまでの悪戯っぽい笑みからは一転、探るような視線を俺に向けている。俺はただ首を傾げた。

「それなら答えたではありませんか」

「本当にキリオに興味がないんだな……。まあいい」

 気を取り直したようにセオドアは立ち上がる。その言葉の真意を計り兼ねる俺は、首を傾げてセオドアを見るしかなかった。

「今日のところはこれで退散するよ」

 おやすみの挨拶をしてセオドアが出て行くと、俺は大きく息を吐いた。しかし、今日のところは……か。末恐ろしいな。

 入れ替わりでダンが室内に入って来た。その表情は険しく、怪訝な顔をしている。

「セオドア様に何かされませんでしたか」

 俺とセオドアの会話は聞こえていなかったはずだが、ダンのセオドアに対する信用はかなり低いらしい。セオドアなら俺に何かし兼ねないと考えているのだ。

「と、特に何も。少し話をしただけです」

「少し話をしただけのお顔には見えませんが」

 ダンの言う通り、俺の顔は熱い。セオドアに何かされたことは明白だろう。だが「何かされた」のうちには入らないはずだ。「何かされそうになった」というのが正しいのだから。

「本当に何もありません。私はもう寝ます」

 誤魔化すように布団を被る。ダンは納得していない表情だが、おやすみの挨拶をして俺の前をあとにする。ダンに話せば、セオドアは無事では済まない。例え王族だとしても、司祭長に良からぬ言動を取れば簡単に首が飛ぶかもしれないのだ。

 しかし、びっくりした。なんでセオドアはあんなことを……。王族の戯れにも程があるだろ。キリオのことをどう思うか、だって? ちゃんと質問には答えたじゃないか。

 キリオに関しては、とにかく神殿で保護して普通に接してみるしかない。いまの段階では、キリオのことはまだ何もわからないのだ。

 それにしても……もしかしたら、あのままセオドアと夜をともにする可能性があった……のだろうか……。いやいやいや、そんなまさか。ただの戯れだ。そのうち興味がキリオに移るはずだ。そうすれば、俺は静かに暮らせるようになる。だが、そうなったら俺はどうなるんだろう。悪役神官の役割を捨てて、俺はどうなる? ただの司祭長として、この生涯を過ごすことになるのだろうか。それはそれで、きっと悪いことではないのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。