↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を失くした悪役神官は総溺愛に気付かない  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/72

49.発見

 クリスに周囲の警戒を任せ、俺はまた少女の回復に意識を集中する。少女の傷は深いが、俺の治癒魔法があれば回復できるはず。俺の治癒能力は、蘇生以外の再生を可能にする。どれだけ深い傷であろうと治すことができるのだ。

 魔力が少しずつ減っていくのを感じていると、少女が薄っすらと目を開いた。

「……あたし……生きてる……?」

「もちろん。私が来たからには、誰も死なせませんよ」

 俺は少女に微笑んで見せる。少女は安堵したように薄く笑って頷いた。

 そのとき、ナビの雑音が耳の奥で響いた。少女の回復に意識を向けたまま目を閉じる。頭の中に砂嵐の混じった映像が流れ始めた。それは木々に囲まれた光景。これはきっとこの町を囲う林だ。

「クリス殿! 第二の世界王の寵児は林の中にいます! 行ってください!」

 俺の声に振り向いたクリスは、躊躇うように眉をひそめた。

「それでは司祭長殿の護衛がいなくなってしまいます」

「私は大丈夫です。首さえ無事ならいいのですから」

 俺の治癒魔法は自分にかけることもできる。俺も命さえ残っていれば、自分で自分を回復することができるのだ。

 クリスは後ろ髪を引かれる表情のまま頷き、俺のもとから離れていく。とにかく第二の世界王の寵児の保護が必要だ。もし主人公(キリオ)の命が脅かされれば、この世界の均衡に関わってくるかもしれない。なんとしてもキリオを見つけなければならないのだ。

(感謝するよ、ハーグレイヴズ神。世界王なんかよりずっと当てになる神様だな)

 世界王はそういう存在だとナビが言っていたが、ハーグレイヴズ神は神であるため司祭長()との距離が近いのだ。高位の司祭長だとしても、世界王との距離は縮めようがないのだろう。

「フラン様!」

 少女の回復を他の司祭に任せた頃、マーヤが俺を呼んだ。

「女性の腕が見つかりました!」

 先ほど絵が描けなくなることを恐れていた女性の腕だ。俺は急いで女性のもとに戻る。少しでも回復が遅れれば、俺の治癒魔法が効果を発揮しなくなるのだ。

 女性はウェザーに支えられたまま、まだかろうじて意識を保っている。俺は女性の右腕を元あった場所に当て、治癒を始めた。しかし、女性は限界を迎えた様子で意識を失いかける。腕を斬られてからしばらく経っているのだろう。これだけ血が出ていれば当然のこと。だが、意識を失えば俺の治癒魔法が届かなくなるかもしれない。

「気をしっかり。また絵を描きたいのでしょう?」

「……あたし……自分が生きてる意味なんて、ないと思っていたの……」

 女性が弱々しい声で言う。意識が混濁しているのだ。だがその言葉に、俺は胸が重く痛んだ。

「いくら、描いても……描いても……出口が見えないの……」

 女性の瞳から涙が落ちる。それと同時に、俺の頭の中に何かの音が響いた。それが人の声であると認識すると同時に、何を言っているかはっきり聞き取ることができた。

 ――いつになったら仕事を覚えるの?

 ――なんでこんなこともできないんだ。

 ――もっと考えて動けないのか?

 ――もう新人じゃないのよ。

 そうだ……出口が見えなかった。そもそも、俺には入り口なんてなかったのかもしれない。そんな気がして、心の中に重い何かが落ちたように感じる。思い出したくない何かが頭の中に浮かんでくる。俺の中から失われた何かが。

「……大丈夫よ、司祭長様……」

 ほんの少しだけ力を取り戻した声で、俺は意識を現在に戻す。女性はまるで俺を安心させるように、弱々しくも穏やかな微笑みを湛えていた。

「あたし……描くわ。死ぬまで……描き続ける。ハーグレイヴズ神が、あたしたちを見守って……くれているのでしょう?」

「ええ。私たちはハーグレイヴズ神に守られていますよ」

 世界王、あんたがどんな物語を描いているのかは知らない。だが、フランの人生は俺の新しい人生だ。足掻けるだけ足掻いて見せる。

「司祭長様!」

 女性の腕がくっついた頃、ダンが俺を呼んだ。剣はすでに腰の鞘に納められている。戦いが終わったのだ。

「制圧が完了しました」

「……まだです。まだ第二の世界王の寵児が見つかっていません」

 今回の出撃は暴徒の制圧と民の救護のためだが、肝心なのはキリオの発見だ。キリオを見つけることができなければ、もしくはキリオが無事でなければ、この世界の存続が危ぶまれることになるかもしれない。例え俺の創った世界であったとしても、主人公の存在が必要なのだ。

「第二の世界王の寵児は林の中にいます。探してください!」

「かしこまりました」

 ダンが踵を返すのを見送って、俺は次の重傷者のもとに向かった。重傷の民はまだ多くいる。まだ気を抜くことはできない。キリオの発見は重要だが、傷付いた民たちは俺の治癒魔法がなければこの町を完全に救うことはできないのだ。

 ダンに指示を出してからしばらく、俺は重傷者のもとを転々とした。

(くそ……キリオはまだ見つからないのか?)

 最後の重傷者を癒し、立ち上がると、俺の体がふらりと揺れる。意識が遠くなるのを感じた。

【魔力が限界値を下回りました。休息に――】

(いや、まだだ)

 足に力を込め、倒れかけた体を支える。それから自分の中に意識を集中させた。

(魔力回路……開放!)

 ぜんまい仕掛けの回路を解きほぐすイメージを浮かべる。魔力回路というものがどんなものであるかはいまでもわかっていないが、魔力回路には魔力が流れている。キリオの発見のため、俺はまだ休息モードに入るわけにはいかないんだ。

「司祭長様! 銀髪の少年が見つかりました!」

 クリスの呼び掛ける声に、俺は遠くなりそうな意識を無理やり保ちながら顔を上げる。キリオが見つかれば、今回の任務は完了する。それまでは意識を保つ必要があるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。