47.ブロークへ
厩から俺以外の馬を回収しているうちに、神殿から次々と騎士たちが集まり始めた。そのキビキビとした動きは、鍛錬で精錬したことがよくわかる。騎士たちが足並み揃えて整列すると、ダンが俺のもとへ歩み寄って来た。
「まだ争いは起きていないのですか」
「いまはまだ。ですが、間もなく始まるはずです」
「今回は馬車に乗ってくれるのでしょう?」
前回のリュクスの件では神殿を発つ時点ですでに争いが始まっていたため、ダンの馬に乗せてもらった。今回はまだ争いは始まっていない。ダンとしても、安全な馬車に乗ってほしいのだろう。
「馬車には乗りますが、急いでください。第二の世界王の寵児は危険な目に遭うはずです」
先ほど視た映像では、視界の主はひたすら逃げていた。あれが第二の世界王の寵児――キリオなのだとしたら、キリオは狙われることになるのだ。
「司祭長様!」
コーレインが司祭たちを連れて裏門に出てきた。争いでは必ず傷付く民がいる。司祭たちの治癒能力は必要不可欠になる。例え蘇生以外の再生を可能にする治癒能力を持っていたとしても、俺ひとりでは役立たずも同然なのだ。
俺が馬車に乗り込むと、コーレインとズィールとサランが乗り込んだ。他の司祭は二台目の馬車に乗るようだ。前回の件で神殿騎士たちは馬車を置いて先にリュクスに向かったが、今日は馬車に合わせて走るらしい。マーヤとクリス、セオドアもそれに続いているだろう。
馬車が動き始めた瞬間、ナビが雑音を発した。俺は意識をナビの音に集中する。すると、俺の脳内に流れたのは映像ではなく音声だった。
『私が愛するのはキリオではなく、キリオが愛するのは私ではない』
『キリオに警戒せよ』
それは世界王の声だ。キリオはすでにリュクスを発った、と言っていた。争いの地に向かっている最中にこの声が再生されたということは、キリオはブロークにいるのだ。
(世界王……あんたと言葉を交わせるのは夢の中だけなのか)
【世界王は遠い存在。夢に現れるのもギリギリなのです】
それは当然だろう。すべての世界を統べる王。それがたったひとりの人間のもとに降りることが特例なのだ。世界王の神託が降りれば王国中が騒ぎになる、とセオドアも言っていた。世界王が誰かひとりを特別視することが異例なのである。
(ハーグレイヴズ神は俺に天啓を降ろしてくれないのか?)
【神は言葉を持ちません。ただし、目を借りることはできます】
ナビの音声が途切れると、頭の中に映像が流れ込んだ。辺り一面が炎に包まれている。その中から聞こえる金属音、悲鳴、怒号。リュクスの件と同じように、ブロークにも蛮族が攻め込んで来るのだ。キリオはもともとリュクスにいた。何者かがキリオを狙っているのは間違いない。
キリオが狙われているのだとしたら、キリオの価値を知っている者が手引きしているとしか考えられない。そう考えて、俺の頭にある疑念が生まれた。キリオの価値を知っている者、それは……教団の司祭なのではないだろうか。リュクスではまだキリオは発見されていなかった。それでもリュクスは襲撃を受けた。アウグステン帝国の兵士が侵攻を狙ったためだとも言えるが、その次に狙ったのがキリオのいるブロークであるというのはあまりに出来過ぎている。王都の隣町であるブロークに攻め込めば、俺の予知がなくとも王宮騎士団がその討伐に向かうはず。危険を冒しすぎていると言わざるを得ない。それが、第二の世界王の寵児がそこにいると知っているのだとしたら当然だと言える。つまり、誰かがキリオを害するために手引きしたとしか考えられないのだ。




