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記憶を失くした悪役神官は総溺愛に気付かない  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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43.世界王の庭

 ぴちょん、と響く澄んだ水滴の音で目を覚ます。またあの白しかない空間に座り込み、佇んでいた。この場所を俺は「庭」と呼ぶことにした。おおよそ庭とは思えない空間だが、俺と世界王だけが存在する、世界王の庭だ。

「よう、世界王。随分と久し振りじゃねえか」

 俺の声は相変わらず子どものようで、ふっくらとした手足も子どものものだ。

「なんでここにいる俺は子どもの姿なんだ。これもあんたの趣味なのか?」

 前回、ここに来たときのことを思い返すと、世界王が俺と会話をするつもりがあるかわからない。それでも、何もせずここに居る意味はないのだ。

『我が愛する子よ』

 威厳を湛えた声が響く。ナビは世界王を執着心の強い王だと言っていた。世界王はいまだ俺を手放すつもりはないのだ。

『お前はまだ、生まれて間もないのだ』

「なるほどな。この世界において、俺という存在は生まれたばかり、ってわけか」

 フラン司祭長はもともとこの世界に存在していた人間で、俺はこの世界に来たばかりの魂。生まれたばかり、という言葉は俺を納得させた。

「で? あんたが愛するキリオはどこにいるんだ?」

 第二の世界王の寵児はおそらく、俺と同じ聖属性だ。ただの光属性の魔法使いは、この世界では特段、珍しいということはない。そもそも、この世界の魔法は貴族にしか扱えない。平民なのに魔法が使える、という時点で特殊ではあるのだが。それでも、ただの光魔法だったら神殿に来ることはないのだ。

『私が愛するのはキリオではなく、キリオが愛するのは私ではない』

「なに言ってんだ。キリオは第二の世界王の寵児だろ」

 世界王は応えない。都合が悪くなると黙るのはなんとも人間味のあることだ。

「まあいい。早く見つけてやらないと。何か危険な目に遭うかもしれない。だから早く教えろ」

 世界王と言いナビと言い、どうしてこうも俺に必要な情報を降ろさないもんかね。世界王はもともとそういった存在だとしても、ナビは俺をサポートするためのシステムだ。俺の質問に曖昧でもいいから答えてくれるといいんだがなあ。

「それとも、やっぱりリュクスにいたのか?」

『キリオはリュクスをった』

 思わぬ返答に、へ、と俺は思わず間抜けな声を出した。きっと表情にも出ていただろう。世界王が質問に答えると思っていなかったのもあるが、その内容に俺は驚いていた。

「リュクスにはいないって?」

 キリオの出発点はリュクスの襲撃事件だ。あの事件で聖属性の魔法を開花させ、そこから旅が始まる。俺が活躍したことでキリオの出発を阻止してしまったのではないかと思っていたが、リュクスを発ったということは、もう物語は始まっているということなのか?

『物語は始まっている。お前だけの物語だ』

「結局、自分で探せってことか。まあいい。俺ならそれくらいできるんだろ」

 何せ俺は世界王の寵児だ。同じ世界王の寵愛を受ける者ならすぐに見つかるかもしれない。

『キリオと契約してはならない』

 今日は珍しく世界王が饒舌だ。しかも、俺に対して忠告してくる、だって?

「安心しろ。俺は誰とも契約するつもりはない」

 例えどんなことが起きたとしても、俺は誰とも契約しない。世界を救うためだとしても。それが攻略対象なら尚更だし、主人公なんてもってのほか。誰かをえこひいきするつもりはないんだ。

『キリオに警戒せよ』

「キリオを警戒……? キリオは俺を破滅させようとするのか?」

 世界王はまた口を閉ざす。肝心なことを教えてくれるつもりはないようだ。

「まあいい。俺はあんたの思い通りにはさせないと決めたんだ。この世界の運命を創るのは俺なんだろ。それなら、とことん俺に都合良くさせてもらう」

『我が愛する子よ。運命はそなたに託された』

「要は丸投げってことだろ。上司ってのはどこもそんなもんなのかね」

 前世のことを思い出したわけではないが、上司がどういったものかは理解している。そして、俺が上司を嫌っていたことも。

「あんたは高みの見物でもしているといい。この世界が……俺がどうなるか。破滅したって、あんたを恨んだりはしないさ。例え幸せになれなかったとしても、な」

 物語には「強制力」というものが存在している。例え俺が運命を創っていたとしても、何かしら強制力が働いて、俺の思っている通りの物語にならないかもしれない。だが、俺も、彼らも、意思を持ってこの世界に生きるひとりの人間だ。もしかしたら誰かが俺を断罪するかもしれない。だが、そうなるとしたら、それが俺の運命なのだ。

『我が愛する子よ。私はいつでもそなたを見守っている』

「俺はあんたを愛さないがな。好きにやらせてもらうよ」

 第二の世界王の寵児は世界王を愛していない。俺も世界王を愛さない。なんとも不可思議な寵児たちだが、世界王はそれすらも受け入れるのだろう。なんとなく、そんな気がした。

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