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記憶を失くした悪役神官は総溺愛に気付かない  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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41.ナビとの時間

 寝る前の支度をしてマーヤが下がっていくと、あとは俺ひとりの世界の始まりだ。

 ベッドに寝転がり、布団を被って、抱き枕を抱く。すべての社会人が「お布団サイコー!」と言いたくなる体勢だ。俺は前世の布団も決して嫌いではなかったが、この最高級羽毛布団に包まれたら、もう二度と戻れなくなる。しかも神殿の女官たちが毎日、敷布団と掛け布団を天日干ししてくれてるんだ。これを最高と言わずに何を最高と言うのだろうか。

 さてと、俺ひとりの世界から、俺と“案内人(ナビゲーター)”の時間へと移ろう。

「ナビ、第二の世界王の寵児はどこにいる?」

【私には何も言えません】

 このナビは俺の質問に答えたり答えなかったり、曖昧なことを言ったり、あんまり当てにはならない。そもそもどういったシステムなのかもよくわからないが。

【物語に関わることは言及できない仕組みになっています】

「物語、ね……。これは俺にとって物語じゃなく、人生だ。新しい人生なんだよ」

【それはもちろん。この生は、あなたの新しい生です】

 機械的だ。人間でないことはわかっている。チャットAIのようなものだと理解してはいるが、このナビの正体が魔法にしても技巧(スキル)にしても、俺にとってどういう立ち位置にいるのかはまだ判然としない。

「主人公……キリオは、この世界のどこかに存在してるんだろ?」

【もちろん。キリオはこの世界において欠かせない人物です】

 この世界が俺の創った世界だとしても、物語には必ず主人公がいる。それが俺でないことは最初からわかりきっているし、第二の世界王の寵児の噂も流れ始めた。世界王は「私が愛するのはキリオではなく、キリオが愛するのは私ではない」なんてわけのわからないことを言っていたが、キリオが「聖君」であることは間違いないはずだ。それはつまり、主人公で間違いない、ということになる。

「キリオに出会ったとき、俺はどうなる?」

【私には何も言えません。運命は、いま、この瞬間にも、あなたが創っているのです】

 俺はこの世界の原作者だ。俺がこの世界の命運を握っていることは間違いない。現に、俺はセオドアをこの神殿に縛り付けてしまった。クリスに関してもそうだ。クリスの身柄を神殿預かりにしたということは、クリスは実質、神殿で刑期を過ごしているようなもの。ギュスターヴ公爵が牢獄から解放される日が来るかはわからないが、ギュスターヴ公爵が投獄されている以上、神殿に居るしかないのだ。

「できれば悪役神官の役目は捨てたままでいたいな」

 これは俺の心からの願いだ。いろいろ考えすぎてわけがわからなくなったこともあったが、俺はこの世界の悪役神官で間違いない。だが、悪役神官の役目を全うするつもりはない。誰かを苦しめるつもりもないし、キリオを虐めるつもりもない。俺にそんな度胸がないという話もあるが、悪役神官だからって誰かを苦しめる必要はない。例えこの先、主人公が俺の目の前に現れたとしても、痛め付けるつもりなんて一切ない。俺の世界に悪役神官なんて必要ないんだ。

「俺はずっと孤独だった……。どんな人生だったかは憶えてないが、それだけは確かだ」

 俺はナビと会話をしているが、傍から見ればでっかい独り言なんだろうな。まあ誰も見てないからいいんだ。

「いまの人生は、誰かが俺を必要としてくれる。それだけで、生きていることを許された気になるんだ」

 ナビが機械音を発する。まるで何かを言い淀むような、もしくは言葉を選んでいるような、そんな間があった。

【誰からも必要とされてなくとも、命ある者は生きることを許されるのです】

 音声は相変わらず機械的だが、あまりに人間臭い台詞に、はは、と俺は小さく笑った。

「珍しく人間味のあることを言うじゃないか」

 また微妙な機械音がした。答えに迷っているのだろう。この案内人(ナビゲーター)に感情が備わっているかどうかはわからないが。

「早くキリオを見つけてやらないとな。第二の世界王の寵児なんて言われて、危険なことに巻き込まれてるかもしれないし、不安に思ってるかもしれない。早く安心させてやらないとな」

 キリオのことは名前しか思い出せていないが、おそらく俺よりいくつか年は下のはず。BLゲームの世界の主人公と言えば、十代半ばくらいだろう。そういえば、この王都には「王立魔道学院」という大きな学校があるらしいが、そこが舞台ではないんだな。学園ものでないとすると、冒険ものになるんだろうか。そうでないと悪役神官の「蘇生以外の再生を可能にする治癒魔法」が活かされなくなるしな。

 ナビがまた機械音を発する。会話を求める俺に順応しようとしてるのか?

【キリオが現れたとき、あなたは悪役神官になるかもしれません】

「心配してくれるのか?」

 そう思うと自然と笑いが零れた。ただのAIのようなものだと思っていたが、魔法や技巧(スキル)のようなものだとすれば、俺に順応するようになるのかもしれない。そういえば、世界王の加護によるものだって言ってたな。世界王がああいった雰囲気だから、ナビもこういう感じになるのかもしれないな。

「俺の運命を創っているのは俺なんだろ。例え悪役神官になったとしても、俺の創る運命なら、キリオが俺のことも幸せにしてくれるかもしれない。キリオは出会う人みな幸せにする力を持っている。それが主人公ってもんだろ」

 キリオがどんな人間かは憶えていない。BLゲームの世界だとしたら、バッドエンドも存在するかもしれない。だが、この世界においてバッドエンドは原作者()が許さない。そうだとすれば、キリオはすべての攻略対象をハッピーエンドに導く。その中に、俺も含まれるかもしれない。そうだといいな、という希望的観測でしかないのだが。

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