35.第二王子の訪問
正門の前で司祭たちに加え、クリスとダン、マーヤも俺とともにセオドア第二王子の到着を待った。正直、教団を侮辱した人間を神殿で預かるのは気分が良いことではなく、セオドアは教団員の評判も決して良いとは言えない。攻略対象として考えると、主人公に惹かれて真面目な王子になる、という物語が想像できる。それまでのあいだは、教団を侮辱してしまうほど傍若無人な王子を受け入れるしかないのだ。
ややあって、一台の馬車が神殿に向かって来た。俺は背筋を伸ばし、その到着を待つ。まずは 第一印象が重要だ。ここで舐められては、セオドアを更生することは難しいだろう。
馬車が俺たちの前に停まると、ふたりの男性が降りて来た。色素の薄い金髪の青年と、茶髪の騎士らしい青年だ。ふたりが降りると即座にドアが閉まり、馬車は来た道を引き返していく。予想以上のことに、俺は拍子抜けしていた。
(え、帰るのか? 本当に反省のためだけにここへ送って来たってことか……)
教団を侮辱したのはそれほどの罪であるということがよくわかる。神殿は国立ではないが、民の信仰が厚い。国としても、教団を侮辱した者を簡単に許すわけにはいかないのだ。
おそらく色素の薄い金髪の青年がセオドア第二王子だろう。茶髪の騎士らしい青年は王子の護衛騎士ということだ。セオドアは自業自得だが、それに付き添わなければならない騎士は少々、不憫だ。
俺は司祭の正式な辞儀をする。それに合わせ、他の者たちも同じように敬意を示した。いくら傍若無人な青年と言えど、ある程度の敬意は必要だ。
「ようこそお越しくださいました。教団一同、殿下を歓迎いたします」
これはあくまで形式上の挨拶だ。あらかじめこう言うようマーヤから教わった。そうでなければ、俺ではなんと言えばいいかわからなかった。もちろんセオドアも形式的なものだとわかっているのだろう。挑発的な笑みで俺を見た。
「あんたが噂の司祭長か。噂に違わぬ美貌だな」
それほどでも、と言いそうになって慌てて口を閉ざす。確かにフランはかなりの美形だ。単純に容姿を褒められたのなら素直に喜んだだろうが、セオドアの次の言葉はわかりきっていた。
「私と契約しないか」
やっぱりな。王族にとっても、俺との契約は利益になるものらしい。それを出迎えの場で口にするとは、なかなかの曲者だ。
「まずは部屋にご案内します」俺は笑みを浮かべたまま言う。「王宮に比べて質素でしょうが、快適にお過ごしいただけるよう準備いたしました」
セオドアもここでははぐらかされるのが予想できていたようで、ひとつ息をついたあと、後ろに控えていた騎士の青年を親指で差した。
「紹介する。私の護衛騎士のエドワードだ」
エドワード青年は恭しく辞儀をする。どうやら彼は常識人のようで安心した。護衛騎士まで俺との契約を狙っているなら、話は収拾がつかなかっただろう。
「どうぞよろしく。神殿一同、歓迎いたします」
もちろん歓迎などしていない。教団を侮辱して反省に来た者とその従者だ。歓迎なんてできるはずもない。だが、ここでそれを言及するわけにもいかない。俺は曖昧な微笑みのまま、どうぞこちらへ、と背を向けた。
司祭たちをそれぞれの仕事に戻らせ、俺はクリスとダン、マーヤとともに、セオドアに用意した客間に案内する。護衛騎士であるエドワードには別の客間を用意してある。彼については後程、ダンが案内する予定になっている。
「神殿は不当の利益を得ていると聞いたが」セオドアが言う。「質素な部屋だな」
この人が国王と王妃の怒りを買ったのがよく理解できる。こういうことを平気で口にするから反省させられるのだ。当人もそれはわかっているはずなのだが。
「噂は所詮、噂でしかありません」俺は冷静に言った。「その誤解もいずれ解けるといいのですが」
「それは追々わかるだろう。しばらくは世話になる」
本当に「しばらく」だといいんだがな。俺としては俺を断罪する可能性がある攻略対象をいつまでも神殿に居させたくない。この先、主人公が現れたとき、彼も敵対する可能性がある。更生したとしても、その運命が変えられるかどうかは保証がないのだ。
「何か不便なことや必要なものがあれば遠慮なくお申し付けください。ひとり、侍女を付けます。神殿内では自由にお過ごしいただいて構いません」
「ああ。気遣いに感謝するよ」
この先、セオドアが神殿でどう過ごすか、俺に対してどんな行動を取るか、慎重になる必要があるだろう。神殿を掻き乱されるわけにはいかないし、俺は隙を見せられない。クリスとダン、マーヤの鋭い視線がそれを物語っていた。俺が若干、怯えるほどに。




