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記憶を失くした悪役神官は総溺愛に気付かない  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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32.コーレインの密会

 自室に戻り、ベッドにダイブした瞬間、自分が気を張っていたことに気付く。もう二度と起き上がれないとすら思えるくらい、体のすべてをお布団に持っていかれるのだ。どんな高位な司祭であっても、お布団の魅了の魔法に敵う者は居るまい。

 深く息を吐き、自分の周囲のことを思い返す。この世界はBLゲームの世界で間違いないと思う。それも、俺の作品のひとつ。おそらく、クリスとダン、第二王子は攻略対象だ。俺は恋の邪魔をする悪役神官。

 物語の比重として考えると、もうひとり……地位の低い、幼馴染みのような、そういった攻略対象もいるはずだ。

 もうひとつ気になるのは、コーレインだ。黒髪だから攻略対象ではないだろうが、何か引っ掛かる。フラン司祭長が拾った、貴族でもなんでもない男。別に貴族じゃない者が司祭になってもおかしくはないのかもしれないが、フラン司祭長が拾って、ってところが気になるんだよな。何か狙いがあって拾ったとしか思えないが、フラン司祭長は自分のことしか考えない人間。何かしら利用する算段があったのだろう。

 控えめなノックの音が聞こえた。どうぞ、と声をかけると、顔を覗かせたのはマーヤだった。神妙な面持ちでダンに声をかけたあと、俺の前に来て辞儀をする。何か報告することがあるという表情だ。さすがの俺も起き上がり、マーヤの言葉を待った。

「先ほど、コーレイン様が神殿の裏で何者かと話しているのを見掛けました。内容までは聞き取れませんでしたが……」

 噂をすればなんとやら。神殿の裏で、教団員ではない者と会っていたということだ。

「その者は黒いマントを着ていました」

「黒いマント?」

「はい。この国で黒いマントを着る者は決まっています。王宮の隠密です」

「コーレインが王宮の隠密とやり取りを?」

 王宮の隠密、か……。王宮の隠密が黒いマントを着ることが義務付けられているなら、マーヤが目撃したのは王宮の隠密で間違いないのだろう。もし王宮の隠密でない者が黒いマントを着たらどうなるのか、というところが気にならないでもないが、いまの話の中心はそれではない。

「本来なら、何も問題はありません。教団と王宮は密に繋がる部分もあります。ですが、フラン様はコーレイン様に何か嫌なものをお感じになられたのですよね」

「ただの勘だけどね。ただの勘で疑うのも申し訳ないけど……」

 コーレインの何にどう感じているか、それを説明しろと言われると困ってしまう。何か嫌なものを感じる、としか言いようがないのだ。もし俺がこの世界の原作者でなければ、何も感じなかったかもしれないが。

「それと、神殿の女官のあいだで噂になっていることがあります」

 マーヤは真剣な表情で続ける。女性の噂というものは、信用できないただの噂もあるが、妙に真実に迫るような噂が流れることもある。それにしても、この世界には噂が多いな。

「世界王の寵児が誕生した、という噂です」

「世界王の寵児? それは私のことなのではないの?」

 これもマーヤから聞いたことだ。フラン司祭長は世界王の寵児だと実しやかに囁かれている。そんな話だった。世界王の寵児……つまり世界王に愛される人間ということだ。黒い噂の絶えないフラン司祭長であれば、世界王に愛されることはなかったかもしれない。だが、いまのフランはこの世界を創り出した俺だ。それも、世界王がこの世界に俺を招いた。世界王の寵児という噂も、あながち間違いではないのだ。

「はい。ですので、第二の世界王の寵児です。おそらく……聖君かと」

 マーヤの言葉に、俺は心臓が跳ねるのを感じた。この世界における聖君は、俺の物語における主人公……つまり、俺を断罪する人物だ。

「もし聖君であれば、神殿で保護する必要があります。おそらく、フラン様の能力で探すことになると思います」

 ついに主人公が現れた。これまでの俺の物語は、ただのプロローグでしかなかった。本当の物語はここから始まるのだ。俺が悪役神官として主人公に断罪されるかどうか、それはこれからにかかっている。

「まずは明日、セオドア第二王子殿下をお迎えになることが先です。聖君については、そのあとに対応することになるでしょう」

「けれど、噂になって聖君が無事でいられるかな」

「先に他の司祭たちが探します。フラン様はしばらく、第二王子殿下にかかりきりになるでしょうから」

 それはその通りだろう。王室の人間を迎えることになれば、少なくとも最初の数日は司祭長である俺が対応しなければならないことになる。他の司祭たちも探査や感知の魔法が使える者はいる。聖君ほど目立ちそうな存在なら、すぐに見つかるだろう。

 おやすみの挨拶をして、マーヤは下がって行く。聖君――主人公のことは気になるが、いまの俺にできることはない。

 第二の世界王の寵児の誕生、コーレインの裏取引……。同じタイミングで起きたふたつの出来事。何かが繋がっているような気がしてならない。だが、まずは第二王子か。きっと一筋縄ではいかないだろう。俺が記憶を失っていなければどう対処すればいいかもわかるもんだが……。とにかく、問題を起こさないようにしないとな。

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