28.セオドア第二王子
教団に戻って数日。俺はなんとなくエントランスで教団員たちを観察するのが習慣化しようとしていた。教団員たちは俺のことをチラチラ見てくることはあれど、気軽に絡んで来る様子はない。それもそうだ。俺はこの教団の最高位である司祭長だ。そんな身分の高い人間に気軽に絡める部下なんてそうそういない。
寂しいとか思ってないから。別に。もっと交流を深めたいとか、全然、思ってないし。
とは言いつつ、マーヤとダン団長が常にそばにいるし、暇ができるとクリスが隣の椅子に腰掛けてくれるのだ。今日はマーヤがレモネードを作ってくれたので、こうして並んで喉を潤しているというわけである。
ここで教団の動きを眺めていると、クリスもダンも「無防備すぎる」と言うが、教団員たちがどう動くか、司祭長に対してどんな態度を取るか、というところを確かめるのは大事なことだと思うんだ。まだ俺が教団においてどんな立ち位置にいるかもわかっていないし。リュクスの件は自分ひとりで突っ走ってしまったが、それが司祭長として正しい行動であったかどうか、それも教団員たちの態度を見ればわかると思うし。何においても確認作業は大事なことだ。
そんな中、コーレインがある報せを俺に持って来た。
「第二王子殿下が?」
首を傾げる俺に、ええ、とコーレインは真面目腐った顔で頷く。
コーレインによると、エターナリア王国の第二王子セオドアがしばらく神殿に滞在することになった、ということらしい。第二王子と言えば、ギュスターヴ公爵家で婚姻相手がどうのという話に巻き込まれた。ギュスターヴ公爵は、クリスに俺との契約を結ばせて第二王子の婚姻相手として推そうとしていた。その第二王子だ。
(ナビ、第二王子はどんな人間だ?)
【セオドア・フォン・エターナリア第二王子】ナビが機械的に答える。【傲慢な態度、民を顧みない国政の提案、家臣への不当な扱い。フラン様がいなければ悪役になっていた可能性のある人物です】
随分と偏った情報だな。だが、なんとなくわかった。王太子の評判は悪くない。非の打ち所がない、むしろ完璧すぎて怖いまである、聖人君子とまで言われる人物だ。王太子がいればエターナリア王国も安泰だ、とあちらこちらで聞いている。確か、王太子の婚約者にはナタウェル公爵の長女が選ばれたんだったな。それに対して第二王子は、といったところか。
「第二王子殿下が神殿に何用で?」
俺の問いに、コーレインは小さく息をつく。
「国王陛下と王妃殿下のお怒りを買ったのです」
「今度は何をなさったのですか?」
俺の口が自然とそう動いていた。つまり、セオドア第二王子が国王と王妃の怒りを買うのはそう珍しいことではないのだ。
「先日のリュクスの件で、教団が褒賞金狙いで帝国の兵を導いた、と口にしてしまわれたようです」
あちゃー……。民の信仰が厚い教団を侮辱してしまったのか……。
教団が王国にとってどんな立ち位置にあるか、まだ完全に把握しきれたわけではないが、敵にしたくない相手、という認識で間違っていないと思う。これだけ大きな神殿を王都に構えているのだ。国立でないのが不思議なくらいだ。
「世界王と世界王国、神々の尊さを学びに来られるという名目ですが……」
「要は反省させるということですか」
「そういうことかと。先日の司祭長様のご活躍は王宮の耳にも届いているはずなのですが……」
なるほどな。例え何十人と民を救っても、ひとつの功績では拭いきれないほどの噂がフラン司祭長には纏わり付いているのだ。まあ自分でも酷いもんだと思う。マーヤは司祭長に関する噂で「孤児院の子どもたち」について挙げていた。だが俺が見た中で、神殿に孤児院は併設されていない。街の小さな教会が運営しているようだが、噂が本当なら、そこから子どもを攫って、ということになる。そこまで酷い噂が広まってしまっているのだから、いまさら小さな村を救ったくらいじゃ評価は変わらないのだ。
「セオドア殿下のご滞在を受け入れても構いませんか?」
「ええ。じっくり学んでいただきましょう」
俺が薄く微笑むと、ではそのように、とコーレインは辞儀をして去って行く。この神聖な空気に触れれば、傍若無人な若者も充分に反省するだろ。
それにしても、たぶん、第二王子は攻略対象だよな。王太子以外の王族は同性と婚姻関係を結ぶ、という設定から考えて、第二王子という地位も攻略対象によく合っている。主人公が平民だとしたら、その身分差を越えるのが燃えるじゃないか? バッドエンドは王太子の座を奪おうとする、とか、そういう展開もイメージできる。いや、ここがBLゲームを題材とした世界だとしたらそう考えられるが、普通の乙女ゲームだとしたら攻略対象外だが。
それにしても、なぜこのタイミングで第二王子が神殿に来るのだろうか。そう考えると、やはりこの世界はBLゲームを題材とした世界で、これからここに主人公が現れるという筋書きがしっくりくるだろう。なにせ、悪役神官である俺がここにいるんだからな。記憶はないが。




