表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を失くした悪役神官は総溺愛に気付かない  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/48

16.司祭長命令

 狭い通路をしばらく歩いた先、煉瓦作りの壁に突き当たった。クリスが足に力を込めて押すと、重い音を立てて壁が開く。ここが地下廊下の出口なのだ。ドアが開いた途端、目を突き刺すような眩しさが広がった。クリスに促されて地下廊下を出ると、物々しい雰囲気の鎧の男たちがこちらを見ている。神殿騎士団だ。

「司祭長様、ご無事で何よりです」

 先頭にいた騎士が俺に手を差し出した。誘われるままに手を重ねると、強い力で引き寄せられた。見上げると、鮮やかな金髪の若い男だった。

 俺がぼんやりしているあいだに、他の騎士たちがクリスとマーヤを捕らえた。

「手荒にしないでください!」

 思わず口を挟んだ俺に、騎士たちはふたりの拘束を少しだけ緩める。どうやら司祭長の権力は彼ら神殿騎士団にも効くらしい。クリスとマーヤは一切、抵抗しない。こうなることが当然であるかのように。

「司祭長様がご無事だったとは言え」金髪の騎士が言う。「ギュスターヴ公爵家の者はみな、投獄されるでしょう」

 このふたりも例に漏れず。そんな言外の意味が伝わると、俺はあることを思い立った。金髪の騎士の手を放し、その正面に立った。

「団長殿にお願いがあります。このふたりの身柄を神殿で預かりたいのです」

 きっと微かに残るフラン司祭長の記憶が俺の口を動かしたのだ。この金髪の騎士が神殿騎士団団長であることを俺は知らない。団長を務めるにはまだ若いように見えるし、初対面では団長であるとはわからないはず。だが、俺の口は自然とそう動いたのだ。

「このふたりは私に親切にしてくれました。現に、私をここへ逃がしてくれています」

 他の騎士たちのあいだには動揺が広がっている。おそらく、フラン司祭長はこんなことを頼む人間ではないのだろう。フラン司祭長が記憶を失っていることがどこまで伝わっているかはわからない。それでも、いまの俺はいまの俺で行動するだけだ。

「公爵家の騎士団はいまだ抵抗を続けているのでしょう?」

「仰る通りです」

 団長は硬い口調で言う。この頭の固そうな騎士にどこまで話が通じるか、一抹の不安が脳裏をぎる。

「このふたりはギュスターヴ公爵家を裏切ってまで私を連れ出してくれたのです」

 団長は穏やかながらも鋭い視線を俺に向けている。俺は表情にこそ出さないもの、緊張のあまり心臓がバクバクと脈打っていた。

 少しの沈黙のあと、団長は短く息を吐いた。

「……お願いなどと仰らずとも、司祭長様のご命令とあらば、従わぬわけにはいきません」

 よかった。話は通じるようだ。俺は安堵しつつ、苦笑いを浮かべる。

「私は命令なんてできる立場ではないですよ」

「ご自分のお立場をお忘れですか」

 団長はまた小さく息をついたあと、クリスとマーヤを捕縛する騎士たちに向けて軽く手を振った。クリスとマーヤは拘束を解かれたが、まだ騎士たちは警戒を緩めていない。騎士団だから警戒心が強いのは良いことだ。いまの俺にとってはどうかわからんがな。

「私はギュスターヴ公爵家の人間として同罪です」クリスが言う。「そんな情けをかけていただく立場ではありません」

 マーヤを見遣ると、自信のなさそうな表情で俯いている。きっと考えていることはクリスと同じなのだろう。俺は少しでも安心させてやりたくて、薄く微笑んで見せた。本当はもう少し微笑みたかったのだが、俺がもっと微笑めば悪役っぽい微笑みになるかもしれない。そんな気がした。

「私だって人間です。良くしてくれた人と牢屋で再会なんてしたくありませんよ」

 クリスもマーヤ同様、目を伏せる。俺としては、クリスとマーヤをギュスターヴ公爵と同罪だとは思いたくない。そもそも、この司祭長誘拐事件はギュスターヴ公爵が企んだもの。ギュスターヴ公爵家の人間だから、で片付けるのはあまりにあまりだ。俺だったら文句のひとつでも言うんだがなあ。彼らは俺とは比べものにならないほど清い心を持っているのだ。

「残りの者はどうなさいますか」

 団長の問いに、俺は少し考え込む。全員を神殿預かりにはできない。そうなれば、投獄されるのは免れない。それなら、少しでも良くなるように俺が“命令”するしかないんだ。

「そちらはお任せします。ですが、できれば使用人たちの罪は軽くしてやってください。彼らは主犯であるギュスターヴ公爵に従っただけなのです」

 そう、あくまで主犯はギュスターヴ公爵。いま神殿騎士団に抵抗している公爵家の騎士団だって、公爵からの命令で戦っているだけだ。もちろん「拒否しなかったのは自分だ」と言われてしまえば立つ瀬がない。これは俺の想像だが、この世界において身分差は重いもの。もしギュスターヴ公爵に逆らって戦いを拒めば、その後がどうなるかわからない。そんなこともあるんじゃないだろうか。

「……貴方様がそれほど情けをかけられるとは。誘拐されているうちにお人が変わられましたか」

 団長が真面目腐った顔で言うので、俺は思わず苦笑いを浮かべた。

 人が変わったのは確かなんだよなー……。まあでも、ある程度の権限がある人間でよかった。よかったんだが、おそらく、この団長は(フラン)のことをよく思っていない。たぶん、攻略対象だ。原作者の勘である。クリスも攻略対象だろう。この世界の設定から考えて、色素の薄い髪色の男は攻略対象の可能性が高い。(フラン)だって、隠し攻略対象の可能性もある。悪役が隠し攻略対象だなんてよく聞く話だからな。

「とにかく、神殿へ戻りましょう」団長が言う。「神殿騎士団はこれで引き上げます。これ以上は無益な争いです」

「そうですね。ハーグレイヴズ神は無益な争いを嫌いますからね」

 俺は自然とそう口にしていた。ハーグレイヴズ神という神についての知識はほとんどないはずだから、フランの口が勝手にそう言ったのだろう。

 ふむ、なるほどな。ハーグレイヴズ神は争いを好まない。覚えておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ