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電脳ハンター[カンティーナ編]  作者: 秋野PONO(ぽの)


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第4話 カンティーナとの邂逅―後

 クスクス……。

 

「なんか……風……変な音すんのな。人の声みたいな……」

「マスター……」

「お?悪魔番号2895(ブールー)、発見!よかった……!」

 

 光の玉は奥の行き止まりの箇所で止まっていたようだ。

 ふわふわ、と闇だまりの奥に流れていく。

 その先にライトがなく、どうにも見えづらい。

 

「マスター」

 

 先ほどから口数の少ないコリンダーにヒロユキは首をかしげる。

 

「どうした?」

 

 珍しく、コリンダーが固まっている。その視線の先をヒロユキも追う。そして固まった。

 視線の先には『闇』があった。

 エンダー?いや、エンダーの大きさではない。

 もっとずっと大きい、それは人間のようだった。

 黄金色の髪をした女。しかし女性にしては背丈が高い。身長170センチのコリンダーくらいある。

 

「人間?」

 

 そう思いかけたとき、コリンダーがヒロユキの服の袖をぎこちなく引っ張る。見るとその額には油汗がびっしり浮かんでいる。

 

「圧が強すぎて苦しいです……マスター。緊急につき先行解析しました。電脳ハンターとしての生体データ合致なし。感情自律AIパターン合致有り。感情自律AI型番照合、日本国内、合致無し。海外型、合致無し……」

 

 コリンダーの声が震えている。女から発せられる電磁ノイズが耳を焼いているためだ。

 

「……データ上は、感情自律AIです。ただ、既存には存在しないタイプです……」

 

「ふふふ。せいかぁい。おりこうさんのAIにはご褒美あげる」

 

 女の手が奇妙な形を取る。

 

「マスター!」

 

 コリンダーがヒロユキの服の袖を一気に自分の方に引っ張り込むのと、激しい爆破音が同時に響く。

 

 肌がひりつくような電磁ノイズの後、ヒロユキはコリンダーの後ろに庇われていることに気づいた。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

「あらぁ、擬似目にパルスを乗せて防御に振り切ったの。とっても上手。それは上手。でも、その目、もう無理ね。焦げ付いちゃってるわ」

 

 見るとコリンダーの背中の擬似目は全て焦げ、無惨なひと塊になっていた。

 コリンダーを、具現化して物質体を出しておいて今となっては良かったと言えるかもしれないが、庇わせてしまったことには後悔が残る。

 怒りといら立ちでヒロユキの目の前が赤く染まる。

 

「てめぇ……」

 

「マスター……!大丈夫です。それより!電脳緊急事態条項特別項85条付帯……です……」

 

 人命とAI保護に関する条項の方だ。

 説明されなくても分かる。

 

「ぐっ……。エンダーとは、違う。下手すりゃこっちが傷害罪……か」

 

 事実究明と人命保護が第一なのだ。

 

「でもな、コリンダーちゃん。あっちはもうそんな気ないみたいだけどな……!」

 

「あらぁ、わかり合えるのなら大歓迎よ。tmb4w8型。カンティーナと申します。一応、お嬢ちゃんの先輩よ」

 

「カンティーナ……やはり既存データに、照合しません。少なくとも電脳協会精査に合致したAIではない……」

 

「電脳協会に合致……そんな規律が存在するはるか昔から、私は、いるのよ。……気が変わった。お前達は不要。消えろ」

 

 女の右手に高エネルギーの電磁波が集まる。解析しなくても感じられる、先ほどの比ではない。

 これは……やばい。

 

「……コリンダー。周辺ノイズ、今すぐ、完全にゼロに出来るか?」

 

 コリンダーは目を瞬いた。

「……可能です。2秒だけ」

 頷く。言葉は多くいらない。相棒を信頼するだけ。

「充分だ……!」

 ヒロユキはコリンダーの前に出る。

「ふん、撃ってみろよ。おもろいこと教えてやるよ」

「あなたみたいな子、嫌いじゃないわ。でも、さよなら」

 女の放つ、収束した光がヒロユキの体に直撃する。

「マスター!ノイズゼロ完了です!」コリンダーの声が響く。

 電磁波が肌を焼く。

 人間には絶対に出せない力……だが、この状態でこそヒロユキの「奥の手」が成立する。

 

「あなた達の先輩、jwx56型ベラケレスと戦ったことがある。彼はこの攻撃、全部避けたものだったわ。。ふふっ、電脳ハンターも落ちたもの」

 

 光が強く、コリンダーには、全容が見えない。パルスの波が去った後、ヒロユキが……。

 

 コリンダーは体を起こそうとするが、背中のダメージが思いのほか酷く起き上がることが出来ない。

「マスター!」

 女の笑みが深くなる。感情自律AIの悲鳴、悪くない。

 

「……んー。まぁ?避ける必要、ないしな」

 

 しかし光が止んだ後、ヒロユキは平然と立っていた。

「なっ?!」

 よく見ると光が、彼の体に収束している。はじける前の線香花火のごとく、彼の体は光を発していた。

「ごめん、コリンダーちゃん。2秒サンキュ。びっくりした?一度食らわないとこの技無理でさ」

 

 ぶぅん、という電子音が彼の『体の中から』発せられ、弾けた。

 一直線に、女の体に向かって。

 悲鳴をあげるまもなく電磁波に直撃された女の体は吹っ飛んで壁に叩きつけられた。

 ぐぎゃ、と嫌な音を立てて首が折れ曲がった。

 

「ふぃ……。この技、開発したものの……正直、実戦で使うことになるなんて思ってもみなかったぜ。名付けて――『ループバッグリバース』……かな」

 

 ヒロユキがおどけて言う。

 しかしもはや女はその言葉を聞いていない。一瞬にして崩れて塵になった。

「マ……マスター?な……何が起こったのか……。え?……アドレスが……0.0.0.0?」

 

「おっ気づいた?コリンダーちゃん。そう、これ自分の存在アドレスをループバッグ返送用に変えてんの」

「そっ、そんな冗談みたいな……ほんとですね」

 

 コリンダーは外観感知ができない状態なので、内部感知用にセンサーを変更している。よって内部アドレスが見える状態なのだ。ヒロユキの言っていることがよく分かる。

「へっへー。結構コツがいるんだぜ?外部と内部の両方がノイズゼロ状態を維持できないとクリアに跳ね返せないんだ。実戦で使うのは初なんで超ビビった」

 

「初めて見ました……そんな技……」

「そ、へへん。例えばベラケレスあたりには絶対この技無理。あいつ内部状態、雑念だらけだしね?まぁ……エイコさんがそばにいないときはめっちゃ静かだけどな」

 

「……あなたが……静かですって……ふふ……ふふふ……?」

 呆れたようにコリンダーがつぶやく。

 ようやく平静が戻ってきた。

 

 そうか、「跳ね返した」のだ。

 

 これなら、正当防衛も正当防衛、こちらは何もしていない。事故調査委員会に責められる点も、無い。

「あはは……」

 コリンダーは、今更ながら力が抜けてへたり込んだ。

 そっとヒロユキが助け起こす。

「そ、俺、いっつもテンション平静よ。底辺張り付きで」

 手当てが先かな、戻るか、とコリンダーを軽々と担いでヒロユキは言う。

 それにしても、探索って、これだったのか?

 ブツブツ言っている。

 

 その肩が、結構大げさに震えているのを、コリンダーは見ないふりをした。

 

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