第37話 コリンダーじゃ、ない
結局、侵入経路の特定には至らず、報告だけを行って解散となった。
ヒロユキは一人でログを見ていた。
「コリンダーのアクセスしか、ないよなぁ」
流出が発生しているのは夜間から深夜帯で、その時間帯のアクセス者は一人だけ。コリンダーのアカウントのみだ。
報告が上がったとき、研究部はざわついた。
重要なネットワーク情報を根こそぎミラーリングして抜いてあるためだ。
アクセス記録
11/13 03:44 colinder port321
11/13 09:01 hiroyuki port250
11/13 09:30 colinder port1121
11/13 13:05 hiroyuki port250
11/13 22:58 colinder port300
11/14 03:50 colinder port300
11/14 03:55 colinder port300
「うーん」首をひねっていたヘンリーが、ヒロユキだけを呼んで「最近、コリンダー変わった様子だったりしたか?」と聞いてきたのも無理はないことだ。
コリンダー以外ではアクセスできない深部へのアクセスが多数あるためだ。
何度も何度も、暗記してしまうほど確認していたヒロユキだったが、ある一点で手が止まった。
時刻、名前、ポート。
「ん?」
試しに発生以前のアクセスを見る。
11/09 03:44 colinder port300
11/09 09:10 colinder port320
11/09 20:50 colinder port3098
11/10 03:55 colinder port5000
次に、流出が発生したとされるアクセスをじっと見る。
11/13 22:58 colinder port300
11/14 03:50 colinder port300
11/14 03:55 colinder port300
「ポート……?」
あまりにも、同じすぎる。
「あいつ……無駄に真面目なんだよなぁ。もう、すっげー……わかる」
だからこそ、疑えなかった。
ヒロユキは苦笑した。
だからこれは、コリンダーではない。
パソコンを閉じると勢いよく立ち上がる。
「コリンダーじゃ、ない」
そのままノートPCに防雨シートを被せて抱え、ヘンリーのもとに向かう。
中庭を通る。足取りは軽い。
外は雨。
それでも、埃っぽかった胸の奥に、目の覚めるような白い雲が一つ浮かんだ気がして、ヒロユキはしばらく立ち止まって空を見つめた。
* * *
電脳空間に入らないまま、二日が経った。
「なんでしょうか……このままだと、電脳空間に入らないまま三日目です。そろそろ一回はログインしないと、ハンター登録が抹消される可能性がありますよ」
機械的な口調で話すコリンダーを説得して、ヒロユキは東京都の外れ、とある区の一角に来ていた。
流出ログに残っていた契約回線の登録住所が、このあたりだったらしい。
「住所的には、こっち……」
ヒロユキの指差す方向に進むと行き止まりの奥に一軒の古い家がある。
「売り家 2051年4月22日、か。ふん、予想通りだな」
確認し、今度は通りの向こうに足を向ける。
自由に足を進めるヒロユキに、コリンダーはついていくのがやっとだった。
ちょっとくらい説明してくれてもいいんじゃないかと思うが、今はそう文句を言う気力もないのだ。
やがて、ガタガタした道と草の生えた通りを通り抜けて一軒の不動産屋にたどり着いた。
「あの家、購入を考えてまして」
そう言って店主と雑談するヒロユキを、コリンダーはぼんやり眺めていた。
さほど時間もかからず店を出る。
今度は電話をし始めて何やら話している。
「わかったよ。あの流出。国内の競合企業によるサイバー攻撃だ。コリンダーちゃんのせいじゃない」
コリンダーは、目を瞬かせる。
「何を……いえ、どうしてわかったのですか」
「うん、あれさ。侵入ポート、毎回同じポート300になってたろ?お前、絶対同じポート使わないじゃん?プロトコルセキュリティの基礎だけど、意外とみんなちゃんとやらない。だからあれはコリンダーじゃ、ない」
「……だろ?」とようやくほんの少し、ヒロユキの表情が緩む。
「気づいて、くれていたのですね」
うん、とつぶやいたヒロユキはそっぽを向いた。表情は見えなくなった。




