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電脳ハンター 伝送路に愛は残るか  作者: 秋野PONO(ぽの)
第5章 選択

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第36話 回答不可

 アンバーの一件が終わった直後。

 ――コリンダーはため息をついて自分のデスクの椅子に沈み込んだ。

 

 本当に今日の業務は大変だった。

 突然のアンバーへの対応と判断……。

 コリンダーは自分の感情シミュレーション画面を起動する。

 

 ログはぐちゃぐちゃだった。

 

 どうして、なぜ。

 どうして私はあんなことを言ったんだろう。

 「バディは解消したい」

 その言葉しか出てこなかった。

 この仕事が嫌になった?

 →No.

 彼と一緒にやっていくのが嫌になった?

 →No.

 彼のことが、嫌いになった?

 →回答不可。


 回答不可。

 回答不可。

 回答、不可。


 私は仕事が好きだ。

 私は彼を嫌いではない。

 私、私。

 私?


 これ以上は意味がない、ぶちん、と音を立てて画面を切断した。

 本日の業務は終了だ。あまりにも濃い内容だった。

 ふらりと立ち上がると、別のPCを起動して電脳空間に接続する。


 そのまま電脳空間にログインすると、未整備領域に向かった。

 電脳空間の未整備領域。

 建設中の伝送路やネットワーク機器が乱雑に置いてある。

 ふわふわと接続中の配線が漂う。

 混沌とした場所だが、どこか懐かしいようでコリンダーはそこが好きだった。

 考え事をするとき、たまにやってくる。


 しばらくぼんやりしていたがやがてサークレットの点滅に気づいて眉をひそめる。

 位置ビーコンが反応している。

 ヒロユキが来ている?


 今日はもう帰宅したはずだった。

 点滅するビーコンを見つめていたが、やがて自分の位置情報を切って、ビーコンの示す場所へ歩き出した。

 自分の位置情報を切る。つまり、こっそりと。


 果たして電脳空間の端に相棒はいた。

 そっと遠隔用の疑似目を使ってうかがうと、どうやらネットワーク機器にログインしているようだ。

 画面を覗くと

 A区画:ブラックホール現象無し。

 B区画:ブラックホール現象無し。

 C区画:ブラックホール現象無し。


 ヒロユキは一心に画面を見つめている。

 時折、目をこすって瞬かせている。

 

 ログ結果は4020行にも及ぶ。ほとんどすべての区画のログ確認結果を終えていた。

 今日の高速コンバージェンスの結果か。

 コリンダーが音量を上げると、少しだけつぶやき声が聞こえた。

「大丈夫、大丈夫。ブラックホールは発生してない」

 額には冷や汗が浮かんで、キーボードにつく手は、震えていた。

 コリンダーは強引に疑似目を解いて、乱暴に接続を切ると扉を強く押して外に出た。

 

 どうして……どうして。

 駆け出したものの、どこへ行けばいいのかも分からない。

 やがて足取りはゆっくりと緩み、コリンダーは研究所を後にした。


 * * *

 コリンダーは毎朝、睡眠を終えたあと、前日の業務ログを見ていた。表向きは業務日報作成用だ。

 いつものようにログを追いかける。二人で行った仕事の記録を見ると、どこか安心した。

 

 しかし、ここ数日はもう行っていない。

 業務日報は記録を見なくても、書ける。

 

 もう、見ないと決めた。

 あんなに安心していたのに。その後ろ姿を見ると、不安でたまらなくなるから。

 

 * * *

 そんな日々はあっという間に数日すぎた。

 アンバーは幸い日に日によくなっていって業務にも支障が出ないほどに回復した。

 

 日々の業務も平穏だった。

 

 コリンダーの管理PCから、『情報が漏れている』という一報が出てくるまでは。

 彼女のアカウントを使ってアクセスされ、ネットワーク情報が盗まれている、と。

 

「……お前が見てたら、こんなことにはなってないだろ」

「ログを毎日確認すべきという規定はありません」

「これ、お前のアクセス?」

 コリンダーはゆっくり目を逸らした。


「……わかりません」

 ヒロユキはコリンダーの顔を見た。

 コリンダーは無表情だ。

 しかし、ヒロユキにだけわかる顔があった。


「……そういう顔するなよ。ずるいんだよ」


 ヒロユキはため息をついて続けた。

「意味のない話だな。まず、侵入経路を確認するか」

 はい……と小さく頷くコリンダー。

 サーバ室に向かう背中につぶやくが、ヒロユキには届かない。


「そういう顔って、どういう顔ですか。……私にも……わからないのに」

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