第30話 命の重さを、誰が決める
前話「名前のない領域」から続く話です。
後日休憩室にて、ベラケレスとヘンリーがチェスをしている。
「アンバーも無茶する」
「ベラケレス。お前は絶対すんなよ。チェス勝ち逃げされたままどっか行かれるのはごめんだ」
「ふふふ、仲がいいですね」
そんな2人を眺めながら、エイコがひと言発した。
「所長……誰も死ななくて、良かったんですけど……。良かったんですけどね。私、ずっと考えてるんです……。もし、もし……今回の当事者が、ベラケレスだったら、どうしてました?高速コンバージェンスの選択」
ヘンリーが驚いた顔をして振り向く。ぐっと言葉が喉奥に詰まったような音がする。
「私達、そろそろ決めないといけない段階に入ってるんじゃないですかね。人間とAI、命の重さは同じか。そして、そこに感情の判断が入りこむ余地について」
エイコが寂しそうに笑う。
ヘンリーがチェス盤の歪みをそっと直した。
頭ではわかっている。みんな大切な部下だ。仲が良ければ助けるとか、そういうことはない。優劣はつける気は、断じてない。
だが、全ての伝送路の生死を握っている自分を同時に思う。
その先にある「人間の生活」を握っている重さは、どうなる?
だが、ベラケレスの顔が見られない。何年も何年も1人で黙々と伝送路を守っていた親友の顔を。
どの重みも冷徹な計算の比較対象になりうるだろうか。
「……何を言ってんだ。同じだろ。……全員、大切な部下だ」
やっと一言だけ絞り出したが、果たして本音だったろうか、ヘンリーには分からない。
エイコはもう、何も言わなかった。
誰も気づいていなかった。
およそ数分身体感覚を喪失した代償としてアンバーの記憶が一部失われたなど。
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