第28話 あなたと離れる決意
事件後、給湯室にて。疲れた声でヒロユキが言う。
「今回の事件はさすがに疲れたな。まさか別のハンターと獲物かぶるなんてさ……気ぃ使う」
ヒロユキがのんびりと言う。
コリンダーが冷蔵庫から弁当を取り出すのを横目で見ながら、「自作?」と聞く。
「昨日、暇だったので。肉じゃが、作ってみたんです。人参の加熱最適サイズは4センチです……よね。わかってるのにどうして手が動かないんでしょうか。関節機能の、故障?」
その途切れ途切れの言葉の響きが少しだけ湿りを含んでいることにヒロユキは気づいていない。
「ちょっと待って。4センチ……は結構でかいんじゃね?……で、人参どこいった?」
赤の彩りのない肉じゃがを指さしてヒロユキが苦笑しながら言う。気安い口調だ。
しかし笑わないコリンダーが無言で指をさしたのは、ゴミ箱。
「食べられなさそうだったので捨てました」
「おいおい……。レンジで加熱すればいけるって……そこからかよ……」
「そう、なん……ですか。私って結局、回線の中でしか役に立たないんですね」
コリンダーは自嘲気味に笑った。笑いは静かな空気に消えた。
給湯室にはAI研究所の喧騒は届かない。
静かで、普段は好きな空気なのだが、今は、静かすぎる。ヒロユキはソファに座って書き物をしている。
「……ねぇ。あなたにとって、私は、まだ必要ですか?」
書き物から目をそらさず、え?とヒロユキが聞き返す。
「あなたに支えられるたび、私の仕事を奪われたような気がしていました」
でも。
「逆かも。あなたの隣に立つたび、今度は私が、あなたの役割を少しずつ奪っている気もするのです」
風がコリンダーの髪を揺らした。
「……もう、理解不能です」
このまま、相棒として仕事は回るだろう。
でも。
コリンダーは、目を伏せて視線を落とした。
「考えてみたのです。あなたと離れることで、あなたが……少しでも楽になるならば……」
違う。
本当は。
これ以上、あなたの隣で揺れ続けることに、もう耐えられない。
残酷な答えは、もう、すぐそばまで来ている。
もうヒロユキの隣で過ごす自信が、無い。
ふと顔を上げたヒロユキは、その顔があんまり寂しそうで、葉に詰まった。
「相棒を……解消させてください」
えっ。
風が、光が、音が荒れ狂ったようにヒロユキの耳を叩く。
コリンダーの声は静かで、静かで……。
いやいや、必要だよ、何言ってんだよ、そんな言葉を。言わなければ。
言わなければ。言葉が出てこない。
砂嵐に紛れてすべての言葉が消えた。
次号、アンバーの論理編。ヒトとAIの愛は論理を超えられるのか。




