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電脳ハンター[カンティーナ編]  作者: 秋野PONO(ぽの)


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第2話 爆発と盗聴器と、あのマーク

「やばい!」

 

 叫んだヒロユキが今度はコリンダーを押しのける。

 あまりの熱負荷に、うなりを上げていたPCのファンが飛んだのだ。


 小さな爆発音と共に、PCの右側半分が爆ぜた。

 

「マスター!」

 

 悲鳴のようなコリンダーの声が響く。

 破片はコリンダーを押しのけたヒロユキの頬にいくらか刺さる。


「……ああ。平気、平気。バンソコ貼っとけば」

 

 PCの焼けた煙とにおいがひどい。

 

「ひぇ。PCの右半分が全部逝った……通信機能全部やられたか」


 カバンから絆創膏を取り出して自分でぺしっと張るヒロユキに、コリンダーが文句を言う。

 


「マスター……。面倒くさがらず手当しましょう。消毒液を持っています……」

 ヒロユキが雑に張った絆創膏をはがす。

「ほぉい……。ゴメンナサイ」

 

 ピンチには異常に強気だが、それはただの強がり。

 波が引くととたんに崩れるのが、ヒロユキの欠点だ。

 

  コリンダーの、手当てする手が微かに震えている。

 そんなところに気付いてしまうので、ことさら殊勝にされるがままになっている、その優しさも、欠点と言えば欠点だ。

 

「……マスター。先ほどの一連の挙動から推測しました。良くない事態です。5万近くのパケットとエンダーを盗まれたようです」

 

 まじかよ、と手当を受けながらヒロユキは息を吐いた。

 犯人は……逃げたな間違いなく。

 ヒロユキは思う。「パケット」……要は、ネットのデータの小包、簡単に言えばメールや画像やプログラムの一部のことだ。「エンダー」は、伝送路を勝手に動き回る悪さするプログラムだ。


 両方、盗まれた……。

 まじかよ……。ため息、止まらん……。


「ロス分は再送されるから、通信には影響はないんだろうけど……。

 情報流出事故としては10年に1度の規模だなそりゃ……」


 事故調査に再発防止委員会への参加、重くのしかかる面倒な作業たち……。


 間違いない、明日は祭りだ。

「まいったね、どうも。俺明日休みなんだけど。おやじの墓参りが……」


 つぶやくヒロユキに、PCの残骸を集めていたコリンダーが声をあげる。

 コリンダーが破片を解析している。

「このマーク、どこかで見たような……?」

 

「マスター、これ」

 吹き飛んだPCの破片の中に妙なものがある。

 コリンダーの顔が曇る。PCの構造はすべて把握している。吹き飛んだのはマイクインターフェース付近だ。

 

 「集音装置が2つあります」

 

 1つはPCもともとのマイク機能部、もう1つは……?

 小指の爪ほどの小さな部品。コリンダーから手渡されたヒロユキの顔も曇る。

 

 これ、盗聴器じゃね?

 それも由々しき事態だが、それよりもそこに記されたマークが気になる。


「このマーク……」

 何か、いろいろ盗まれている?


 * * *

 どれだけ高度化電脳社会になっても、人間が見通すことのできるものなど、たかが知れている。

 まるでそう嘲笑うかのように、一瞬、PCの画面が揺れた。

 

 ――あ、な、た、は、だ、れ?

 プロンプトに、たった7文字。一瞬で消えた。

 

 あとにはただ、遠くに笑い声がさざめいているのみ。



 * * *

 「これ、未検知ウイルスね。なんでこんなヤバいもんばっかり引くのあんた」

 

 翌日、報告を持ってやってきたヒロユキに、電脳ハンター統括のエイコ・ヤン・風上は唸った。


「ひぇ……。すんません統括様。あの……言いにくいんすけど、俺今日休みだから……」


 あとお願いしまーす……。

 

 ごにょごにょと語尾が消える。

 朝1番から出勤することがほとんど無いヒロユキは、眠いので声に覇気がない。


 エイコは、唸りながらパソコンをカタカタしながら電話でペラペラと英語で通話している。しかし、途中から中国語が混じるようになり、ヒロユキにはさっぱり意味がつかめない。

 

 日本公社とウイルス解析の子会社に、複数通話で昨日の事件の相談をしているのだ。

 

 とりあえず……昨日の件は子会社に相談済みっぽい……?

 俺の出番……あるかな?

 巻き込まれることを半ば覚悟したヒロユキに、通話を終えたエイコの軽い声がかかる。

「いいわ。あんたいても、なんともならんし。コリンダーから聴取できるし。むしろ休んで。

 ……ひどい顔だわ」

 驚くヒロユキに、シッシ、と追い払われるジェスチャーまでされる。


 帰ろうとするヒロユキに一言だけ。


「墓参りだっけ?……まあ、今度、あんたの気が向いたら、思い出話だけでも聞くわ。ひどい顔してんもん。いってらっしゃ」

 顔も見ずぶっきらぼうに呟くのは、彼女特有の照れ隠しなのだ。


 思い出話か。


 すんません、エイコさん。

 こんなクソ辛気臭い話、酒の席でもダメだわ。


 ヒロユキは故郷の山梨へ向かう車の中で、思い出したくもない昔話を、なんとか楽しい笑い話に変えてエイコに出来ないかとゆっくりと考えていた。

 

 外は冴えない曇り空。冴えない思い出話を思い出す、ある意味、絶好の日和だ。


 * * *


 あの家もこの家も、変わんねーな。

 ヒロユキは脇道に車を停めると瓦の剥げた門をくぐった。

 国道から道一本入るだけで、田舎の古い道はタイムスリップしたような懐かしさを見せてくれる。

 

 ひしゃくと桶を借りてから小道をするりと通る。

 盆時期を過ぎたが人は幾らかいる。子連れの夫婦、葬儀を終えてきたらしき黒い服を着た女性の二人連れ、腰の曲がった老人、たった数人でも、立派に混雑と言えるのが田舎だ。

 

 諸事情で国外にいた5年の間、墓はだいぶ痛んでいて、苔を掃除するのが大変だった。

 それ以来、普段は清掃サービスを頼み、自分でも1年に1回こうして掃除にくる。

 

「七回忌の法要も終わった。あんたの顔ももう見たくないから、来る必要ないんだぜ」

 ヒロユキは手を合わせて後ろも振り返らずに、背後に立った男に言い放つ。


 どうしても会いたくない実父。

 

「そういうわけにはいかない。20年もお前を育ててくれた人達だからな。これからも私の体が動く内は、毎年くる」

 

「へえ。そういう人間ぽい心遣いは、あの人達が生きてた頃にした方が良かったんじゃない?」

 

 いつもの軽口で受け流すヒロユキ。

「……言ってくれるな。誰にだって事情はあるもんだ」

 

 飄々と自分のすべてを受け流す大嫌いな口調。

 

 それが「自分に似ている」ことなど一瞬も考えたくない。

 

 あーあ。ついてないな。そうヒロユキは思う。

 毎年時間もバラバラに来ているはずなのに、なぜか毎年かち合ってしまうのだ。

 呪いかなんかだろうか。

 

 さて。

 

 掃除も終わった。花も取り換え、線香の煙を確認する。

 細い煙が、くゆりながら空へ吸い込まれていく。


 「待て。せっかく久しぶりなのにどうしてそうなんだお前は」

 何かブツブツ言われているが、これ以上話すこともない。ヒロユキはお構いなしに車に戻ろうとする。

 

 男はため息をつくと核心だけを話すことにした。

 

「お前、昨年の事件のとき、何か変なものに目をつけられなかったか?」

 

 はぁ?とヒロユキは首をかしげる。

 

「このマーク見覚えあるか?とある国の違法企業だ。最近日本付近で、騒がしい」

 

 それは、あの時の盗聴器のマークだ。

 

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