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電脳ハンター 伝送路に愛は残るか  作者: 秋野PONO(ぽの)
第2章 揺らぐ日常

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第12話 うまくできないバーベキュー―前

 サーバ配置の一件の次の日、コリンダーは少しだけ寝坊をした。

 いつもなら薄暗い正門前の横断歩道、今日はもう日が昇り始めていて明るい陽射しが道路をすでに焼いている。

 彼女の養父であるDr秋月に会うが、ぼんやりと手を振ってそのまま階段を上がって新しいオフィスに赴く。

 一度だけ振り返ると、秋月は大袈裟な動作でまだコリンダーに手を振っているが、苦笑して片手だけあげて部屋に入った。

 

 今日の承認は誰にお願いしようかな。

 昨日の監視結果記録をヒロユキがまとめ終わっているが、承認の要求を頼まれている。

 基本ヘンリーへ提出する形だが、忙しければ総括のエイコでもよいし、それも難しければ事務方の承認でも構わない。

 最初はずいぶん緩やかな仕組みだと思ったが、それだけAI研究所が小規模で手が回っていないのだ。

 

 席に着こうとすると隣のスペースが非常に騒がしく、コリンダーは眉を顰める。

 ずいぶんやかましい笑い声が複数聞こえるが、聞き流し態勢だ。しかし、その中にヒロユキの笑い声が聞こえているとわかると聞き流しモードの耳を叱咤して、きちんと聞く。そして独り言をつぶやいた。

「ああ、研修か」

 本日から年度入社事のフォローアップ研修が始まる。コリンダーも先日済ませた。

「あ!こりーんだー!」

 ヒロユキがコリンダーの姿を見つけて遠くから大袈裟な手招きをしてくる。

 業務が山積みで、聞こえなかったことにしようかなと思ったが、瞬時に足がヒロユキの方に向いてしまうのだ。

 マスター持ちの悲しい習性であるとコリンダーは考えている。

「なんでしょう」

「おお、10月20日ってさ、暇?こいつらとバーベキューしよ、って話になってて、来ない?」

 後ろで『AIだっかわいい綺麗』とか『初めてみた……感動』とか騒がしいだが、本人たちは小声のつもりなのだ。

「えっ、私……ですか?」

 コリンダーはしばらく考え込む。

 予定はない。……ないが。

「ちょっと寒くないです?」

 ひねり出せた言葉はそれだけだ。

 後ろで『AIって寒いとかあるの?!』や『え、声もかわいくない』とかとにかく騒がしいのだがコリンダーはすべて聴かなかったことにした。どうやら研究候補生が多いようだ、としか思わなかった。

「ばっか。来週からの天気予報見た?ずんげーあったかくなるんだって」

 ヒロユキは何がそんなにおかしいのか分からないがひどく楽しそうだ。

 あほ、コリンダーちゃんに馬鹿とかいうな、とか周りの男どもに頭をはたかれ頬を引っ張られているが、本人はひどく楽しそうだ。

 「なあ、どうせなら研究所の庭でやろっか。許可もらってくるわ」

 楽しそうにヒロユキが言うがもうコリンダーは聞いてなかった。

 

 

 10月の末はもう秋の気配を連れてくる季節だ。

「暖かいわね」

 コリンダーが誘ってやってきたエイコは薄い紫のカーディガンの袖を引っ張って小さなカバンに放り込みながらまぶしそうにコリンダーに話かけた。

「はい。あ、草を刈ってくれたんですね」

 コリンダーは研究所から見える庭向けの出口の扉を開き、感嘆の声を上げた。

 狩りたての草の香りが鼻をくすぐる。

「うん。所長が手入れの申請してくれたみたい」

 風が暖かく、綺麗に山になっている狩りたての草を柔らかくくすぐっている。

 

 木陰から、きゃあ、と歓声が聞こえる。

 コリンダー達が目を向けると、そこにはすでに人だかりができていた。

 まだ午前7時。バーベキューは11時からなのに、そしてその中心にはやはり見慣れた顔だ。

 「あいつらマジうるさいわね。猿山の猿かしらって感じね」

 エイコ苦笑しながら言う。

 すでに準備メンバは20人ほど集まっていて、ビニール袋をつつきながら時折びっくりするような歓声をあげている。蜂の巣をつついたような騒ぎである。

 「楽しそうですね」

 猿山から一匹猿が……と思ったら我がマスターだった、とコリンダーは一人思った。

「おー!ちょっと……ちょっと手伝って!飲み物と野菜と……なんか色々足りねぇ!」

 ヒロユキが車を回してきて乗り込んだ。

 エイコがいってら~と優しく手を振っている。

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