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1‐1 生徒会モドキへようこそ

*   *   *


朝葺中学校・高校とは、府内の祇倉町にある、学校法人朝葺学園の運営する私立学校である。

全校生徒:中高あわせておよそ2400人


1.概要

(中略)


4‐7.クラブ活動について

文化部、運動部共に種類が豊富で、インターハイを始めとした数々の大会で賞を手にしている。

また幾つかのクラブがスポンサー企業と連携しており、成果に応じて授業料免除、或いは学生寮の家賃軽減等の様々な制度が導入されている。

一例:初出場の1980年以降常に全国高校駅伝に出場し続けている陸上部、著名な漫画家を次々輩出している漫研etc

このため、クラブ目当てで入学するといった生徒も珍しくはない。現在9割以上の学生が部活動に入っているといわれている[注7]。


4‐8.施設について

(中略)

学生寮

学園のすぐ横に建てられているマンション。それが学生寮『朝葺荘』である。

遠隔地からの学生を確保するために建てられ、家賃は授業料と同時に納入することになる。

遠方だけでなく、身内が失踪して身寄りのない生徒の自立支援も兼ねているとのこと。

一階には食堂が存在し、主に上記のような生徒がアルバイトをしている。

級友や部活動の仲間たちと一つの部屋をシェアすることもあれば、一人一部屋も可能。

また、先述の部活動のシステムにより家賃が軽減される学生が半数近くを占めているという[注9]。


(中略)


最後に、これはあくまで筆者の個人的な話になる。

失踪者が後を絶えないあの町に、何故学生たちは集まるのか。事実、過去には朝葺学園の生徒や教師たちが何人も姿を消しているという。

町に住む住民たちもそうだが、福祉環境の良さや施設の充実等に釣られた夏の虫ではないだろうか。

祇倉町に自宅を構えている私が言えたことではないのだが、きっとそうではないと言い切れる人は少ないだろう。

それでも折角将来を約束されたような名門校に合格したのだから、生徒たちには有意義な青春を送って欲しい。ただし失踪にだけは気をつけて。

集団失踪の話題はまだ耳にしていないので、登下校時はなるべく複数人でかたまるのを推奨する。

また、友人や親が行方不明になった時は第二生徒会(と本人たちは語る)を頼るのもアリかも知れない。


以上、とあるまとめサイト記事『府内の学校ナビ 朝葺学園編』より抜粋。


このサイトは、この記事を最後に更新が途絶えている――。




第一幕 “名古寺睦三、最初の事件”


教室を出た睦三の顔は、少しげっそりとしていた。

一度に沢山のクラスメイトの相手は疲れる。早く寮に戻りたい。


「ナームーさんっ!」

……階段付近で、いきなり柚芽に腕を掴まれた。


「何だ。俺はもう帰りたいんだけど」

「ナムさんって部活どうするの?」

「部活ねえ、特に考えてないわ。帰って寝たいからこの手ェ離してくれ」

「いい部活があるんだけどな~」

「いや、今度でいいよ。どうせ月末くらいにはどっかに入ってる」

「部活入らないの?」

駄目だ、まるで会話が成立していない。一方的すぎる。

何か入らせたい部活があるのか、と尋ねる。すると柚芽は元気に頷き、睦三の腕を引っ張って走り始めた。

渡り廊下を抜けて校舎を移り、階段を駆け上がる。一体彼女はどこへ連れて行くつもりなのだろう。


運動部……はほとんどが体育館や校庭で活動している。こちらの建物には部室がない。

文化部で自分が興味を惹きそうなものは何かあったか。そもそも柚芽もその部に所属しているのだろうか。


東校舎、四階。

無駄に急勾配な階段を上がりきると、フロアの隅にその部屋は存在していた。

柚芽はドアを開けようとせず、あくまで俺の手で入らせるつもりらしい。

このまま帰してくれる空気ではなさそうなので、渋々ドアノブに手をかける。


「あの……」

第三者の声が聞こえたのは、その時だ。


「入部希望の方、でしょうか」

睦三の背後に立っていたのは、貧弱という言葉がピッタリ似合いそうな雰囲気を纏った女子生徒。

か細い声と左目にした眼帯が、彼女のひ弱さを余計に演出している。


「そうだよ~。今日から転校してきたナムさ……名古寺睦三ちゃん!」

「なんでお前が勝手に紹介するんだ。この柚芽(バカ)に連れて来られたんだが、一体ここは何部なんだ?」

柚芽を小突きながら問う。


「表向きはボランティア部、という名前です。私たちは“第二生徒会”って呼んでいますが」

ボランティア部、そう来たか。睦三は地域のゴミ拾いだとかペット探しだとかを連想したが、実際は違った。


女子生徒――北奈々江(きたななえ)曰く、依頼を受け付ける対象は主に生徒。

地域活動に貢献しているわけではなく、学校内での何でも屋といったところであった。


「そうか、じゃあ早速依頼だ。帰りたいから柚芽(こいつ)を黙らせてくれ」

率直な感想を述べると、興味が湧かない。

何故こんな部に連れて来られたのか、理解することができなかった。


「それは、ちょっと……。私、ユズちゃんを止められる自信は……ない、です」

「私あまりケンカはできないけど、ペーちゃんくらいなら簡単に止められれるよ~」

指をパキポキ鳴らす動作を見せる柚芽。確かに、取っ組み合いになったら奈々江は3秒ももたないだろう。

これは後から聞いた話なのだが、“ペーちゃん”というのは苗字の“北”から付けられたらしい。

何故麻雀なのだろう。彼女のネーミングセンスはよく分からない。


「じゃあ、他の部員は?」

「皆さん、今日は用事があるみたいで……」

「おいおい、困るなあそれは」

突然部室の扉が開き、中からブレザーに身を包んだ男子生徒が姿を現す。制服のラインの本数を見るに、高校生だ。


「こっちは春休み前から依頼してるんだよねえ。鶴見の姉妹が音信不通だから探すの手伝ってくれって」

睦三は思わず、柚芽と視線を合わせる。鶴見、つい先程も耳にした名前だ。


「今福先生の方はとりあえず代理顧問立ててもらったけど、特に鶴見杏花(つるみきょうか)だ! アイツがいないと部が纏まらないんだよ!」


すいません、と必死に謝る奈々江の横で、柚芽は睦三に耳打ちする。

「今福先生って、A組の前の担任だよ」

「まさかそれって……」

睦三の中で、不完全なパズルが組み立てを始める。


「なあ、そこでコソコソ話してるの」

何だ、と反応を示す。思えば、マトモに年の近い異性と会話をしたのは何年ぶりだろう。


「君ひょっとして、名古寺の妹かい」

「そうっすけど、何か」

何故彼は俺のことを知っているのだろう。問い返すと、意外な返事が返ってきた。


「君の姉から話聞いてたし写真も見たからねえ。自分に憧れている可愛い妹だとよ」

「なっ……」

男っぽい雰囲気をしているけどな、と付け加えられる。そうするように仕立てたのは姉だろうに。

心中で毒を吐く睦三に、男子生徒は更に続けた。


「君、姉の行方を捜して第二生徒会に来たんだろう。そこは行方不明生徒の捜索ばっかりしている部活だからな。でも彼女たちに依頼する必要はない」

「どういう意味だ。というか、姉貴を知ってるのか」

男子生徒はチッチッチッと指を振る。そう簡単に情報は教えない、という意思を示された。


「ウチは浦林孝也(うらばやしこうや)。アイツに関する情報を教える代わりに、鶴見先輩たちをウチらの部活に引きずり戻して欲しいんだ」

「引きずり戻す……って、随分横暴な言い方すけど。つまり暗に、第二生徒会(ここ)に入れってことっすか」

分かっているなら話は早いと言わんばかりに肩を持つ孝也の手を剥がし、睦三は反論する。


「警察には届けてないんすね」

「生憎だけどナムさん、この町の警察は動かないの。行方不明者の数が多すぎて、死体が出ない限り動かないんだ」

口を挟んできた柚芽に、そりゃどうもと返す。


「そういうこと。それに先輩たちの失踪には君の姉が関わっている可能性もあるからねえ」

今度は睦三が孝也の両肩に手を置く番だった。


「おい、それどういうことだ!? 神十三(ことみ)姉がなんで関わってんだよ!」

「知りたかったら、第二生徒会に入って正式に調査ということで」

「入る!」


即答。

事実、クラスメートと前担任が揃って失踪しているというのが何だか気分が悪かった。真相を知りたくなった。

自身の姉、名古寺神十三(なごでらことみ)が関わっているなら、尚更。

部活をそんなことで決めていいのか、後で後悔してしまわないだろうかという打算よりも、姉の方が大事だった。

結局、睦三も根っこは単純なのだ。


「んじゃあこの子(睦三)借りていくよ」

早く話を聞きたくてウズウズしている睦三を押さえ、孝也は彼女と共にフロアから消えた。



「行っちゃったね」

「はい……」

残された二人は、ただ呆然と立ち尽くしている。

しかし、柚芽が突然動き出した。


「ごめんペーちゃん。私用事あったの思い出したから、ナムさんをお願いね」

「ユズちゃん、気になってたんだけどナムさんって?」

「名古寺睦三、略してナムさんだよ!」

じゃあね、と手を振る柚芽を見送り、一人取り残された奈々江。


無意識のうちに、左手で眼帯を覆ってしまう。

彼女の顔は誰が見ても『思いつめている』と言うだろう。それほどに青ざめた表情をしていた。


大きく首を振り、パシンと頬を叩く。


「追いかけなきゃ」

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