外界の天使
わたしは今日も魔法石を磨いていた。もっと綺麗にする為、そして力を強化させる為。
『あの時』もっとこの子達の力を引き出せていたら。わたしがもっとみんなのことを守れていたら。そしたらみんなが無駄に傷付くことはなかった。全部、未熟だったわたしのせい。
魔法石を磨く手に力が入る。それを受け止める為の左手は、手の平に縦の傷がある。もう数か月経ったけれど、あの日傷付いたのがまだ痛む。
「――ミア」
魔法石を磨いていた手が止まった。少し低くなったリトの声がした。
突然すぎて一瞬幻聴かと思った。違う人かと思った。でもわたしの部屋の外に立ってわたしの名前を呼ぶ男の子は一人しかいない。
思わず固まってしまった体を動かして振り返ると、確かにそこに彼がいた。変わらない柔らかい茶髪に穏やかな黄土色の目。でも、昔と違うところもある。
少し背が伸びた? 筋肉も増えた? もっとかっこよくなってる。来てくれて嬉しい。
言いたいことは沢山あった。けれど、言葉は紡げなかった。
窓を開けることが出来なかった。そうしようとして思い止まった。
昔、約束した。それぞれ「僕は旅に出て何かを発見する」「わたしはここで村人を守る」って。彼はその約束を果たし立派になって帰ってきたのに、わたしときたらろくにみんなを守れもせずに、情けなく手に怪我までしてしまった。
わたしとあなたじゃ大違い。あなたは自信溢れる太陽の天使のようなのに、わたしは鳥籠の傷付いた鳥。
元気だって、痛む左手の嘘を吐いた。だって心配させるって分かってたから。なのに
「ミア、何があったの? 全部話さなくてもいいから。君に寄り添うことを許してはくれない?」
そう言う彼の言葉は、表情は、窓越しなのにまるで優しく手を取られているようだった。幼いあの日と同じような温かい空気に満ちて、彼は首を傾げ掬うようにわたしを見つめる。
「なんでそんなに、優しいの?」
「え、なんでって……なんでだろ。君が好きだから?」
はにかむリトは、外の赤くなった葉に似合う透いた笑みをする。
ずっと、わたしのことを考えていてくれたんだろう。お土産は全部違う街のもので、わたしの好みを分かった選び方だった。
窓台に置かれた手は寂しそうだ。
……本当は話したくない。惨めだし、怖いし。でも、彼はわたしの言葉を待っている。
唾を飲み込んで、息を吸って、わたしは口を開いた。
「あのね……」




