第8話
剣を逸らす。
次の目標はそれだった。
避けるだけでは勝てない。
だが攻撃もできない。
ならばまずは防御だ。
レオンの剣を崩す。
その隙を作る。
そこから先を考える。
我ながら地道だった。
そして今さらだが。
このループそのものが地道だった。
◇◇◇
「レオン」
「はっ」
いつもの処刑。
いつもの死。
ただし。
少しだけ未来が変わり始めていた。
初撃。
回避。
二撃目。
回避。
三撃目。
回避。
四撃目。
拳を叩き込む。
甲高い音。
剣が逸れる。
成功。
そして。
五撃目。
死亡。
◇◇◇
戻る。
◇◇◇
また挑む。
◇◇◇
死亡。
◇◇◇
戻る。
◇◇◇
死亡。
◇◇◇
何度も繰り返した。
そのうち。
剣を逸らすこと自体は安定してきた。
もちろん痛い。
拳は毎回悲鳴を上げている。
だがどうせ戻る。
慣れたくないが慣れてしまった。
◇◇◇
ある周回。
初撃。
逸らす。
二撃目。
逸らす。
三撃目。
回避。
四撃目。
逸らす。
五撃目。
回避。
六撃目。
回避。
「……お?」
少し余裕があった。
今までなら必死だった。
生き残るだけで精一杯だった。
だが。
今は違う。
レオンの動きが見える。
完全ではない。
それでも。
確実に以前より見えていた。
◇◇◇
「なら」
思わず拳を振った。
顔面を狙う。
だが。
届かない。
レオンは半歩下がっただけだった。
そのまま。
死亡。
◇◇◇
「駄目か」
戻る。
だが悪くない。
初めて攻撃した。
それだけでも前進だった。
◇◇◇
次。
拳。
空振り。
死亡。
◇◇◇
次。
蹴り。
避けられる。
死亡。
◇◇◇
次。
体当たり。
受け止められる。
死亡。
◇◇◇
「難しいな……」
思わず呟く。
当然だった。
俺は元サラリーマンで、不良でもなかった。
喧嘩の経験などほとんどない。
まして剣士相手の格闘戦など。
あるはずもない。
◇◇◇
それでも続けた。
◇◇◇
死亡。
◇◇◇
死亡。
◇◇◇
死亡。
◇◇◇
何十回。
◇◇◇
何百回。
◇◇◇
その中で少しずつ学ぶ。
拳の届く距離。
踏み込み。
体重移動。
肩の使い方。
殴るという行為そのもの。
会社員時代には絶対学ばなかった知識だった。
◇◇◇
そして。
ある周回。
レオンの剣を逸らした。
ほんの僅かな隙。
俺は踏み込む。
拳を握る。
顔面目掛けて振り抜いた。
レオンが避けようとする。
だが。
少し遅かった。
拳が頬を掠める。
軽い感触。
本当に軽い。
だが。
確かに当たった。
「――!」
レオンの目が見開かれた。
初めてだった。
この男がここまで驚いたのは。
その直後。
反撃。
死亡。
◇◇◇
戻る。
だが。
俺は笑っていた。
会場の貴族たちが怪訝そうな顔をする。
構わない。
今のは大きい。
非常に大きい。
初めて。
本当に初めて。
レオンに攻撃が当たった。
◇◇◇
次の周回。
また挑む。
逸らす。
踏み込む。
拳。
頬。
命中。
死亡。
◇◇◇
次。
肩。
命中。
死亡。
◇◇◇
次。
胸。
命中。
死亡。
◇◇◇
次。
腕。
命中。
死亡。
◇◇◇
「弱いな……」
思わず苦笑する。
当たるようにはなった。
だが。
効いていない。
まるで効いていない。
レオンは少し驚くだけだ。
その後普通に俺を殺す。
非常に理不尽だった。
いや。
実力差を考えれば当然か。
◇◇◇
それでも。
以前とは違う。
確実に違う。
初撃で死んでいた頃から比べれば雲泥の差だ。
レオンに攻撃が当たる。
それはつまり。
いつか倒せる可能性があるということだ。
◇◇◇
「なるほど」
俺は静かに拳を握った。
攻撃は当たる。
だが威力が足りない。
技術も足りない。
知識も足りない。
ならば。
次に覚えるべきことは一つだ。
どう殴れば相手が倒れるのか。
その答えを探すことだった。
◇◇◇
アルフレッドがまた何か喚いている。
エミリアがまた泣きそうな顔をしている。
そんなものはもう背景だ。
俺の視線はレオンだけを見ていた。
銀髪の騎士。
何百回も俺を殺した男。
だが今は違う。
壁はまだ高い。
それでも。
壁に初めて傷を付けることができた。
「待ってろよ」
小さく呟く。
レオンは当然聞いていない。
だが構わない。
次は当てるだけじゃない。
効かせる。
そう決意した瞬間。
処刑の時間が、また始まった。




