第7話
三撃目を回避した。
そして四撃目で死んだ。
普通なら落ち込むところだろう。
だが俺は違った。
むしろ気分が良かった。
何しろ成果が出ている。
昨日できなかったことが今日できる。
社会人時代にはなかなか味わえなかった感覚である。
まあ、その代償として何百回も首が飛んでいるのだが。
◇◇◇
「レオン」
「はっ」
いつもの流れ。
いつもの処刑。
いつもの死。
だが少しずつ変わってきていた。
初撃。
回避。
二撃目。
回避。
三撃目。
回避。
四撃目。
死亡。
◇◇◇
戻る。
◇◇◇
また挑む。
◇◇◇
死ぬ。
◇◇◇
戻る。
◇◇◇
また死ぬ。
◇◇◇
繰り返す。
ひたすら繰り返す。
途中から回数を数えるのをやめた。
意味がないからだ。
百回かもしれない。
二百回かもしれない。
もう分からない。
◇◇◇
ただ。
ある時から違和感を覚え始めた。
「……何か変だな」
四撃目。
五撃目。
六撃目。
少しずつ見えるようになってきた。
だが。
根本的な問題があった。
俺は避けるだけだ。
ずっと。
避けるだけ。
逃げるだけ。
生き延びるだけ。
レオンはずっと攻撃できる。
俺は何もできない。
「そりゃ勝てないか」
当たり前だった。
仮に百撃避けても。
二百撃避けても。
反撃できなければ勝てない。
そして。
俺には武器がない。
◇◇◇
次の周回。
俺は避けながら考えた。
初撃。
回避。
二撃目。
回避。
三撃目。
回避。
四撃目。
回避。
五撃目。
回避。
六撃目。
死亡。
◇◇◇
戻る。
今のは惜しかった。
だが。
惜しいだけだ。
勝ちには程遠い。
◇◇◇
「武器か……」
俺は顎に手を当てた。
断罪会場。
豪華なドレス。
宝石。
貴族たち。
そして自分の身体。
使えるものは少ない。
いや。
本当に少ない。
というかほぼない。
◇◇◇
何十回目かの周回。
俺はあることに気付いた。
レオンの剣。
それ自体である。
今までは避けることしか考えていなかった。
だから剣を見ていた。
だが。
近付けば触れる。
当然だ。
剣なのだから。
「いや待て」
そこで思考が止まった。
触れる?
剣に?
素手で?
正気か?
◇◇◇
次の周回。
試した。
初撃。
回避。
二撃目。
回避。
三撃目。
回避。
四撃目。
俺は思い切って手を伸ばした。
そして。
指が飛んだ。
「ぎゃあああああ!」
そのまま死亡。
◇◇◇
戻る。
「痛い!」
思わず叫んだ。
戻った後は怪我が消えている。
だが痛みの記憶は残る。
残酷な仕様だった。
◇◇◇
それでも試した。
◇◇◇
指が飛ぶ。
◇◇◇
手の甲が裂ける。
◇◇◇
腕を切られる。
◇◇◇
死亡。
◇◇◇
死亡。
◇◇◇
死亡。
◇◇◇
「無理だろ!」
思わず叫ぶ。
だが。
完全に無理でもなかった。
ほんの一瞬だけ。
ほんの少しだけ。
剣の軌道が変わった時があった。
◇◇◇
さらに繰り返す。
◇◇◇
避ける。
◇◇◇
触る。
◇◇◇
死ぬ。
◇◇◇
避ける。
◇◇◇
触る。
◇◇◇
死ぬ。
◇◇◇
そんなある周回。
四撃目。
俺の拳が剣の側面を叩いた。
甲高い音。
剣先が僅かに逸れる。
ほんの数センチ。
本当に僅か。
だが今までとは違った。
避けたのではない。
逸らしたのだ。
「……!」
その直後。
五撃目で死んだ。
◇◇◇
戻る。
だが。
今度は笑いが込み上げてきた。
「なるほどな」
避けるだけでは足りない。
攻撃もまだ無理だ。
なら防ぐ。
剣を受ける。
逸らす。
崩す。
まずはそこからだ。
◇◇◇
アルフレッドの断罪が続く。
エミリアが悲しそうな顔をする。
貴族たちが頷く。
全部どうでもよかった。
俺の視線はレオンだけを捉えている。
銀髪の騎士。
何百回も俺を殺した男。
だが今は違う。
ただの壁ではない。
攻略法が見え始めている。
「次は」
俺は静かに呟いた。
「剣を弾く」
それができれば。
その次が見える。
そう確信しながら。
俺はまた新しい死へ向かって歩き出した。




