第6話
目標を変更する。
三撃目を目指す。
その結論に至った俺は、相変わらず断罪会場に立っていた。
「――イレイナ・フォン・ローゼン!」
アルフレッドが何か言っている。
もう聞いていない。
重要なのはレオンだ。
俺は銀髪の騎士を見つめた。
レオンはいつも通り無表情だった。
こっちは何百回も顔を合わせているのだが、向こうからすれば初対面である。
何だか少し理不尽だった。
◇◇◇
「レオン」
「はっ」
来た。
処刑タイムである。
「罪人イレイナを処刑せよ」
「御意」
レオンが歩き出す。
剣を構える。
俺は深く息を吐いた。
初撃。
見える。
肩が動く。
足が踏み込む。
剣が走る。
回避。
銀光が頬を掠めた。
成功。
続いて二撃目。
俺は身体を捻る。
これも最近は少しずつ見えるようになってきた。
剣先が鼻先を通過する。
成功。
そして。
三撃目。
「――あ」
死んだ。
◇◇◇
戻る。
◇◇◇
また死ぬ。
◇◇◇
戻る。
◇◇◇
また死ぬ。
◇◇◇
二撃目までは安定してきた。
しかし三撃目がどうしても駄目だった。
速い。
見えない。
何が起きたか分からない。
気付いたら首が飛んでいる。
非常によろしくない。
◇◇◇
ある日。
いや、日ではないな。
ループだから。
ある周回で俺は気付いた。
「おかしい」
レオンの動きが違う。
いや。
違わない。
そこが問題だった。
俺が右へ避ければ右へ追う。
左へ逃げれば左へ追う。
しゃがめば斬り下ろす。
下がれば踏み込む。
まるで。
「見てから対応してないか?」
ぽつりと呟く。
◇◇◇
次の周回。
俺は試した。
初撃を右へ回避する。
二撃目も右へ。
三撃目。
死亡。
◇◇◇
次。
初撃を左へ。
二撃目も左へ。
三撃目。
死亡。
◇◇◇
次。
初撃を右。
二撃目を左。
三撃目。
死亡。
◇◇◇
だが。
確信は強まった。
レオンは決まった動きをしているわけではない。
俺を見ている。
俺の動きに合わせて剣を変えている。
つまり。
暗記だけでは勝てない。
◇◇◇
「最悪だな……」
思わず呟く。
ゲームならパターンを覚えれば終わりだ。
だがレオンは違う。
人間だ。
しかもかなり強い。
反応している。
考えている。
対応している。
それを知った瞬間、攻略難易度が跳ね上がった気がした。
◇◇◇
それでも諦める理由にはならない。
死ぬだけだからだ。
いや、十分嫌なのだが。
どうせ戻る。
だったら試す。
◇◇◇
百回以上。
◇◇◇
二百回以上。
◇◇◇
三百回以上。
◇◇◇
何度も繰り返した。
その中で少しずつ分かってきたことがある。
レオンは強い。
だが万能ではない。
判断には一瞬の時間がある。
人間だからだ。
そして。
その一瞬が見え始めていた。
◇◇◇
「レオン」
アルフレッドの声。
「はっ」
処刑開始。
レオンが近付いてくる。
初撃。
回避。
二撃目。
回避。
ここまではいい。
三撃目。
レオンの肩が僅かに揺れる。
俺は反射的に身体を動かした。
今までとは違う方向へ。
半歩。
本当に半歩だけ。
次の瞬間。
銀色の刃が目の前を通過した。
「……!」
見えた。
避けた。
三撃目を。
初めて。
ついに。
レオンの三撃目を回避した。
だが。
歓喜したのも束の間だった。
四撃目。
死亡。
◇◇◇
「よし!」
戻った瞬間、俺は拳を握った。
会場中の視線が集まる。
構わない。
今のは大きい。
非常に大きい。
初撃を避けた。
二撃目も避けた。
三撃目も避けた。
死んだけど。
だが問題ない。
今までは三撃目で確定死亡だったのだ。
前進している。
確実に。
◇◇◇
アルフレッドの断罪演説が続く。
俺はほとんど聞いていなかった。
代わりにレオンを見る。
銀髪の騎士はいつも通り無表情だ。
だが。
ようやく見えてきた。
壁の向こう側が。
「待ってろよ」
小さく呟く。
レオンには聞こえない。
聞こえるはずもない。
だが構わない。
何百回死んだかは知らない。
何百回でも死ぬ。
そしていつか。
その剣を止めてみせる。
そう決意したところで。
「イレイナ! 聞いているのか!」
アルフレッドの怒鳴り声が響いた。
俺は初めて少しだけ笑った。
少なくとも。
お前をぶん殴る日は確実に近付いている。




