第5話
六十一回目のループ。
俺はレオンの初撃を回避した。
そして死んだ。
成果としては微妙だが、それでも大きな前進だった。
何しろ今までは初撃で首が飛んでいたのだ。
二撃目まで生き延びた。
これは快挙である。
たぶん。
◇◇◇
六十二回目。
初撃回避。
二撃目死亡。
◇◇◇
六十三回目。
初撃回避。
二撃目死亡。
◇◇◇
六十四回目。
初撃回避。
二撃目死亡。
◇◇◇
六十五回目。
初撃回避。
二撃目死亡。
◇◇◇
「進歩しねえ……」
俺は頭を抱えた。
確かに成長している。
初撃はかなりの確率で見えるようになった。
だがそこまでだ。
二撃目。
三撃目。
その先がまるで見えない。
レオンは強い。
強すぎる。
初撃を避けられても、すぐに軌道を変えて斬り込んでくる。
まるで嵐だ。
◇◇◇
七十二回目。
死亡。
◇◇◇
七十九回目。
死亡。
◇◇◇
八十五回目。
死亡。
◇◇◇
九十三回目。
死亡。
◇◇◇
「おかしくないか?」
俺は疑問を抱き始めた。
何十回も繰り返している。
普通ならもっと成果が出てもいいはずだ。
だが。
素手。
そこが問題だった。
俺は何も持っていない。
レオンは剣を持っている。
こちらはドレス姿の令嬢。
どう考えても不利だった。
「剣があればな……」
ぽつりと呟く。
そして。
思いついてしまった。
◇◇◇
百二回目。
「レオン!」
アルフレッドが名前を呼ぶより早く。
俺は手袋を脱ぎ捨てた。
そして。
レオンの顔面へ向けて投げつける。
会場が静まり返った。
手袋はレオンの胸元に当たり、床へ落ちた。
数秒の沈黙。
「……何の真似でしょう」
レオンが聞く。
俺は胸を張った。
「決闘を申し込みます!」
ざわり、と会場が揺れた。
イレイナの記憶によれば、この世界では貴族同士が手袋を投げるのは決闘の申し込みだ。
つまり。
これは正式な挑戦である。
「決闘だと?」
アルフレッドが目を丸くする。
「はい」
俺は頷いた。
「処刑されるくらいなら戦います」
どうせ死ぬ。
なら武器くらい持たせろ。
その結果――。
◇◇◇
開始三秒で死んだ。
◇◇◇
「いや早い!」
百三回目の俺は叫んだ。
おかしい。
剣を持ったんだぞ。
これで少しは戦えると思うじゃないか。
◇◇◇
百四回目。
死亡。
◇◇◇
百五回目。
死亡。
◇◇◇
百六回目。
死亡。
◇◇◇
百十回目。
死亡。
◇◇◇
百二十回目。
死亡。
◇◇◇
百三十五回目。
死亡。
◇◇◇
百五十回目。
死亡。
◇◇◇
「なんでだ!」
俺は叫んだ。
だが答える者はいない。
当然である。
みんな死んだからだ。
俺が。
◇◇◇
それでも諦めなかった。
決闘を繰り返す。
また繰り返す。
さらに繰り返す。
何十回も。
何百回も。
◇◇◇
二百二十七回目。
死亡。
◇◇◇
二百四十三回目。
死亡。
◇◇◇
二百六十八回目。
死亡。
◇◇◇
二百九十回目。
死亡。
◇◇◇
三百回目。
死亡。
◇◇◇
俺は気付いた。
「……あれ?」
おかしい。
明らかにおかしい。
素手で避けていた頃の方が長生きしていた。
決闘を始めてからの方が成績が悪い。
何故だ。
考える。
そして。
答えは意外なほど単純だった。
◇◇◇
三百七回目。
レオンが剣を構える。
その目を見て。
俺はようやく理解した。
「警戒してるのか」
ぽつりと呟く。
素手の時。
レオンは処刑人だった。
罪人を処分するだけ。
だから最低限の動きしかしない。
だが、決闘になると違う。
相手は武装した対戦相手。
つまり敵だ。
レオンは一切手を抜かない。
全力で潰しにくる。
だから勝率が下がる。
いや、勝率など元からゼロだったが。
生存時間が下がる。
◇◇◇
三百八回目。
俺は決闘を申し込まなかった。
代わりに。
いつものように処刑を受ける。
レオンが近付いてくる。
剣を構える。
初撃。
見える。
回避。
頬を掠める。
二撃目。
見えない。
死亡。
◇◇◇
戻る。
だが、なぜか少しだけ安心していた。
遠回りだった。
かなり遠回りだった。
何百回も死んだ。
本当に無駄だった気もする。
しかし、ひとつだけ確かなことがある。
「やっぱりこっちだな」
俺は小さく笑った。
剣で勝とうとするのは早すぎる。
まずは生き残る。
そして防ぐ。
避ける。
見る。
覚える。
レオンに勝つのはその後だ。
銀髪の騎士へ視線を向ける。
彼は相変わらず何も知らない顔で立っていた。
だが俺は知っている。
この男は強い。
そして、今の俺が目指すべき壁だ。
「さて」
俺は肩を回した。
「まずは三撃目を目標にするか」
そう呟いた瞬間。
アルフレッドの断罪演説が始まった。
もはや聞き慣れたBGMだった。




