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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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109/110

合流

「…それにしても。」


ウィドウに覆いかぶさっていたムタロウは立ち上がると、部屋を見渡した。

陥没した壁を中心に三体の死体が転がっていた。

死体は、錆びたような生臭さをまき散らしながら、赤黒い血を床に垂れ流していた。

外から空気が流れ込んでいた。

壁を見ると、拳大程の穴が開いていて、藍の空と白い点の瞬きが見えた。

壁の穴から視線を落とすと、頭が消し飛んだ死体が落ちていた。

首は高熱に晒され、真っ黒に炭化していて、先ほどの三体の死体と異なり、血も臭いも放っていなかった。


食卓に目を向けると、食卓の下でカンダモンダが全身総毛立てて丸くなっていた。

ムタロウはため息をつくと、食卓の前で膝をつけ、鼻先に手を差し出した。

カンダモンダは、ムタロウの指に鼻をつけると、逆立った毛が元に戻り、落ち着きを取り戻した。


「皆無事だったのはよかったけど。」


背後からウィドウの声がした。

膝の裏を擦りながらウィドウがムタロウの隣に並んだ。


「わたしの怪我も治っているし、ムタロウの腕の怪我も治っている。」


ウィドウはムタロウの腕を撫で、その手をまじまじと見ていた。


「出血止まっているし、そもそも傷跡がない。」


ウィドウは、自身のひかがみを擦り、手を見た。


「こっちも…。」


ウィドウは、首の無い死体に視線を向け、歩いて行った。

膝を着け、黒焦げになった頸部を撫でた。

指先に黒い粒が付着し、ウィドウはそれを指ですり合わせた。


「…火線?」


ウィドウはムタロウの顔を見た。

ムタロウは壁際に転がっている死体を抱え上げ、外へと引き摺っていた。


「…。」


「ムタロウ!」


「…なんだ?」


「これは、どういうことなの?」


「…その扉を開ければ分かる。」


ムタロウは、入口の扉を指差した。


「えっ?」


ウィドウは扉を見てから、ムタロウの顔を見返した。

ムタロウの表情に変わりはなかった。

ウィドウは、入口扉の前まで進んだ。


「…なんか、いる?」


ウィドウは剣を抜き、左足を後ろにずらし、身体を沈めた。

ウィドウの目に、先刻の刺客にひかがみを斬られた記憶が再生されていた。

額の産毛の小さな汗の滴が浮いていた。


入口の扉が派手に開いた。

扉を止めるヒンジは開く扉の勢いを受け止めきれず、扉は藍の空へと飛んでいた。

ウィドウの身体が電蟲の放つ黄色の光に包まれた時、光が浮かび上がらせたのは、


老婆と、


赤髪の少女と、


紅蓮の髪を持つ女だった。


◇◇


「これは派手にやらかしたのぅ。」


老婆は遠慮という言葉など知らぬ風体でずかずかとムタロウの家に入っていった。

次いで、赤髪の少女が首を縮めこませながら続いた。

紅蓮の髪の女は家の中を見回しながら、胸を張って家に入っていった。


三人の前に、刺客の死体を引き摺っているムタロウがいた。

互いに動きが止まり、にらみ合いが続いた。


「…。」


「…。」


ウィドウは、突然挨拶もなく家に入ってきた三人と、ムタロウの関係が理解できず、電光を纏いながらも、両者を見回すだけで、困惑の表情を浮かべていた。


「ひさしぶりじゃのぅ」


先頭の老婆がムタロウに声を掛けた。

老婆は、距離をぐいと詰め、ムタロウを見上げていた。


「…ああ。」


「むっ、ムタロウ。」


老婆の背後からおずおずと赤髪の少女が顔を出した。

老婆と異なり、少女は控え目に距離を寄せた。

少女はムタロウの顔を見ようとせず、膝のあたりに視線を寄せていた。


「…助かった。ありがとう。」


「…は、はいっ。」


少女は顔を上げ、心底嬉しそうな表情をムタロウに向けた。

ウィドウは、少女とムタロウの顔を見比べ、思わず舌打ちした。


「ムタロウ、この人たち、知り合い?」


「…ああ。」


「紹介!」


ウィドウは、三人に鋭い視線を向けたのち、ムタロウに顔を向けた。

ウィドウの剣幕にムタロウは面倒くさそうに頭を掻き、ラフェールを指差した。


「…この婆ァが、ラフェール、治癒師だ。」


ラフェールは普段通り、黄ばんだ歯と桃色の歯茎をウィドウに見せた。

目が合うとウィドウは、一歩後ずさった。


「こっちは、クゥーリィー、魔導士。」


「あっ、クゥーリィーです。」


クゥーリィーは、怯えの粒子を目に湛えていた。


「こいつは…、って、なんでお前がここにいる?」


ムタロウは紅蓮の女を見て、明らかに狼狽していた。

ウィドウは、ムタロウが狼狽する姿を見て、みるみるうちに機嫌を悪くしていった。


「誰なの?ムタロウ?」


「…いや、こいつは…。」


「ムセリヌだ。小娘よ。」


ムタロウとウィドウの間に、不敵な笑みを浮かべながらムセリヌが割り込んできた。


「あ、そうですか!…で、ムセリヌさんは何ですか?職業!」


「職業?竜をやっている。」


「…はぁ?竜?…何言ってる・・・の?…え?」


目の前の女の紅蓮の髪、人外と言ってよい美しい顔の造り、そして、立ち振る舞いから発せられる、只者ではない粒子。そして、かの赤竜と同じ名前。

ウィドウは、ムセリヌ、クゥーリィー、ラフェールを見てから恐る恐るムタロウに顔を向けた。


ムタロウは、黙って頷くだけで、何も言わなかった。

ムタロウの動作を見て、ウィドウの顔色はみるみる青くなっていった。


「ムタロウ…あなた、どういう交友関係?」


◇◇


死体の片づけと床や壁についた血のふき取りが終わったのは明け方頃だった。

ムタロウは、ラフェール達に、ノーブクロで起きた事を掻い摘んで説明した。


カンダモンダの依頼を受けたこと。


豚の鼻の刺客に襲われたこと。


赤目豚との闘い。


報復としてムニューチンの家が焼かれ、

ぺトーマンが殺されたこと。

ぺトーマンが殺されたことには、ラフェールやクゥーリィーも衝撃を受けており、豚の鼻に対する怒りをあらわにしていた。


「…おれは、豚の鼻の連中をとことん殺ってしまおうと思っている。」


「ということは…」


「ああ、王都に行く。豚の鼻の本拠を襲撃する。」


クゥーリィーはムタロウの物騒な決意表明に目を見開いた。

ラフェールは、ムタロウの顔を見ておもしろそうな表情を見せていた。


「…そこで、ウィドウに協力してもらうことになった。」


ラフェール、クゥーリィー、そしてムセリヌの視線が一斉にウィドウに向けられた。


「この子に先に王都に行ってもらい、豚の鼻の拠点を探って貰う。」


「大丈夫かの?」


ラフェールが両肘を食卓に乗せながら腕を組んだ。


「…頑張ってみます!」


「じゃあ、そういうことだ。明日にでもウィドウには王都に先に行ってほしい。」


ムタロウはウィドウに視線を向け、手を肩に置いた。


「了解!…ところで、ですが。」


「…なんだ?」


「ムタロウ達は、いったい何が目的で、いろいろな場所を飛び回っているの?」


「…。」


ムタロウは黙り込んでいた。

ウィドウの疑問にどう答えたらよいか困っている様子であった。

ムセリヌが目を輝かせ、ウィドウの前に乗り出してきた。


「…ニョウドウの呪いじゃ!」


「ニョウドウ?」


「そうじゃ!アレを手で挟むか、足で踏んでもらうしか取れぬ痒みが一生続く不治の病じゃ!」


得意げな表情でムセリヌが声高にしゃべり始めると、ムタロウはムセリヌに背を向け、ぽつりと独り言をつぶやいた。


「…またこれか。」


ムタロウの顔は朱に染まり、羞恥に熱を帯びていた。


とうとう、新旧パーティーの合流まで書けました。

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