第11話「趣味としての童貞」
ハンジュークの村に帰還した日の夜。
村長から女が届いた。
金髪ロング。
巨乳。
顔もそこそこ。
童貞の夢にでも出てきそうな、ゴージャスな雰囲気の女だ。
「ウォーレン様。ミッキーと申します。どうかお情けを頂けませんでしょうか」
「……チェンジで」
女は背を向けて去っていった。
そして。
再び30分後。
村長から女が届いた。
銀髪ショート。
貧乳。
顔は美麗。
ロリコンの夢にでも出てきそうな、儚げな雰囲気の少女だ。
「ウォーレン様。フィオナと申します。どうかお情けを」
「いやごめん。ほんとうにごめん。さっきは言い間違えた。僕はそういう贈り物を必要としていないから、今日は静かに寝かせてくれ」
「…………失礼いたしました」
女は背を向けて去っていった。
うーむ。
肩が震えていたな。
プライドでも傷ついたんだろうか。
貴族から袖にされた端女の気持ちなんて、僕にはわからないのだが。
『よかったの?』
『なにがだ』
『いやほら、せっかくの据え膳だったんだし』
『妖精さんは僕のことを何だと思っているのだ?』
『え? いや、だって、最初のボインちゃんはともかく? 二番目の子はロリロリして処女っぽくて、マスターの好みだったんじゃないかと思うんだけど』
『そうではない』
僕は静かに断言した。
『男が女に向ける欲望には3パターンぐらいあって、うち1つはわかりやすく肉欲だ。女とセックスしたい気持ち。とにかく胸が大きくて健康で孕ませやすくて丈夫な子供を産んでくれそうな女が欲しくなる。僕は実のところ、この気持ちが非常に薄い』
『そうなの?』
『ああ。なくはないが、別にやらなくてもいいのだ。オナニーで十分。村長の息がかかったワケありの女なんて、触れることさえ気が引ける」
『なるほどー』
妖精さんは納得したようにうなずいた。
『よーするに、性欲よりも理性のほうが優先されるってことだよね?』
『ああ』
『それはいいことだと思う。禁欲的でかっこいいよ。欲望には3パターンあるって言ってたけど、あと2つは何なの?』
『2つ目は周囲への見栄だ。いい女を見せびらかしたい気持ち。妖精さんで言えば、クラスの野球部でエースピッチャーの彼氏を捕まえて他のみんなに自慢したい。そーゆー感覚だな』
『……私はもう、三沢君のことは忘れたよ』
なぜか嫌そうな表情で答える妖精さん。
うーむ。
よくわからん反応だな。
まさか僕のことが好きで、前の思い人の話をされたくないわけでもあるまいが。
『ともかく、周囲のみんなが欲しがっているものが欲しくなる。高めの女であってもな。例えばノエルとかカルラとか。あいつらをモノにすればさぞかし羨ましがられるだろうと思わないか?』
『カルラをモノにしたら殺されちゃうと思う』
『わかっている。あくまでも例えだ。時期がくるまではやらない』
『その答えがいかにも全然わかってない感じで超こわいんだけど……まあいいや。それで、3つ目は?』
『趣味だ』
僕はすぱっと断言した。
『例えばスポーツとかゲームとか宗教とか。やらない人間からすればバカに見えるもんだろ? でもやる。なぜなら楽しいからだ。僕にとっての恋愛やらセクハラなんてのは、おおむねそんなものだな』
その説明を聞いた妖精さんは非常にうんざりとした調子でつっこんだ。
『セクハラが趣味って、おかしくない?』
『おかしくないさ。拷問でも昆虫観察でも、なんでも趣味になりうる』
『マスターにとっての恋愛は肉欲とか見栄ではなくて、趣味そのものであると』
『それは少し違うな。僕の女へのアプローチは肉欲と見栄と趣味が1対2対3ぐらいの割合でブレンドされている。趣味そのものではない』
『え、そうなの?』
『そうだ』
妖精さんはううんと首をかしげた。
『送られてきた女の子を抱かなかったのは、愛のない行為をするのは趣味に合わない、からじゃないの?』
『違う。ことセックスに関する限り、僕は可愛ければ誰でもいい。あの2人は容姿だけならば十分に合格していた。人身売買や性奴隷を嫌悪するといった感覚は僕にはない』
『その理屈なら、あの子たちを抱かない理由がないのでは?』
『……ふうむ』
たしかに。
妖精さんの言う通り。
僕には村長から送られた据え膳を食べたい気持ちもあった。
しかし。
『それはできん。なぜならば童貞だからだ。童貞というのはそれを捨てる時に強いこだわりを持つ。女で言えば、あれだ。処女は最愛の人に捧げたいとか、つまりはそういうものだ』
女を抱くのはいつでもできる。
送られてくるのだから。
ウォーレンにとって、童貞を捨てることに障害など一切ない。
思い立った日が脱童貞。
誰がどう見ても、ウォーレンは女を抱くことに不自由する立場ではないのだ。
やればできる。
しかし。
やらない。
やる気が起こらない。
むしろあえて、やらないという縛りを自らに課しておく。
ようするに。
童貞というのは僕の趣味であった。
趣味である以上。
そこにはこだわりが生じる。
あてがわれた女を抱いて満足するような童貞は、断じて趣味人ではない。
僕が童貞をささげるべき相手は、親しく付き合っている美少女に限られる。
たとえば婚約者のノエル。
前世でもなじみの深いカルラ。
後はいつもそばにいる妖精さん。
そんなところだ。
もちろん処女であることが望ましい。
僕が童貞でさえなければ、別に処女でなくともかまわないのだが。
『あの、はっきり言っていい?』
『なんだ』
『正直すっごく気持ち悪いから、さっさと童貞捨てて欲しいんですけれど。私、こんな不気味なマスターについているのが情けないよ』
『勝手になげけ。お前には童貞の持つ悲哀はわかるまい』
童貞は苦しいものなのだ。
これをいかに鮮やかに。
すっきりと。
誇らしく。
パーフェクトな状況で捨てることができるのか。
男は常に苦悩する。
それが童貞だ。
商売女に金を払って捨てるなど、童貞の負け組もいいところ。
男の恥さらしそのものだと断言して間違いない。
…………いや、もちろん。
捨ててしまった後ではこだわりも消失し。
そんなことに悩んでいたという事実さえ、すっかりと忘れてしまうのだが。




