第10話「相談役をゲット」
「……終わりました」
「そうだな」
ノエルは剣をおさめた。
あたりは血の海だ。
泣き叫んで逃げまどっていた子供はもういない。
次々と足を折られて転がされ。
剣で突き殺されている。
狩りというには歯ごたえがなさすぎる。
そういう戦いではあった。
もう少し抵抗してもらえなければ、殺す側としても甲斐がない。
「思ったより簡単だったな。残りは後始末だけか」
「ちゃんと手ごわいのもいましたよ」
「ああ、話は聞いているぞ。突撃したそうだな。お前は後でおしおきだ」
「ええっ!? がんばったのに!?」
仰天するノエル。
するなよ。
あれほど何回も突撃するなと言ったのに。
言うことを聞かないやつだ。
今回はまだしも、勝ち戦だったからともかく。
「負け戦で今日みたいなことをしたらその日が命日だ。お前は槍働きを自慢するような立場ではない。以後つつしめ」
「難しいです」
「安心しろ。難しくなくなるように厳しく教育してやる」
「きょ、教育というと?」
「口では言えないようなことをするのだ。期待して待つがいいぞ」
「え! ええ!? 何かがおかしくないですか!? 私はがんばりましたよ!?」
ノエルは泣き顔になった。
袖をぐいぐいと引いて必死で抗議している。
しかし無視だ。
甘やかすと調子に乗る。
僕はさっさと先に進んで財宝探索をはじめた。
金貨や銀貨。
食料。
武具やら魔石やらゴブリン族の工芸品など。
粗悪ではあったものの。
それなりの数が集まったので、これで探索を追えることにした。
『ろくなのないなあ』
『ゴブリンだぞ。しかも最近できた集落だ。これでも頑張ったほうだろう』
『まー、そりゃそうなんだけど』
『お前としてはどうだ? 天敵のゴブリンが死んで嬉しいか?』
『うーん…………蚊とかが上手に叩き潰せて気分爽快ではあるものの、よく考えたら別に得したわけでもないよなーとか、だいたいそんな感じ』
暇つぶしの雑談をしつつ来た道を戻っていく。
そろそろ腹が減った。
食事を取りたいところだ。
料理の用意をはじめているそうなので、僕達はそこへと向かうことにした。
ゴブリンの集落。
中央広場。
目の前では正規兵たちがあわただしく動いている。
怪我人の運搬、治療。
物資集積。
死体処理。
魔石の採取。
休憩所の設営など。
やることはたくさんある。
本来なら雑兵の仕事だ。
ハンジュークの村から連れてきた民兵どもはへとへとになっているらしく。
だらしなく座り込んでいる。
ひどいな。
体力がなさすぎるだろ。
僕は顔をしかめ、隣にいる相談役のローリーに聞いてみた。
「あれは普通なのか?」
「そうですな。あれが普通です。もう少しペースを落として進軍するべきだったかもしれません」
「なるほど」
カルラも言っていたな。
軍隊というのはダメ人間の活用が大切だとか、なんとか。
一番弱い人間を基準にして考えて。
戦うのは無理でも雑用ぐらいは問題なくできる状態。
それが理想であると。
そういえば、少し前の夏。
近衛や村人を率いて山賊退治に出かけたことがあったが。
あの時には脱落者が出なかった。
村人が多かったからだ。
多数派である村人に合わせてゆっくりと進軍し、それで戦って勝った。
何も問題はなかった。
しかし。
今回は正規兵が多い。
350人の中の300が正規兵なのだ。
多数派である正規兵に合わせてテキパキと進軍し、それで戦って勝った。
結果。
連れてきた村人たちは体力を使い尽くし。
立ち上がることさえできていない。
なるほど。
今回はやや勇み足だった感があるわけだ。
部下を疲れさせた。
それは失態だ。
僕は指揮官なのだから、彼らの無様を怒れるような立場ではない。
むしろ非難される側ということか。
「すまないな。気配りが足りなかった。ゆるりとくつろいでくれ」
パンやスープなどを手に取って民兵に渡してやる。
彼らは答えなかった。
緩慢に首を上げ、後はうなだれている。
ううむ。
食事もとれないのか。
厳しいな。
150キロ状態のウォーレンよりもひどい。
魔力がなければこんなものなのか。
というか、一般兵というのはそういう存在なのかもしれない。
「1泊する必要があると思うか?」
「ありません。さっさと帰りましょう」
「彼らはどうする?」
「置いて行けばよろしいかと。すでにゴブリンの脅威はないのです。正規兵の手伝いをしながら回復し、そのうち帰ってくるでしょう」
「なるほど」
そういうものか。
まあ、もともと短期決戦の予定だったからな。
滞在の用意はない。
さっさと帰るとしよう。
しかし。
雑用もこなせないのでは。
使い道がないな。
民兵はいらないのかもしれない。
いっそのこと正規兵だけを連れてきたほうがよかったか。
うむ。
ローリーに聞いてみよう。
正規兵だけで編成される軍隊の是非はどうなのか。
「それはいかがなものかと」
「だめか」
「遠征軍であれば精兵のみで編成することもあります。なぜなら食料が限られているからです。しかし、ここは拠点の村が目と鼻の先にありますゆえ。輸送の手間がないのであれば最大兵力で動くのが当然です」
「ふうむ」
戦いは数だ、と誰かが言っていたが。
多ければいいのだろうか。
今回のケースの場合、単に足手まといを連れてきただけにも思える。
「役に立たないのであれば不要なのではないか?」
「そんなことはありません。彼らは攻撃を受けることによってゴブリンの腕力を減らせますし、おとりにも使えます。罠も踏みつぶしてくれます。自立稼働する肉の盾と考えてはいかがでしょう」
「…………なるほど。少なくとも無意味ではないのか」
倫理的にどうこうという話はともかく。
いるといないとでは大違い。
民兵とはそういうものらしい。
さらに言えば。
自分よりも圧倒的に弱い雑魚を置くことで、正規兵のやる気も出るそうだ。
「とかく、正規兵というものにはかわりが効きません。民兵にはかわりがいます。損耗を減らすためにも、最低でも半数ぐらいは民兵を入れた軍を編成するのが一般常識です」
「わかった。覚えておく」
僕は軽くうなずき、ローリーの評価を上方修正した。
なるほど。
ローリーは使えそうだ。
話がわかりやすい。
経験もある。
それよりなにより。
僕を操作しようとする者特有の湿った言い回しをしない点が素晴らしい。
優しさや思いやり。
それは人を操ろうとする人間が持っている善意の仮面である。
ローリーにそれはない。
少し話しただけでも十分にわかる。
彼の説明は簡潔かつ明瞭であり、常に要点をついている。
強いて言えば、分際を超えた立ち位置で助言をしている気もするが。
それはいい。
むしろそれでいい。
助言者とはそのようにあるべきだ。
口を出すだけの人間であれば、裏切られたとしてもこわくはない。
「ローリー。お前は今後もしばらく、僕についてまわれ」
「ははっ」
ということで、便利な相談役をゲットした僕は。
戦後処理のための人員だけを残し。
村へと帰ることにした。




