第9話「ハイゴブリン」
ゴブリンのガキが10匹。
いや。
違うか。
肌の色が違う。
ゴブリンは緑色。
彼らはライトグリーンの淡い色あいだ。
体つきも丸みを帯びているし。
全体的にどことなく人間の子供のようであり、不気味さはそれほど感じない。
ハイゴブリン。
人間とゴブリンの混血。
オスが4匹。
メスが6匹。
計10匹。
だれもかれも、おびえた顔をして泣いている。
ゴブリンにメスはいないが。
ハイゴブリンにはいる。
ハイゴブリン同士が交配した場合、4匹に1匹の割合で人間の女が生まれる。
それは混血ではない。
純粋な人間だ。
つまりここにいる子供たちは、半分ぐらいは本当に人間だということだが。
「皆殺し、ということにするか?」
「当然です!」
ノエルはいきり立って歯をむき、剣を抜き放った。
「育てて使うという手もあるが」
「冗談を言わないでください! こいつらはゴブリンの子供です! あそこで死んだ女の人たちが、私に殺せと言っている!」
そうだろうか。
殺された女は言葉を語らない。
自分の血を残してほしいと願うかもしれないし。
ノエルの言う通り。
殺してくれと願う場合もある。
真相は闇の中だ。
ならばもちろん、僕たちが決めたことが真実でいいとはしても。
ふむ。
なるほど。
復讐のこころを知ったか。
いい機会だ。
以前に頼まれていた問題も解決してしまうとしよう。
「ツバキを覚えているか?」
「はあ?」
「迷宮17層の聖域でお前が仲良くなった浄暗寺ツバキのことだ」
唐突に話題を振られたノエルは困惑しながらも首を縦にふった。
「もちろんです。忘れたことなどありません」
「ツバキも同じハーフだったが。お前は打ち解けてしまったな。こいつらのことはいいのか?」
ぎょっとした視線を向けられたが、僕はかまわずに続ける。
「ツバキを地上に連れ出せば、お前がその子供たちに向けているような視線を周囲から浴びることになる。お前、守ってやれるのか?」
「それは」
「その覚悟があるのなら、使いをやって引き取るように手配してもいい。できるできないはわからんが。少なくとも試してはやれる。しかしそれは、例えばお前が連れてきた武官のクエドーラやファイファイなどよりも優先してツバキを扱うということだぞ」
人は人と自由に付き合えるわけではない。
優先順位がある。
ノエルは自らに対して忠実な者に多くの情熱を割く義務がある。
ツバキも忠実だが。
純粋な人間に使う情熱よりもより多く、ひいきを必要とするだろう。
「ツバキは」
ガッ、とハイゴブリンの幼体に剣を突き入れて、ノエルは僕をにらんだ。
「こいつらとは違います!」
「そうだな」
たしかに。
ノエルの言う通り。
ハーフであるという点は同じだが。
ありとあらゆる点において、ツバキとゴブリンは異なる。
まず、魔族とゴブリンは違う。
魔族は人とは違うといっても知能が高く、魔力も非常に高い。
外見も似通っている。
文化的レベルも近いし。
言葉も通じる。
紅眼族人類ではないが。
人の一種ではある。
いっぽう。
ゴブリンは人ではない。
次に、現時点での能力がそもそも違う。
ツバキは人族の奴隷として育てられたその道のエキスパート。
なんでもできるし、使い道は非常に多い。
この10匹の中で最も優れた赤子を教育してもおそらくツバキにはなれない。
なれても10年はかかる。
育てるメリットが薄いという点で、魔族ハーフとハイゴブリンとは異なる。
そして、なによりも外見が違う。
愛玩奴隷としての扱いに耐えられるツバキの美しさは彼女特有のものだ。
白い肌も。
つややかな黒髪も。
細いが整った体や顔立ちも。
庇護欲をそそるための全てを、ツバキという少女は持っている。
一方のゴブリンだが。
みにくい彼らにそれは望めないだろう。
いびつな外見。
くさい体。
下品で知性もないモンスター。
動物愛護を叫ぶ者であっても蚊やらゴキブリやらを格別に愛したりはしない。
生き物にもランクがあるのだ。
外見の美しさは極めて重要な判断基準だった。
人を見た目で判断するな、などと言う者は多いのだが。
見た目以外で判断するのは時間がかかりすぎる。
軍人を見てもわかる。
正規兵でさえ、外見が優れていれば能力的に劣っていても採用されたりする。
当たり前だ。
人の上に立つ人間は決して暇人ではない。
外見ほど早く人を判断できる基準は他にない。
せいぜいが学歴と家柄。
しかし。
外見はそれよりも早く。
一切の前情報を必要とせずに、その場での判断ができるのだ。
ノエルはそれをした。
あの迷宮で。
この女の子には自分の傍に置く価値がある。
ツバキをそう断じた。
それは間違ってはいないかもれない。
容姿の美しさというのが人に求められる上でどれほど有利に働くか。
他ならぬノエルが一番それをよく知っている。
実際、見栄えは重要だ。
母親の側からしても。
人間に近ければ近いほど生んだ子供を認める可能性が高くなる。
ハイゴブリンを我が子だと認識する母親はあまりいない。
ツバキならいるだろう。
生んだ直後ならともかく。
あの容姿と能力を知ってからであれば。
魔族ハーフであっても我が娘であると認めてもらえる可能性は高くなる。
もっとも。
ツバキの母親は、物心つく前に死んでしまったらしいので。
全ては夢想の中なのだが。




