第8話「戦後処理をしよう」
「ここが本拠地か」
「これはウォーレン様」
「ようこそいらっしゃいました」
集落の中を進んで王の居住区に近づくと。
ノエルが連れてきていた武官があいさつを返してくれた。
ロングポニーな女の子がファイファイ。
で、赤髪の少年が、えーと、たしかクエドーラか。
男爵領の凄腕。
今回の戦いでも先陣切って突撃し、あっさりと大将首をあげたという。
……ノエルはおしおきだな。
あれほど突撃はするなと言ったのに。
やはりやったか。
まあ、攻撃命令がかかってからのことだから、軍令違反ではないが。
もうちょっと自分を大切にしてほしいところである。
「抜け駆けは楽しいものだが……お前ら、できたらノエルを止めてくれ」
「は、その、我々は」
「ノエル様を止める権限が、その、ありませんもので」
クエドーラとファイファイは申し訳なさそうに身を縮めた。
「いい。すまんな。無理なことを言った」
「いいえ! とんでもありません! 心配していただいてありがとうございます!」
武官の2人が勢いよく頭を下げてきた。
うーむ。
そうだよな。
本来の武官ってこんな感じである。
まともだ。
ごくごく普通。
ノエルの取り巻きをやっていたバカどもよりも年齢は低いのだが。
ちゃんと本家のほうで士官教育を受けられたということか。
「ノエルは中だな?」
「はい。ジーファン様と一緒です」
「わかった」
ジーファンはノエル付きの武官をやっている壮年の男性である。
それはどうでもいい。
ノエルだ。
薄暗い家の中。
剣を握りしめたままぷるぷる震えている。
声をかけるとびくりと身を固め、そして振り返って僕を見た。
「ウォーレン様」
ノエルの泣き顔が目に入る。
ひさしぶりだ。
彼女が泣いているのを見たのはいつ以来だっただろうか。
ケガでもしたのか。
それとも、誰かからいじめられたのか。
「何かあったのか?」
「それは」
言いよどむノエル。
彼女は何も言わずに道を譲って奥を指さした。
戦果を挙げた直後のことである。
笑顔で自慢するのがノエルらしい反応というものだが。
なるほど。
臭いでなんとなくわかった。
生臭い精液の匂い。
ここがどういう場所でどういう風景があるのか、見なくてもだいたいわかる。
奥を見てみる。
やはり。
女が5、6人。
ゴブリンにメスはいない。
だからあれは、ハンジュークの村からさらわれた人間の女なのだろう。
何人かはすでに死んでいる。
3人ほど生きている。
あざだらけの裸体の胸が空気を取り込むために上下しているのが見えた。
腹は大きい。
孕んでいる。
ゴブリンにどういう扱いを受けていたのかは一目で理解できた。
前世にはかなりの数。
ゴブリンに女の子がなぶられるのを見て楽しむという娯楽作品があったが。
ここもそんな感じだ。
というか、ものすごく痛々しい仕上がりになっている。
えろくない。
単にぐろい。
魔族とか人間に捕まった場合だと。
ちゃんと健康面とかファッションとかを考えながら女をいじめるのだが。
ゴブリンにそういう知能はない。
単なる孕み袋。
そんな感じの光景だ。
ノエルは涙を流して怒り狂い、ゴブリンの死骸に剣を突き立てはじめた。
「…………許せません! こんなの! 許されない!」
「少し落ち着け」
「でも!」
「生きてるだけまし、かどうかは知らんが。治療が先だ。運んで手当てをしろ」
「ははっ」
部下と女が出ていく。
ノエルの頭をぽんぽんと叩いてあやしてみた。
黙ってされるままになっている。
おお。
今回は避けないのか。
しかし戦地の真っただ中なので、いちゃつくのはまた後だ。
「探索は終わっているか?」
「まだです」
「僕が行こう。ノエルも来い」
「はい。お供します」
護衛やノエルと連れ立って、僕は村の探索を進めた。
ゴブリン王の居住区はそれなりに広かった。
道も広いし枯れ木や植物を組み合わせた家がそこら中にある。
ゴブリンの兵はいない。
みんな死んだ。
戦える者ならば抵抗するので、それは当然である。
「くさいな」
「ウォーレン様?」
「いるぞ。構えろ」
王の居住区。
中ほど。
木材のバリケードで封印された部屋が一つある。
出口はないのだが。
生き物はいるようだ。
護衛が剣を抜いて魔力をたぎらせるのを確認し、壁を蹴り破った。
バコン!
草壁を支えていた支柱が折れて内部があらわになる。
小さな生き物が10匹。
人ではない。
ゴブリンだ。
隠し部屋の奥で毛布にくるまり、身を寄せ合ってぷるぷる震えている。
「いたな」
僕はざっと子供の群れを確認し、殺すために剣を抜いた。




