第7話「討伐完了」
ゴブリンの討伐はあっけないほど簡単に終了した。
もしかしたら激しい抵抗を受けるかな、などと考えていたのだが。
そのようなこともなく。
妖精さん謹製の地図に従って敵の集落を取り囲み。
全ての道を封鎖し。
包囲して一斉に攻めかかったところ、容易く皆殺しにできた。
「あざやかな手並みです。ウォーレン様」
「そんなものか」
相談役のローリーが手放しでほめているが。
なんだかばかばかしいな。
戦えと言われた兵が進んで戦って、作戦を成功させた。
それは自動的だ。
僕の工夫が入り込む余地はない。
「皆殺しは困難とのことだったが、残敵を探すべきか?」
「いえ、おそらく……これは、全滅させられたのではないでしょうか」
「ふうむ」
「付近の地図はきわめて正確なものでした。包囲もうまくいきましたし、敵をきっちり囲めた段階で勝負はついていたかと」
なるほど。
戦いというのは準備さえ完璧なら、トラブルが起こらないのか。
まあそうだな。
戦況の変化に従って逐一指示を出す、などというのは現実的ではない。
そういうのは下級指揮官の仕事だ。
「被害はどれほどだ」
「さて……まだ不明ではありますが、もしかすると死者などは片手の数で足りるかもしれません」
「やはり出たか」
「民兵がおりますので。とはいえ、この種の戦いでは珍しいほどスムーズに事が進みました。ウォーレン様は誇ってよろしいですぞ」
それを決めるのはお前ではない、と言いかけたが。
まあいいか。
戦勝ムードに水を刺すこともあるまい。
叩き上げの男である以上、多少言葉の配慮が足りないのは当然というべきだ。
「視察に行く」
「やや危険ですが」
「この程度のことでいさめられては街中さえ歩けない。以後つつしめ」
「は、失礼いたしました」
ローリーが頭を下げている。
うむ。
いくら叩き上げでもな。
それぐらい最低限の礼節を持っていなければ使えない。
『でも、まだいるよ。10匹ぐらい』
『そうか』
『反応が弱いから、子供だと思うけど。一応気をつけて』
『わかった。どこだ?』
『あっち』
僕は護衛を引き連れて集落のただ中へと進んだ。
ゴブリンの死体がほうぼうで転がっている。
矢傷。
創傷。
バラバラ死体など。
ゴブリンはタフなので、どれも過剰なほど強くトドメが入れられていた。
禿頭。
全員がオス。
緑の皮膚と骨ばった体。
子供と老人と妖怪の餓鬼を合成すればこんな感じだろうか。
全体的に不気味な生き物である。
愛玩動物にはまるで向いていないため、捕虜にする意味はないだろう。
成体は1割ほど。
残りは子供のゴブリンだ。
子供といっても、異常に成長速度の速いゴブリンのこと。
彼らは一か月もたたずに立って歩けて戦えるようになる。
特に今回の場合。
栄養豊富な精霊蝶々をがつがつと食べたので。
夏から秋にかけての期間だけで、ほぼ成体と等しい状態まで育っている。
『普通はすぐ死んじゃうんだけどね、ゴブリン』
『そうなのか』
『うん。典型的な多産多死タイプの生き物だから。バカ食いするし、森の資源を食い尽くして餓死して自滅ってケースが多いかも』
なるほど。
ゴブリンの食欲を満たせるだけの環境がなければすぐ死ぬと。
そういうことか。
ゴブリンと人間の単体戦闘能力は互角だが。
農耕や道具制作といった概念を行う知能がないため、そこで差がついている。
集落を見てもわかる。
畑が一応あるが、雑草だらけの虫だらけ。
家屋は石と土で囲った塀に棒を通し、草を乗せただけ。
水路はない。
食料の備蓄も少ない。
人類なら若者10人もいれば上等の村を作れてしまうわけだが。
ゴブリンはバカなのだ。
人類との生存競争に勝てるだけの知能を、彼らは持ち合わせていない。
ゴブリンと人類の戦い。
その勝敗の帰結は、いっそ残酷なほどに数字で表れている。
人類は数十億人。
ゴブリンは数千万匹。
だいたい人間100人に対してゴブリン1匹という計算だ。
ここまで差がつけば、もはや逆転はできない。
たまに難を逃れたゴブリンが今回のような事件を起こすが、それだけだ。
組織としては活動できないレベルで駆逐され尽くしている。
ゴブリンは弱い。
数も多いとは言えない。
都会に住んでいればゴブリンを知らないまま生活することもできる。
そんなくだらない雑魚だった。
とはいえ。
ゴブリンは入れ替わりが激しいので。
田舎の村に住んでいれば、しょっちゅう目にするらしいのだが。




