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第6話「ナデポらず」

 2時間後。

 

「ウォーレン様、やりました!」


 森の脇道へと入っていったノエルはゴブリンの首をひっさげて帰還した。

 討伐数は20。

 結構な戦果である。

 自慢げに胸をそらして誇っているが、気持ちはわからなくもない。


「どうですか!?」

「さすがだ。えらいぞノエル」

「でしょう!」

「この首など、苦悶の表情を浮かべていて実にいい感じだな」


 つんつんとつついてみると、ノエルは嬉しそうに目を細めた。


「手ごわかったです」

「そうなのか」

「特にこいつは大物でした。でかかったです。体も魔力も」

「ゴブリンなのに?」

「ええ。ゴブリンなのに」


 ノエルはもっともらしくうなずいた。


「どうもこの一帯、ゴブリンの存在力が普通よりも高いみたいですね。精霊蝶々とやらの力でしょうか?」

「かもしれん」

「タフだし、しぶとかったです。私はがんばりました。ゴブリンは苦悶の声を出して抵抗しましたが、私もそれに負けずに奮戦し」


 頬を紅潮させたノエルが武勇伝を語っている。

 あまり興味がないのだが。

 機嫌を損ねる意味もないので、あいづちや質問を入れて話をつないでいく。


「という感じだったのです! すごいでしょう!」

「うん。すごいすごい」


 僕はぱちぱちと拍手をした。

 えっへん。

 そんな感じで胸を張り、ノエルは鼻高々だ。


 しかしあれだな

 ノエルはかわいい。

 超かわいい。

 屈辱にぷるぷる震えているノエルが一番かわいいが。

 調子に乗っているノエルもかわいい。

 抱きしめたくなってしまう。


 汗をかいているので肌がしっとりと濡れている。

 興奮しているのか顔が赤い。

 精気がみなぎっている。

 生命エネルギーがダイレクトに伝わって来て、圧迫されそうになるほどだ。


 運動したての女の子というのはエロいものである。

 できればこのまま本番に進みたい。

 体を寄せて。

 胸をもんで。

 二人の世界を作っていちゃいちゃとしちゃうのだ。

 珍々を挿入するのだ。

 ゴブリンの上に立つ人族の支配者として、繁殖に寄与するのだ。


 それは聖なる戦い。

 すなはち聖戦である。

 これを止めるなんて蛮族のすることだ。


 よし。

 やるか。


 とりあえず頭をなでて楽しもうと手を伸ばすと。


 ノエルはごく自然な動作でひょいと攻撃をかわし、部下の紹介をはじめた。


「彼らもほめてあげてください。男爵家が誇る精兵です」

「あー、うん」

「右がクエドーラで、左がファイファイです」

「ふむふむ」


 …………心の底からどうでもよかったが。


 つーか、僕のナデポアタックはどうなったのだ。

 なぜ避けたし。

 まさか魅力が低いから、僕からのアプローチは無効だとでも言うのか。


「奮戦ごくろうである。これからもよろしく頼む」

「ははっ!」

「ありがたき幸せ!」


 しかたがなく声をかけると、紹介された二人は元気よく返事をした。


 ふーむ。

 正直、ノエルに袖にされたショックが抜けていないのだが。

 それはそれとして。

 公平な目で見てみると、ずいぶんと骨のありそうな若者のようである。


 男女の2人組。

 年若い。

 十代の後半か、もしくは前半と言ったところ。

 しかし。

 頼りなくはない。

 帯びている魔力や存在感については、突き抜けて巨大である。


 すごい兵だ。

 魔力が高いし、顔つきもいい。

 肌のツヤ、目の輝き、筋肉の付き方など。

 どこからどう見ても一流。

 うちの近衛兵と比べてもそん色ないレベル。

 スークス男爵家でも有数の精兵と見て相違ないだろう。


 正直なところ、ノエルごときにつけるにはもったいないぐらいの兵だが。

 僕の婚約者だからな。

 男爵家の次女に対する付き人ではなく。

 侯爵家の婚約者ノエルに対して与えられた付き人だ。

 優秀なのは当然か。


「うむ、礼儀正しいな。以前とは大違いだ」


 僕が正直な感想を漏らしたところ。

 男爵家の武官2人はそろって顔を見合わせ、不安そうな表情を浮かべた。


「ははっ? そ、その、我々になにか至らないところがありましたか?」

「いや。おまえたちではない。こちらのことだ。ノエルには昔、ひどいやつらを紹介されたことがあってな」

「あ、あれは忘れてください! 若気の至りだったのです!」


 ノエルが顔を赤くして手をぶんぶんと振った。


 あれだけインパクトの強い事件はなかなか忘れられないが。

 まあいいか。

 終わったことだし。

 最近は少しずつ常識的になってきているノエルなので、特に問題はあるまい。


「凄腕の兵のようだが。お前たちから見て、どうだ。ゴブリンの強さは?」

「私ならば問題にもなりません。しかし」

「うむ」

「一般的には手ごわいです。数だけは200とのことですが。実質的な戦力は並のゴブリン500匹ほどにもなりましょう」

「なるほど」


 思ったよりも手ごわいというわけか。

 ゴブリンと人間はほぼ互角。

 それが精霊蝶々とやらの力でワンランク上の存在になっていると。

 そんな感じだな。

 現実には装備や訓練などの差があるし、こちらは正規兵だらけの軍隊だ。

 負ける要素はないが。

 多少の被害が出ることは覚悟するべきかもしれない。


「おい、ローリー」

「ははっ」


 僕は先に隊長から抜擢した相談役を呼び寄せて、今後の予定を尋ねた。


「どうも今回、敵の強さはゴブリン500ほどだと考えておくべきらしい。作戦の変更はあるか?」

「ありません。押しつぶすべきです」

「このまま進んでよいのだな」

「はい。正規兵300もいればゴブリン10000匹とでも対等以上に戦えます。たかが500。慎重さを求められる局面とは言えませぬ」


 それはそうだ。

 敵は最弱の魔物とさえ言われるゴブリンども。

 作戦なんていらない。

 そういうのは弱い側が考えるべき小細工。

 前提として敵を圧倒できる兵力をそろえている以上、あとは戦うだけか。


 僕たちは兵を展開させ、ゴブリンの集落を囲んだ。

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