第5話「突撃しないで、ノエルちゃん」
出発に先立って、ハンジュークの村で兵士の募集を行う。
給料を高めに設定して高札を立てたのだが。
三日待ってもほとんど人が来ない。
村の人口は3000人。
戦闘に耐えうる人材は300人程度。
正規兵として雇えるほどの人材だって30人ぐらいはいるはずだが。
「応募者が来ませんね」
「そうだな」
「ちょっと焚きつけてみます。戦えそうな人を集めてもらってもいいですか?」
「好きにするといい」
広場に村の若い衆を並べてノエルが喝を入れた結果。
なんとか50人程度の兵隊が集まった。
さすがはノエル。
人気者だ。
僕とは違って外見が愛らしいので、宣伝効果はバッチリということか。
「少なくないですか?」
「戦闘を経験した村ならこんなもんだ。ピュアな村とは違うさ」
なにせ、彼らはすでにゴブリンと一戦交えている。
戦いの恐ろしさを知ってしまったのだ。
死んだらそれまで。
何も残らない。
世の無常を理解するための犠牲者は、数十人もいれば十分なのだろう。
「強制徴募するべきでは?」
「そこまでは必要あるまい。たかがゴブリンだ。現状で十分勝てる」
ゴブリンは弱い。
人よりもずっと装備と頭が弱い。
数だけは多いが、それも短期間で急に繁殖したタイプの群れだ。
脅威にはなりえない。
ゴブリンが恐ろしいのは国を作った時だ。
彼らは頭が悪い。
しかし並のモンスターよりもはるかに頭がいい。
モンスターの中でも比較的かしこい猿型タイプの魔物よりも、さらに。
場合によっては多種族を支配して使役し、文明を生み出すことさえある。
武器。
集団戦法。
毒。
罠。
防御施設など。
単体では雑魚でしかないが。
群れれば群れるほど危険度が飛躍的に上がる。
そういうタイプの魔物だ。
ある意味では人間にもっとも近いと言える。
戦力比で言っても、およそ1対1。
ゴブリン1匹と人間1人は互角である。
だいたい人間の子供や老人なんかが普通のゴブリンと互角に戦えて。
育ち切ったゴブリンと成人した男女が互角に戦える。
ゴブリンソルジャーみたいな選ばれしバケモノの場合は、一般兵と五分五分。
ゴブリンヒーローとかみたいな怪物級の場合は、正規兵クラスとなる。
一般のファンタジー小説では正規兵というのはやられ役であるが。
ここでは違う。
普通にめちゃくちゃ強い。
だいたい100人に1人。
それが正規兵になるための強さ条件だ。
もちろん、なれるから正規兵になるというわけではない。
他に仕事がなく。
性格的にも戦闘に向いていて。
人に頭を下げられて。
ある程度の運やコネを持ち合わせていなければ、正規兵はつとまらない。
実際に正規兵になるのは、1000人の人口で2、3人とも言われている。
今回の討伐部隊には、その正規兵を300名ほどもそろえた。
敵はゴブリン200匹。
ゴブリンヒーローが200匹ではなく。
普通のゴブリン200匹だ。
負ける要素はない。
「ウォーレン様、準備が整いました」
「わかった」
僕たちは森へと向けて出発した。
集落をつくったゴブリンを焼き討ちするだけの簡単な仕事なのだが。
ノエルのやる気がすごい。
気迫がみなぎっている。
突撃は私に任せてくださいなどと、もうすでに心は戦場に置いてあるようだ。
「突撃の必要はない。足並みをそろえろ」
「難しいです」
「難しくない。簡単だ。そもそもお前が戦う必要などないのだぞ?」
たかだか200程度のゴブリン軍団ということだし。
被害を度外視すれば正規兵30名程度でも十分に討伐できる。
ノエルの出番はない。
「嫌です。戦います。それがスークス男爵家の伝統です」
かたくなだ。
まあ、ノエルらしいか。
今回はお付きの部下を5人ほども連れてきているし。
ぶっちゃけノエルの手勢だけでもゴブリン軍団といい勝負ができると思う。
「できれば私の部隊に一番槍を任せてほしいのですが」
「だめだ」
「そこをなんとか」
「お前の交渉力はゼロだな」
「どうしろと?」
「ウォーレン様。ノエルちゃんの健気なおっぱいをもみもみしてほしーの、とエロい感じで迫ってみろ」
「脳は正気ですか?」
フラットな表情でノエルがつっこみを入れてきた。
ひどい。
ちょっとした冗談なのに。
「そこは顔を赤くして嫌がれよ。セクハラのしがいがないだろ?」
「最低ですね」
「行軍中の潤いのなさを埋めようとしているだけなのだ。このピュアな少年の心をわかってくれ」
「見下げ果てた人ですね」
「わかった。わかった。降参だ。戦う機会をやるから機嫌をなおしてくれ」
僕は懐から付近の地図を取り出し、ペンで黒マルをつけた。
「ここにいけ」
「これは?」
「ゴブリンの別動隊がいる、かもしれない」
「ほんとに?」
「そういう報告があっただけだ。今もまだいるとは限らんが」
「わかりました。やってみます」
ノエルは手勢を率いて去っていった。




