第4話「討伐準備をしよう」
一晩経つと、ゴブリンの死体が腐りはじめていた。
死肉をあさる夜行性のジャッカルなんかが食べてくれたのだが。
多すぎて減りはしない。
当然か。
放っておくと風化して空気に紛れて人の肺に入る。
疫病を引き起こす原因にもなるので、まずは埋めることにした。
兵士を動員して穴を掘り、ガンガン放り込んで上から土をかぶせる。
それだけだ。
別に工夫も何もない。
単調極まりない作業なので、さっさと人に任せて切り上げることにした。
僕は近衛数名と軍の隊長たちを集め、作戦会議を開いた。
「ハンジューク村付近一帯のモンスターを討伐することになった。そのやりかたについて、各々意見をのべよ」
「まずは討伐の目的について説明していただきたい」
年かさの隊長が僕を見て言った。
白髪赤目。
やせ型で筋肉はそれなり。
年齢は50代ぐらいか。
コネが一切ないので出世はできなかったが、能力はそれなりにあるらしい。
「目的は治安維持のためだ。もう一つあるが、そちらは教えられない」
「治安維持であれば守りを固め、柵を増強し、兵を50も残しておけば十分かと思われます。それ以上の対応は必要ありますまい」
「それだと不安が残る」
「不安とは」
「魔物がはびこる現状に対する不安だ。この一帯からモンスターの脅威を残らず払うためには討伐隊を編成して狩りをする必要がある」
年かさの隊長は僕をまっすぐに見つめ、そして顔をしかめた。
おお。
すげえな。
僕に嫌われることをまったく気にしていない。
さすがは叩き上げ。
なめられていると言えないこともないが、実直で優秀ではありそうだ。
「非効率です」
「その通りだ」
「もう一つの目的が何なのかはともかく、500もの兵を張り付けてやることとは思えませぬ」
「僕もそのように思う」
「軍の活動費は高価なものです。放っておけば状況が推移して狩りやすくなるものを、わざわざ無理をしてまで戦う必要を感じません」
「かもしれぬ。しかし、これは他の作戦との兼ね合いもあるものだ。この場所にもうしばらく滞在する必要がある以上、浮いた時間で治安維持を行うことはそれほど非効率でもあるまい」
「……承知いたしました。それで、戦術的な目的といたしましては?」
そのように問いかけられたので、僕はうなずきを返し。
妖精さん謹製の巨大な地図を広げた。
「細かいところまで見えるか?」
「問題ありません。ずいぶんと……正確な地図ですな」
「うちの諜報部は優秀でな」
「話は聞いております」
「それで、ここがハンジュークの村。この一帯がカルマムーンの森。点在する避難済みの村と、魔物の拠点となっているダンジョン。あとは砦か」
僕は教師よろしく棒でぴしぴし地図を叩き、予定を説明した。
「戦術的な目的は各地の村から魔物を追い出すこと。ダンジョンに進軍して5層あたりまで間引きを行うこと。カルマムーンの森にあるゴブリンの集落を焼き討ちすること。この三点となる」
「集落の発見は終わっているのですか?」
「もちろんだ」
おお、と作戦会議室にざわめきが満ちた。
そりゃそうだな。
物見も出していない段階で敵拠点が判明しているのだ。
妖精さんサーチの力はつくづく強力だと思う。
「それならば、私も討伐に賛成いたします。敵拠点さえ明らかならば攻め滅ぼすべきでしょう」
「うむ」
食料の貯蔵さえ焼いてしまえば、あとは滅びるしかない。
ゴブリンだって食うのだ。
食えなくなれば死ぬ。
どんな生物にも当てはまる鉄則である。
「準備ができしだい出発となりますが」
「そうだな。気持ち悪いゴブリンどもを皆殺しにしてやろう」
僕としては意気込みを語っただけだったが。
無謀に聞こえたらしい。
軍の隊長たちは困ったように顔を見合わせて進言した。
「皆殺し、は現実的ではないかと思われます」
「知っている」
「打ち漏らしを出さずに戦いが終わることはありえません。ほどほどのところで満足していただければと」
「わかっている。できなかったから処罰するなんてことはない。精神論に対して現実味を説かれても困るのだが?」
「失礼しました」
叩き上げの隊長が素直に頭を下げた。
ふむ。
まあ、僕は若いからな。
当たり前のことを説明されるのはしかたがない。
バカにされている気もするが。
むしろ親切でありがたいと思っておくべきだろう。
「運用に対する意見を述べよ」
僕が話を戻すと、白髪頭の隊長が地図を指さしながら率先して発言した。
「まず、兵300を割いてゴブリンの集落に進軍し、残りの200でカルマムーンの森に点在する村を一つずつ解放していくべきかと。精兵を30名ほどねん出してダンジョンに先行させ、内部の調査などもやるべきかと考えます」
「軍をわけるのか」
「はい」
「全軍で向かう必要はないか?」
「相手が同数なら当然そうすべきでしょうが、ゴブリンの戦力は我々より圧倒的に劣ります。森で戦うのであれば多人数は活用できません。戦術単位は小さければ小さいほどいいです」
「なるほど」
そんなものか。
それでも全力で潰すべきな気もするが。
本職の言うことだ。
ここは従っておくとしよう。
「その作戦でいくとして……僕はどこを担当するべきだと考える?」
「主力についてはウォーレン様に率いていただければ」
「ゴブリン退治か」
「はい」
「僕は軍隊運用の経験がない。ダンジョン探索については極めて得意としている。ダンジョンの方にまわるべきではないか?」
「おそれながら」
白髪頭の隊長が僕をまっすぐに見ながら進言した。
「やはり大将が率いてこその精鋭。ウォーレン様には最も難しい場所を担当していただきたいと考えます。そもそも、兵の多くはウォーレン様のことをよく知りませぬ」
「そうだな」
「衆人の目に触れるところに配してこそ王は輝くのです。ウォーレン様が担当するべき場所は他にはありませぬ」
「わかった」
ずいぶん誠実だな。
自分がやってみせよう、とか言い出したら遠ざけるつもりだったが。
こいつなら傍に置いて使うのもいいかもしれない。
忠誠心はそこそこ。
態度は不遜。
コネがなくて政治力も皆無。
僕に苦もなく発言できる点などは狂人めいてさえいる。
しかしそれだけに、戦術的な助言のためだけならば使いでがありそうだ。
「お前、名前は?」
「ローリーと申します」
「よし。ローリー。お前、今日から僕についてまわれ」
ということで、僕は討伐部隊の編成を少しだけいじることにした。




