第11話「あなたは神を信じますか」
司祭さんと別れて次の仕事場に向かう道中。
妖精さんが体から飛び出て、ひらひらと僕の傍を舞った。
『そーいえばさ』
『なんだ?』
『君って神とか信じてる?』
『それは僕たちをこの世界に転生させた超常存在のことか?』
『違う違う。そーじゃなくて、人を見守って善に導いてくれる普通の神様のこと』
『もちろん信じている』
何を当たり前のことを。
誰でもそうだろ。
いや、カルラなんかは頑固な無神論者であるようだが。
僕はそうではない。
名前のついた神を信じたりはしないが。
どこか遠いところにいる、なんとなく大きな霊的なものは信じている。
宗教というのは神を感じ取るための補助装置のようなものだ。
神はどこかにいる。
しかし見えはしない。
だから自らの魂でもって神の姿を探して。
それと繋がることで心の救いを得る。
信仰とはそういうものだ。
僕の返答を聞いた妖精さんは意外そうな顔をした。
『そうなの?』
『そうだ』
『神様を信じてる割には、無茶苦茶やってるように見えるけど』
『そうか?』
『うん。なんてゆーか、地獄に落ちるのを全然おそれてない感じがする』
『それはもちろんだ。僕にはやましいところなど一つもない。地獄に落ちるわけがないだろう』
『え……虐殺した民間人とか、いじめた相手に向かってもそれが言える?』
『言えるとも。僕は悪いことなど何もしていない。僕の行いはそのすべてが正義に基づくものだ』
ショックを受けたような顔で妖精さんが固まった。
『ま、まじで?』
『僕は大まじめだ』
『冗談とかじゃなく?』
『なにが冗談なのだ』
『な、なにがって……私はマスターの神経の図太さにあきれるよ。どうやったらそんな風に育つの?』
『人として正しく育てば僕のようになる』
『え、ええええええ』
妖精さんがおそろしいものを見るような表情で僕を見た。
なんでだよ。
快楽目的の殺人とか無意味な大量虐殺とか、僕はしたことないだろ。
僕は確かに、人を殺しはする。
いじめもする。
必要と不必要とを選んで切ったり捨てたりする。
だが、それとは別に。
この世界に生きるみんなが幸せであることを祈るのは、人としての必然だ。
汝の隣人を愛せよ。
部下を愛せよ。
友人を愛せよ。
それらは全て正しい。
自分の境遇を恨んで世の不幸を祈るような人間は、品性下劣といっていい。
サイコパス、などという言葉がある。
精神に異常を持った人間をそのように表現するらしい。
社長や弁護士、警察官、聖職者、公務員などにサイコパスが多いという。
おかしな話だ。
社長にサイコパスが多いというのなら、それはサイコパスのほうが正しいのだ。
普通の方が多いから普通が正義だとねじまげているだけで。
事実はそれとは異なる。
庶民にとって、正義とは多数派のことである。
だから僕は正義ではない。
当たり前だ。
多数決で決めればそうなる。
一人だけ正しければ間違っているのと同じことにされる。
彼らには精神異常者と高い知能を持った人間の区別などつかないのだ。
人と違えばサイコパス。
優秀ならばサイコパス。
人を多く救い、人の100倍の仕事ができればサイコパス。
庶民とはそういうものだ。
彼らの判断基準には論理など必要ない。
犯罪者の100%はパンを食べている。
だからパンには人を犯罪者する物質が含まれている。
それが庶民理論だ。
まともに聞くには値しない。
いわゆる専門家の見解などもこれに類するものだ。
未来のことがどうなるのかなんて、ほんらい誰にもわかりはしない。
『でも、君って行動指針とかあるじゃん? 未来がわからないんなら何を基準にするの?』
『それは歴史と本能だ。過去にあった事件を参考にすれば、似たような状況がどのように推移するのかはだいたい予測できる。確率の誤差はあるがな。わからないときは本能によって決める』
『本能って?』
『自分でしたいことをするのだ。わからないんだから、そうする他にないだろ』
『専門家の意見は当てにならないの?』
『あれは後ろについている利権団体の代弁者だ。願望を入れて予想するから意味がわからなくなる。もちろん利害のない範囲で参考にはするが、公平に予想するなら自分でやるしかない』
自分で判断できないなら、人から操作される人形になるだけだ。
それは誰にとっても避けられない。
僕もそうだ。
僕の行動の9割以上は他者の意向によって決定されている。
自分らしく生きる、なんてのは不可能。
できるだけそうありたいと思うが。
人は与えられた環境の中から選択肢を選ぶというだけで。
選択肢自体を作り出せるほどの怪人なんて、世界にもほとんどいない。
『異世界トリップものの主人公ならなんでもできるだろうけどな。僕には無理だ。僕には単独で世界の何割かを相手にして戦える力はない』
『あー、そりゃ、まあ、究極の戦闘力チートがあれば何でもできるからね』
『一番いい条件の転生者だと、単独で何人ぐらい倒せるのだ?』
『うーん……条件にもよるけど。君の近衛を全滅させるのは無理だよ。戦闘力極振りで、フィルさんとかサディアスさんクラスを2人ぐらいならなんとか。3人だと厳しいかな』
『その程度か』
それでは主人公にはなれんな。
おそるるに足らん。
『あー、でも、完璧なスキル構成だったら状況によっては真正面から10人ぐらいはいけるかも。現実味はないけどね』
『真正面から10人か。それは驚異だな』
『そんな人はいないよ。理論上可能ってだけで。確率がゼロに近くてもよければ君だってできるはずさ』
『僕は1対1でも勝てんが』
『だから、理論上はってだけ。体力200で戦闘スキルを5つぐらい取ってて、元が健康で度胸があって、君クラスの魔力を持ってれば……勝率5割で、まあ、2人ぐらいなら、なんとか?』
条件がタイトすぎる。
そんなやつはいないか。
そりゃそうだ。
クラスメートは40人。
奇跡を期待するにはあまりにも少なすぎる数だ。
改めて確信する。
設定チートを使って作った僕というキャラは、異世界転生した中で最強だと。




